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 僕と弥鱈さんが四人くらい寝られそうなバカでかいベッドに正座して、僕はスッキリしすぎて逆に居心地が悪い下半身を気にしながら、弥鱈さんと向き合っていた。

 結局五分どころか三分で紙袋片手に帰ってきた弥鱈さんは、三分間ソファで固まったままだった僕を小脇に抱え、そのまま風呂場に近いトイレに僕を放り込んだ。呆気にとられている僕を残して扉を閉め、ガラス越しに「ウォシュレットを使う方法が一番手軽なんだそうです。水が透明になるまで繰り返してください」と指示して自分はさっさシャワーに向かっていく。
 え、待って。僕洗浄の練習まだしてないんですけど。
 便座に座ったまま呆然としてると、僕の前で弥鱈さんは躊躇いなく服を脱ぎ、シャワーを浴び始めた。着痩せするタイプらしく、男でも見惚れるくらい出来上がった体に水が滴っていく。弥鱈さんは等身のバランスも良いから、シャワーを浴びる後ろ姿だけでもめちゃくちゃエロくて、何だか映画のワンシーンみたいだった。
 弥鱈さんの裸を見るのは初めての経験で、ちょっと感動しながらまじまじとトイレのガラスドア越しに観察してしまう。背中の下の方にある筋肉ってどうやったらあんなに付くんだろう、とか思ってる間に弥鱈さんのシャワーは終わってしまって、タオルで雑に身体を拭った弥鱈さんは、備え付けのバスローブではなく自分が着ていた服に再び袖を通していた。
 そのまま着込んだ上とは対照的に、下着だけ履いて終わらせた下半身が妙に生々しい。普段女の人とかセックスとか、そういう性的な匂いを全くさせない弥鱈さんだからこそ、いかにも今からヤりますって格好はギャップが余計にエロくてドキドキした。
 
 ただ、そんな死ぬほど格好いい弥鱈さんは便座の上でボーッとしてる僕を見るやいなや「シャワーヘッドつっこまれたいんです?」と地獄のような低音で脅してくる。
 そして全力で首を横に振った僕に、ガラス越しの腸内洗浄指導をしてきやが……くれた。

「はい、排便の時みたくにそこでリキむー」「腸内の水を全部出しきるつもりで踏ん張りましょー」

 なに? 監督? って感じの指示を飛ばされつつどうにか洗浄を終えて、僕はフラフラしながら弥鱈さんの居るベッドに上がる。
 洗浄って下痢した時みたいに腹が痛むのかと思ってたけど、案外痛くはなかった。ただ、ガラス越しとはいえ弥鱈さんにほとんどトイレする時と同じ動きをしっかり見られてたのかと思うと、罪悪感とプライドがしっちゃかめっちゃかになって色々と精神的にゴリゴリ削られていくようだった。

「お疲れさまでした」
「はい……あの、僕もシャワー……」
「梶様、私の髪、もうすっかり乾いてしまったんですよ。この意味が分かりますか?」
「あ、はい……お待たせしてしまいすいません……」

 弥鱈さんからの圧につい流されてしまう。潔癖症だってさっき自分で言ってたけど、シャワー入ってない身体を触るのは良いのかな。疑問だったけど、弥鱈さんの手が伸びてきたらもう何も言えなかった。
 チラっと弥鱈さんの方を見ると、ベッド脇に車から持ってきた紙袋が置かれていた。中が見えないように茶色の紙袋に入ってるのがいかにもアダルトグッズって感じだ。店で買ったのかとか、どんな顔で買ったんだろうとか、考えるだけでまた顔が熱くなりそうだった。

「そんな早く使われたいんですか?」

 鼻で笑われる。視線に気付かれてたらしい。慌てて「違います」と言っても、僕の目は紙袋から外せないでいた。
 弥鱈さんが紙袋を掴み、上下をひっくり返す。ボダ、とベッドに落ちてきたのはベーシックなオレンジ色の蓋をしたローションと、某有名メーカーのロゴが入ったコンドームだった。へー初めて見たパッケージだけど弥鱈さん薄いやつが好きなんだなぁ~と最初は状況のやらしさより新しい弥鱈さんの一面が知れたことが嬉しくて軽い気持ちで見れてたけど、コンドームに書かれたサイズを確認した時、僕の喉はバカ正直に「ひっ」と短い悲鳴をあげた。

「め、メガサイズ……」

 パッケージに書かれた直径を思わず指で再現してみる。冗談だろって言いたくなるほどポッカリと真ん中が空いた大きな丸が出来た。指で作った丸の向こうで、コンドームの箱に書かれた象がこっちを睨んでいる。そりゃ象が描かれるくらいだからそうだよな、って感じになってきた。

「メガですか弥鱈さん……」
「別に太さはないんですけどね。少々普通より長いようで」
「り、立派なモノをお持ちで……」

 チラと弥鱈さんの下半身を見る。まだまだ臨戦態勢って感じじゃないけど、すでにパンツの布が盛り上がってて存在感があった。あの下にメガサイズ……と考えてサァーっと身体中から血の気が引いていく。えっ、そんな長いもの入るの? 太くないらしいからイケる? でも長さってどこまでお尻は許容できるものなの? やばい……ケツ切れるかな……切れるよな……。

 頭の中に裂けたちくわの映像がフラッシュバックする。『あぁ、次は僕の番か』とベッドの上で力なく思った。

 何もしてなくてもここですよーって主張してるあのちんこが、勃って膨れたらどうなるのか。考えるだけで怖い。ちゃんといじらないと行為に慣れてても尻は裂けるって書いてあったけど、それをいうなら全部が初体験の僕の尻なんてさけるチーズばりに裂けるんだろう。いや、面と向かって「いきなり突っ込むつもりです」なんて言われたわけじゃないけど、だって弥鱈さんだもんな。人が挫折して這いつくばってる無様な姿を見るのが好きって公言しちゃうような人だもんな。僕よく地面に転がってるし、自信満々より惨めな姿でいる方が自分で言うけど似合ってるし。弥鱈さんの好みドンピシャだ。
 きっと弥鱈さんが一番興奮するような、惨めな姿を晒しまくって僕は抱かれることになるんだろう。いや、分かりますよ。僕だって僕みたいなフッツーの成人男性抱けって言われたらガンガン適当に扱いますもん。絶対頑丈だし。可愛い女の子だったら可愛いねーとか言って煽てて慣らしてやる気にもなるだろうけど、僕をそんな風に大事に扱うメリットってないし。

「あの、お手柔らかに……」
「はい?」
「いや……精一杯努めさせていただきます。なので、あの、出血したら止めてください……」

 ベッドの上で深々と頭を下げたら、弥鱈さんのほうから「出血してる人とセックスなんてしません」って素っ気ない声が聞こえてきた。そりゃそうか、弥鱈さん、潔癖って言ったもんな。
 伸ばされた手が僕の肩をさわっと撫でる。梶様、と呼ばれて弥鱈さんの方へとにじり寄ると、まずは手始めにって感じでキスをされた。
 ちゅっちゅっ、と自分たちには似合わない可愛い音が部屋中に響いている。口にしたり、ちょっと外して頬にしたり、遊ぶみたいに鼻やデコにしたり、気持ちいいってよりはくすぐったい。
 軽く肩を押され、促されるままベッドに寝転ぶ。上に弥鱈さんが覆いかぶさって来て、沈むマットレスの上で僕たちは初めてしっかりと抱き合った。
 身体を密着させたまま軽いキスを繰り返す弥鱈さんは、思ったより甘えたというか、普段のイメージより甘いプレイが好きなようだった。もしかしたら、あまりに僕が緊張でガチガチだから手加減してくれてるのかもしれない。そんな訳ないと思いつつ、もしそうだったらちょっと嬉しいなとも思った。
 ちゅ、ちゅ。耳元でリップ音が聞こえる。耳たぶにキスしてるっぽい。くすぐったくて笑って身をよじる。
 ちゅっちゅっ。今度は反対側。耳の軟骨を舌でなぞられてソワソワする。
 ちゅう。口に戻ってきた弥鱈さんが、僕の唇を軽く吸う。僕の身体を苦しいくらいに抱きしめて、僕の顎に指を添え、もう片方は首筋をゆるゆると撫でている。

「ん、むぅー、ん?」

 頭がぽわぽわする。何かでキスすると人間はクスリをやった時と同じくらい脳内麻薬が出るって聞いたことがあるけど、アレも嘘じゃないかもな、なんて思った。なんだか雲の上にいるみたいだ。乗ったことなんてないけど。僕ドラゴンボールじゃないし。

「ぷはっ……弥鱈さん、キス好きなんですか?」
「普通です」

 そう言いながらまたキスされる。これは好きな人の頻度だと思うけどなァ、なんて思ってたら、弥鱈さんの舌が僕の唇を突いてきた。ねじ込むんじゃなくて『開けろ』っていうみたいにトントン舌先でノックしてくる。何だか律義で、ちょっと面白かった。
 くく、と喉で笑ったら間近にあった弥鱈さんの目がギロッと僕を睨んでくる。
 あ、すいません、調子乗りました。
 おずおずと口を開けると、待ってましたとばかりに舌が入り込んできた。僕がケツを洗ってる間に歯磨きしていたから、ちょっとミントの味がする。なんていうか、ビールを飲んだままの口で弥鱈さんとキスしてるのが申し訳なくなる。歯磨いてきて良いですか? って言いたかったけど、口を離そうとすると弥鱈さんの手が頭を押さえて動けなくなるから、言えないずにずっと口の中を弄られていた。

「んっ、ぅ、ふ、んんっ……」

 弥鱈さんの薄い舌が口内を探る様に撫でる。歯の並びを舌先で確かめて、僕の舌を絡めとっては擦り合わせてくる。さすがシャボン玉を作れるだけあってすんごく器用だ。

「むぅ、ん、ん」

 舌と舌のザラザラさがこすれて気持ちいい。目元が蕩けたきた僕をみて、弥鱈さんが満足げに目を瞑った。
 息が詰まりそうになるけど、苦しいと思う一歩手前くらいで口を離してくれる。そして呼吸をして、ちょっと息が落ち着いたらまた再開。息は苦しいけど、あったかい舌が気持ちよくて、なんかもう歯磨きとかどうでも良くなった。
 とにかく離れてほしくなくて、だらっと開いた口から舌を思い切り突き出す。そうしたら弥鱈さんは突き出した僕の舌をぢゅって強く吸って、ちょっと歯を立てた。

「んんっ」

 甘噛みされて身体に力が入る。ぐにぐにと触感を楽しむみたいに甘噛みしてくる弥鱈さんに、はふはふ息が上がってたらまた口を離された。軽く息を吸って、また噛んで、って気持ちを込めて舌を出す。弥鱈さんが甘噛みする。舌で遊びながら、後頭部を抑えていた弥鱈さんの手がそわそわと僕の頭を撫で始めた。

 ここら辺でなんとなく僕は気付き始めていた。
 もしかしたら弥鱈さん、今日は結構丁寧に僕を抱くつもりかもしれない。

 いや、元々の性格を思えば、セックスが丁寧なこと自体は別に驚きでも何でもない。何だかんだ面倒見良いし、戦ってる時とか体の使い方が上手いし、立会の仕事に対してもすごく丁寧だから。
 基本的に真面目で几帳面な性格だから、その延長線にセックスがあるんだと思えば自然な流れだ。ただ、僕にもその丁寧さが適用されるとは思ってもみなかった。『え? 梶様? あーいきなり突っ込んだらどれくらい惨めな顔するんでしょうねケケケ』ってスタンスで来ると思ってた。だからまさか、こんな女の人にするような甘ったるいスタートを切るとは思ってなくて、すごくフワフワするし、気持ちも盛り上がってくる反面、『僕相手にその丁寧さを出してくるとは……』と驚いてもいた。

 頭を撫でていた弥鱈さんの手がゆるゆると下に降りてきた。首を撫でて、肩をなぞって、胸辺りを服の上から揉みしだく。もちろんおっぱいなんか僕には無いから、多分揉み心地なんてあってないようなもんだけど、弥鱈さんの手は何が楽しいのか数回揉んで、また下に移動していった。
 弥鱈さんの掌が僕の腹や腿を服越しに撫でるたび、ぞわぞわと背筋に何かが駆け上がってくる。ちんこをいじった時みたいな脳にガツンとくる気持ちよさじゃなくて、マッサージを受けてる時みたいな、じわじわ頭の中が解けてくような感覚が広がる。
 気付いたら体中の力が抜けていて、僕はタコみたいにくたぁ、っとシーツの上に伸びていた。

「はぁ……」
「良いですねぇ、その顔」

 脱力した僕を見下ろして、弥鱈さんが楽しそうに言う。

「顔?」
「ご自分で分かりませんか?」
「えと、ひどい顔してます?」
「梶様のひどい顔は見慣れていますので」
「ちょっと」

 今それ言います? と突っ込もうとするけど、頭が溶けてて、腕の上げ方がよく分からない。
 微妙に持ち上げた僕の手をすくい上げて、弥鱈さんが「冗談です」と指先を口に含んだ。あったかい口の中で指先を舐められ、舌が指の付け根までを見せつけるように舐め上げてくる。
 待ってそれエロ過ぎて視覚の暴力がヤバい。

「弥鱈さんえっろぉ……」
「なんですかいきなり」
「いやもう色気が凄くて……男の色気が……はぁ~弥鱈さんやっぱ格好良いっスね……」
「それはどうも。貴方は女の顔って感じですね」

 女、と言われて心臓が跳ねる。頭の中に女の人みたいな媚びた顔をする自分が浮かんだ。
 ―――いや、きっつぅ。
 咄嗟に手で顔を隠したら「ちょっと」 弥鱈さんの不機嫌な声が降ってきた。

「何してるんです」

 秒で弥鱈さんが僕の顔から手を引きはがす。シーツに縫い付けられて、耳元で「隠して良いなんて私言いました?」と持ち前の掠れた声で怒られた。いやもう怒られてるけど声がエロ過ぎてゾクゾクしすぎて逆にご褒美っぽい。怒られてるのにご褒美ってけっこうヤバいこと言ってる自覚はある。

「いや、だって女の顔って……」
「だから隠すんですか? ……なぜ?」
「なぜっ……えっなぜ!?」

 素のトーンで聞かれて、思わず僕も素のトーンで聞き返す。わりとデカい声を出したもんだから、近くに顔があった弥鱈さんは「うるさいですねぇ」と僕の耳を噛んだ。

「い゛ッ! ……何でって、だって僕けっこうむさ苦しい見た目してるし、萎えるでしょ」
「……萎えてる人間に言ってください、ソレは」

 え? と視線を下に向ける。まず緩くテントを張っている自分の下半身に目がいって、うわー僕普通に勃ってんじゃん恥ずかしいな~なんて思いながら弥鱈さんの股間に視線を移した。そして二度見した。パンツの上からでもちんこがメガロングになりかけているのが分かった。

「えっすげー勃ってる!  どうしたんですかソレ!?」

 生地が尋常じゃなく伸びてるパンツにビビッて思わず大きな声が出る。弥鱈さんは居心地が悪そうに
「ほっといてくださいよ」
 と言って僕のシャツに手をかけた。

「服脱がしますよ」

 一言断わってから弥鱈さんが僕のシャツをめくりあげる。首元までシャツを上げたると僕の頭をゆっくり持ち上げてシャツを引き抜き、下も気付けばベルトが緩められて、同じようにゆっくりと腰を持ち上げられ下着ごとベッドの下に放り投げられた。
 いや、だからそれ! と思わず指を指したくなる。弥鱈さんってそういうキャラなの? いや普段のセックスはそうなのかもしれないけど、僕相手にそんな丁寧にやってくれるの? 服とか引き千切らないの? ベルトなんて引き千切るか面倒くさいって鋏で切るタイプじゃないの? というか! そうだと思ってた! もしくはベッドの下に突き落とされて「ほら早く脱いでくださいよ梶様。場末のストリッパーみたいに」とか言って即興ストリップ要求してくるもんだと! 思ってた! なに今のスムーズで紳士的な脱がし方! 頭をわざわざ持ち上げてくれる人間とか僕床屋のシャンプー台でしか経験したことないんですけど!?

「暑くはありませんか?」

 すっぽんぽんになった僕を見下ろして弥鱈さんが聞いてくる。えっ待って冷暖房まで気にかけてくれるの? と目を白黒させながら「むしろちょっと寒いですかね」と正直に伝えたら、「これから暑くなるのでそれは問題ないかと」とサラっとエロい返答をくらった後にホテルに備え付けてあった薄手のブランケットをお腹にだけ掛けられた。
 ねぇ弥鱈さんなにその解答の仕方? 百点満点どころじゃないです。AVの知識しかない僕が言うのもアレだけど、もしこれが学校のテストだったらが模範解答ですって先生がクラスの前で発表するやつですよ。
 
(というか弥鱈さんは寒くないんですか?)

 聞こうとした途端、上の服を乱雑に脱ぎ捨てる弥鱈さんの姿が目に入る。男なら誰でも憧れる絞られた身体に、しっかり割れた腹筋。そうですよね、そんだけしっかり筋肉ついてたら寒いもクソも無いですよね……と一般的な中肉中背男性の僕は途端に空しくなった。

「シャワーの時も思いましたけど、身体凄いっスね」

 ハァとため息を漏らしながら割れた腹をなぞる。もう何だよコレ、ちょっとした山だろ、南アルプスだろ、南アルプスが実際どんな感じかは知らないけど。
 人差し指で筋肉のデコボコをたどりながら思っていたら、弥鱈さんが僕の胸に手を置いた。

「っ、ん゛っ!?」

 不意打ちで爪で乳首をはじかれて、返ってきた指先でカリリ、と弾いた乳首をひっかく。いきなりの刺激にびっくりして、自分でも引くくらいデカい声が出た。

「ぇ、待っ……えっ、ちょ、んひっ……!」

 カリカリ。くりくり。
 弥鱈さんの短く切りそろえられた爪が僕の乳首に食い込む。そのまま先っぽをひっかいたり、指の腹で全体を撫でたり、摘まんで擦ったり。AVで男が責められるところを見たことはあったけど実際に自分で乳首を触ったことなんてなかったから、初めての丁寧に弄られた僕の乳首は、困惑する僕をよそに直ぐぷっくりと膨れてきた。
 赤く充血していく乳首をジッと見つめながら、弥鱈さんの指は止まらない。

「はっ、はひっ、……あ、や、無理っ……ちょ、それっ……!」
「おや、乳首でコレですか」

 楽しそうに弥鱈さんが言う。乳首を抓られるたび身体を揺らす僕を見て、今度は彼の器用な舌も責めにまわった。
 二回強めにひっかいたら、今度は舌で舐め上げて、赤くなったところを慰めるみたいにチロチロ刺激される。声を上げるたびに空いてる手が僕の頭を撫でてきて、まるで気持ち良くなることは良いことだって刷り込まれてるみたいだった。
 普通に考えたら乳首でこんだけよがってる男ってけっこうマゾ野郎というか、ヤバいやつな気がするんだけど。弥鱈さんの手が撫でるたび、弥鱈さんに褒められてる! って勝手に勘違いした身体はもっと褒めてほしくて、どんどん口から喘ぎ声を垂れ流した。

「あっ、あぁ‥ひぅ、も、乳首やめ、て……」
「痛いなら止めます」
「痛くは、無いですけど」
「なら問題ありませんね」

 問題ないのかな? もうよく分からない。頭追い付かないし。でも弥鱈さんが頭を撫でてくれることだから、なんか良いことな気がしてきた。
 試しに「気持ちいい」って言ってみた。弥鱈さんが一瞬動きを止めて、そのあと「梶様の正直さは武器ですね」ってキスしてきた。そうか、これは僕の武器なのか。じゃぁちゃんと上手に使いこなさなきゃダメなんだな。

「あっ、あんっ、すご、乳首、気持ちいい」
「ちゃんと言えて偉いですねぇ梶様」

 気持ち良いことを気持ち良いって言っただけでたくさん褒められる。立ち会いの時の厳しさどこ行った? って感じで優しい言葉が雨みたいに降ってくる。
 噛まれて、舐められて、吸われる。片方が口でされてたらもう片方は指なんだけど、その強い拳でどうやったらそんな弱い力になんの? ってくらい優しい手つきだった。
 というかよく見たら弥鱈さんの手がもうテラテラ光ってる。知らない間にローションを使われてたらしい。「摩擦があると痛いでしょう」って普通のことみたいに言うけど、女性相手にそんな気遣いをしたことが無い(そもそもそこまでの機会とかなかった)僕は素直に「えっ……めちゃくちゃ優しいっスね……」と言う事しかできなかった。

 ローションを手の上で伸ばして、温かくなったら僕の肌に落として、掌全体で胸に刷り込んでいく。弥鱈さんのぬるぬるした手が胸の上を行き来するたび、指の節とか付け根に乳首が引っかかって気持ちよかった。
 本当だ。摩擦が無いと普通に弄られるより数倍気持ちいい。
 こりゃソープにハマる人も多くなるよなって感じだった。風俗嬢の人がよく乳首弄られすぎて痛いって言うけど、弥鱈さんのこれなら超ロング指名とかでも痛くならなそう。まぁ頭がどうにかなると思うけど。

 時々フッと息を吹きかけられて、そのたび「ひゃん」とか「うひん」とか何ともいえない声が出てくる。そのたび弥鱈さんはクク、と喉の奥で笑って、もっと優しく乳首を摩った。
 弥鱈さんのローションで濡れた手が下に降りていく。腹を撫でて、へそをぐりぐり弄って、そのまま下に行く。
 下の毛を撫でられて、(うわーマジか)と目を瞑る。がっつり勃起してる僕のちんこに弥鱈さんの指が触れた。ただ緩く握っただけなのに、それだけでぬちゃ、と水気のある音が部屋に響く。
 弥鱈さんの手についたローションくらいじゃここまでうるさい音立たないよなぁ……と、気が遠くなる僕を知ってか知らずか、弥鱈さんは「目は開けててくださいね」と僕に言って、さっきよりずっとテラテラぬらぬらしてる指を顔の前に出してきた。

「すごいと思いませんか? こんなにぐちゃぐちゃになるなんて」
「そんな気はしてたんで言わないでくださいぃ……」

 勝ち誇ったように言って、弥鱈さんが指を広げる。ローションだか僕の我慢汁だか知らないけど、指の間に透明な線が何本も引いていていたたまれなかった。ビジュアル的にはめちゃくちゃエロいけど、アレがほとんど自分から出てる液だと思うと複雑だ。

「萎えてるよりずっと良いでしょう」

 弥鱈さんは微妙な顔をしてる僕にフォローを入れるみたいに言って、液体でテラテラ光ってる自分の手を満足そうに見ていた。そうしてまた手を僕のちんこに持って行く。今度はしっかりと竿を握られて、ゆるゆると上下に扱かれた。

「ひっ、へ、ぁ、ち、ちんこ触るんですか!?」
「梶様はクリトリスをお持ちではないので、まぁそうなりますね」

 弥鱈さんの口から卑猥な言葉が出るとちょっと驚いてしまう。

「あ、ぁぅ、で、も……汚く、ないですか?」
「まだそんな余裕あったんです?」

 ピク、と弥鱈さんの眉が動く。え? と聞き返すより先に、竿を握りしめていた手が先っぽの亀頭部分に覆いかぶさった。
 掌全体で一番弱いところを包み込まれたまま、器用に手首だけを動かしてこねくり回される。脈略も無く、暴力みたいな刺激が一気に僕に襲い掛かってきた。
 たっぷりのローションと我慢汁でぬちゅぐちゅうるさい音を立てながら、今までの優しくて甘ったるい快感とは比べ物にならないほどのソレが頭の中を殴る。

「えあ゛!? あ゛っ! ん゛おぁ゛っ!! ぁー」

 どっから出てるのか自分でも分からないくらい、死にかけた鶏みたいな汚い声がひっきりなしに口から出てきた。
 桁違いの刺激に頭が一瞬でぶっ飛んで、気持ち良いとか痛いとか、自分がいまどの感覚のせいで叫んでいるのかも分からない。とりあえずヤバい、怖い。頭がこのままじゃ死ぬぞって言ってくる。
 止めてほしいけど(というか止めてもらわないと僕多分死ぬけど)、弥鱈さんが楽しそうに手を動かしてるからなのか、不思議と僕の両手はシーツを握りしめたまま弥鱈さんのやりたいようにさせていた。本当は足を閉じて刺激から逃げたいのに、足も張り付けられたみたいに動かない。ギリギリ動いてる脳みそが、『弥鱈さんの邪魔しちゃいけない』って何より大事な命令として身体にメッセージを送ってるみたいだった。僕はこのままちんこ弄られてたら死にそうな気がするけど、僕の頭は、僕が死んじまうことより弥鱈さんが楽しいことを優先するように出来てるみたいだ。

「良い声ですねぇ。大丈夫ですか? 痛みは?」
「んぁ゛ぎも、あーっ、ぢ、ぃ、!」
「へぇ。こんなに先が真っ赤でも気持ちが良いんですか。凄いですねぇ梶様」
「ぃぎッ、んぁ゛っ! あ、ぃい゛ぃ! ゃ゛はっ……あ゛っ、ん、ッッ!」

 言っといてなんだけど、気持ちいいのかは実際分かんないし、正直なんで口が気持ち良いって言ったのかも分かんなかった。
 体中が快感なのか苦痛なのか判断も出来ないままずっと混乱してる。頭は秒で使い物にならなくなったし、口も全然閉じない。声と涎は垂れ流しで、目の前は強すぎる刺激にチカチカしていた。
 これ以上触られたら死ぬのに、案の定気持ち良いなんて言ったもんだから、弥鱈さんの手はよりいっそう容赦なく亀頭をぐちゅぐちゅと責めてくる。ヤダ、やめてください、もう無理、ちんこ変になる。頭にそんな拒絶の言葉はたくさん浮かぶのに、声に出ると汚い喘ぎ声だったり気持ち良いって弥鱈さんを煽る言葉ばかりだ。頭のどっかで、弥鱈さんはきっと気持ち良いって言った方が喜んでくれるって思ったんだろうか。
 ぬちゅぬちゅ。ぐちゅぐちゅ。耳からも音で犯される。やばい、本当の意味で逝きそう。

「ぎ、ぃ、ひぃっ、あ゛ぁっ、あ゛ああ」
「んー、白目もそそりますけど、少しマズいです?」
「だ、っで……あぁ゛……みだっ……」
「はい?」

 手を止めて弥鱈さんが耳を傾けてくれる。ただ、わざわざ手を止めてくれた弥鱈さんの優しさを無駄にするみたいに、僕の腰は勝手に動いて弥鱈さんの手にちんこを擦りつけ続けていた。

「あ゛、あぁあ゛っ……!」
「腰ちょっと止めましょうね。あとでまたやってあげますから」

 腰をシーツに押し付けられる。片腕で押さえられただけでビクともしなくなる身体に少し情けなくなった。
 ハァー、ハァー、なんて全力疾走してきた時みたいな息の切れ方してる僕を見下げて、弥鱈さんが頬を撫でてくれる。撫でる前にシーツで手を拭くことを忘れない姿がいちいち優しくてビビった。

「で、今なんと?」

 ある程度僕の息が整うまで待ってから聞いてくれる。
 僕は弥鱈さんの手にほっぺを摺り寄せながら、まだ若干トンだままの意識で話した。

「ん、……だって、ぼく……褒められ、たい……気持ちいいって……言って、僕、弥鱈さんに褒められたいから……」

 刺激は無くなったけど、頭は溶けたままだから喋ってもガキみたいなことしか言えなくなる。
 スリスリと弥鱈さんの細長い手が気持ち良くてずっと頬擦りしてたら、何とも言えない表情で止まっていた弥鱈さんがその手で自分の顔を覆った。

「……うわぁ」
「んえ、引きました? 今?」
「引いてないです」
「いや、引いたでしょ絶対今の反応は」
「引くわけないでしょう。たまらないって思っただけです」
「……へぇ?」
「まぁ、いいです。貴方もどのちみち限界でしょう。一回出しておきましょうか」

 一度綺麗にした手にまたローションを落としながら弥鱈さんが言う。また亀頭を責められる! と身体を固くしたら、竿を握りしめた弥鱈さんが「出すって言ったでしょ。扱くだけですよ」と額にキスしながら言った。
 すげぇナチュラルに言ってるけど、弥鱈さん僕のちんこシゴいてくれるんだ。感動してたら弥鱈さんにひょいと身体を抱きかかえられて、胡坐をかいた弥鱈さんの上におろされた。
 僕も平均身長はあるけど、弥鱈さんのほうがいくぶん上背があるから、後ろから抱きすくめられるとスッポリと身体が収まってしまう。背中全体に弥鱈さんの肌とか熱を感じて、それだけでも相当心臓にキた。
 弥鱈さんは顎を僕の肩に置いて、ゆっくり手を上下に動かし始めた。さっきまでの容赦ない感じとは違ってゆるゆる上っていく感じ。擦り切れかけてた頭の神経が、今度はスムーズに快感の信号を出す。

「……ッん、……うぅ、ぁっ、ッ、……んぁぁっ、あん、やぅ、あっ、んっ、やばっ、い……!」

 やっぱりこれくらいの気持ち良さが良いなぁって思いながら、弥鱈さんの手コキなんて贅沢なものに身を任せる。体重をかけないようにって最初は気を遣ってたけど、すぐに体の力が抜けてきて、結局後ろの弥鱈さんに全身でもたれ掛かることになった。
 ぬちぬちって音が聞こえるたび、体が意識しなくてもビクビク痙攣する。胡坐の上でどれだけ動こうが、弥鱈さんの身体はビクともしなくて、僕の身体を抱きしめたまま淡々と責め立てていった。

「……はぅ、はっ……ひ、ぃっ、ん……んぁ、ぁああ、……ッ、は、も、ぁ、イッ……!」

 昨日も普通にオナニーして出したはずなのに、気付いたら金玉もぱんぱんに張ってて、玉袋を揉んだ弥鱈さんが「随分溜まってらっしゃいますね」と聞いてくるくらいだった。
 いや、溜まってなかったはずです、確か。正直に話しても恥ずかしいだけだから、聞かなかったことにして弥鱈さんの腕に縋りつく。僕が抱き着いても弥鱈さんの手が止まることは無かったけど、梶様、と呼ばれて、顔を上げたら口を塞がれた。
 ちんこと玉は手で優しく触られて、口の中は芸達者な舌で上顎とかを撫でられて。もう体の中も外も全部弥鱈さんに触られてる感じだった。ちんこはガチガチになって苦しいし、玉もザーメンを早く出したくて疼いてる。せり上がってくる感覚にもう少しでイくな、なんて経験則で考えるけど、どこかで勿体ないと思っている自分もいた。こんなに誰かに甘やかされたことなんて無くて、出したらこの幸せな気持ち良さも終わりかと思うと少し寂しい。
 もっとこの人に甘やかされたい。気付いたら足をピンと張って、どうにかイかないように身体を強張らせていた。唾液がどんどん溢れてきて、弥鱈さんの口周りまで汚してしまう。やばい汚いって弥鱈さんの口元を拭おうとしたら、ぢゅぅ、と舌ごと口の中を吸われた。
 声といっしょに唾液が飲み込まれる。目の端で弥鱈さんの喉が動いていた。弥鱈さんが僕の唾液飲んだって思ったら、またちんこがゾクゾクした。

「……梶様」
「んぇ?」

 口を離して、弥鱈さんが僕を睨みつける。唾液で女の人みたいに唇がてらてら光ってる弥鱈さんが、その唇で「意地を張ってないで出してしまいなさい。我慢は体に毒ですよ」と言った瞬間、僕の頭からサァ、と頭から血が引いていく気がした。

「あ、……や、あのっ、すいません! お手数おかけしましたッ!」

 ヤバい調子乗った。シゴいてんのもけっこう疲れるし、あんあん近くで男に喘がれ続けたらげんなりするだろうに!
 ちょっと弥鱈さんが優しいからって、甘やかされたいからって、何にも考えずに気持ち良いことをずっとしてもらおうっていう厚かましさに今更恥ずかしくなってくる。「すぐイきますんで!」と宣言して、ちんこを握っていた弥鱈さんの手を払いのけて自分でちんこを強く握りしめたところで、弥鱈さんの形のいい頭に「おい」、軽く頭突きされた。

「いてっ」
「だから何でそうなるんですか貴方は。手コキが嫌とは言ってないでしょう」

 弥鱈さんが手コキって言った……。
 変なところで感動してる僕を抱えなおして、弥鱈さんの手が僕の手に重ねられる。上から僕を握りしめて、そのまま弥鱈さんが上下に手を動かしてきた。自分の手越しに弥鱈さんに手コキされてる。何でかよく分からないけど、弥鱈さんはどうしたって自分がイかせたいらしかった。

「なッ……! ちょ、みだらさっ、離し、ぁ、ぁア、……ン……、やめ、っ……もう、や、……ッヒ、ぐッ、ぁ、んんっ……!」
「とっとと出してください。私も限界なんです」

 さっきよりも強く、先っぽに向かって絞り出すように力を込められる。ガクガク震える太ももを抑えられ、耳を噛まれた時についに限界が来た。

「……っは、ぁう……、っく、ん……っ、ッ! ぃ、きゃぅっ、……ッあ、あ゛あぁー!!」

 ほとんど絶叫に近い声を上げて全身がはねた。真っ白なシーツにザーメンが飛び散って、最後の方にちょろちょろと漏れ出た液が弥鱈さんの手を汚す。昨日オナニーで出してるからそれほど濃くはないと思ってたのに、普通に粘度もあるし量も多かった。頑張りすぎだろ僕の金玉。どんだけハイスピードで作ってんだよ。

「あっ……ぁ……ふ、ぅ……」
「随分と出ましたねぇ」
「いやあの……弥鱈さんのテクがすごかったんで……」
「止めてください。私が手コキに慣れてるみたいじゃないですか」

 嫌そうな顔をする弥鱈さんに笑いかけようとしたら盛大にむせた。荒い呼吸ばっかりしてたからか、気付いたら喉がカラカラに乾いている。
 ゼェゼェ息をしていたら、ベッドから立ち上がった弥鱈さんが冷蔵庫からよく分からない海外のお洒落れなラベルのついた水を持ってきてくれた。それ別料金じゃ……僕水道水で良いっスよ……と言う間も無く、蓋を開けたペットボトルを弥鱈さんが無遠慮に突っ込んでくる。
 突然の水にテンパりながら必死に飲み下す。三分の一くらい飲み干したところでボトルを下げられ、ゴクン、と残っていた水で喉を鳴らしたら『よく出来ました』とばかりに鼻先にキスされた。液体飲んだだけで褒められるのとかきっと僕は赤ん坊以来……いや、うちの母さんがそんなことで褒めたとは思えないから、なんなら僕の人生で初の経験だったかもしれない。

 冷たい水がずっとぶっ飛んだままだった頭を冷やしてくれる。一回イって一息ついた僕は、ふぅ、とため息をついて弥鱈さんを見た。
 相変わらず弥鱈さんは涼しい顔してる。僕だけみっともないな……なんて目線を弥鱈さんに向けたところで、チラっと映った下半身にギョッとした。

「いやビンビンじゃないスか!!」
「いちいち言わないでくださいよ。さっきから勃ってたでしょう」
「いや、僕の出すとこ見てたから萎んだかと」
「私そこまで感受性豊かじゃないので。梶様が出したからって自分もスッキリはしません」

 ばっきばきに勃起してるちんこが下半身にくっ付いてるとは思えないほど普段通りの表情で弥鱈さんが言う。僕としては男の射精シーンなんて見てしまったら気持ちが萎えるんじゃないかと思って聞いたわけだけど、弥鱈さんはどう受け取ったのか「貴方の性器と連動してたらテクノブレイクで死にそうです」と言って僕から奪い取った水を飲んだ。

 ベッド脇にペットボトルを置いて、弥鱈さんがまたベッドに乗り上がる。
 ギシ、と沈むベッドの真っ白と、弥鱈さんの持ち上がったパンツの黒色のコントラストがえげつなかった。ごりごりの臨戦態勢にさっき弥鱈さんが言っていた「私も限界」が冗談でも何でもなかったことを知る。これは確かに辛そうだな、と思った僕はほとんど無意識のうちにパンツの上から弥鱈さんのそれに手を添えていた。

「失礼します」
「おや、梶様、出来るんですか?」

 言いながら弥鱈さんがパンツの前をずり下ろし、勃起したちんこを僕の顔まで持ってくる。弥鱈さんは手コキだけど僕はフェラなんだ……ていうか弥鱈さん舐められるの平気なんだ……と色々思いつつ、ぐんと強くなった雄の匂いに頭がクラクラした。
 僕はゲイじゃないはずだけど、弥鱈さんのちんこを目の前に出された瞬間、口の中にじゅわっと唾液が溢れてきた。しっかりズル剥けのちんこは表面がツルツルしてて、わりと本気で、なんか口に入れたら美味そうに見える。

「が、頑張ります……」

 弥鱈さんのちんこに手を添えて、試しにチロッと舐めてみる。無味。けど思ったより温度があって、水で冷えていた舌に乗せると、熱さでじわじわと舌が溶かされていくようだった。さすがに弥鱈さんのでもちんこ舐めたら気色悪いとか感じるかも、と思ってたのに、全然違った。むしろ真逆で、舌の上でびくびく脈打ってるちんこにめちゃくちゃ興奮してくる。
 もっと舐めたい、口の中を溶かしてほしい。
 そう思って、僕は覚悟を決めると勢いよく弥鱈さんのちんこを咥えこんだ。

「おぉ」

 弥鱈さんから声があがる。気持ち良いとかじゃなくて、スゲーなお前って感じの感心するような声だ。そりゃぁ潔癖の弥鱈さんからしたらションベン出すところを口の中に入れてるんだから信じられないよな、と思った。まぁさっきまでこの人も、僕のションベン出すところを普通に素手で触りまくってたわけだけど。

(というか待って)

 口いっぱいに弥鱈さんを頬張りながら、僕は額に冷や汗をかき始めていた。
 勢い良く咥えたはいいけど、え、デカい。えっ待って、死ぬほど長い。平均的な大きさのある自前の口を全開にして必死に押し込んでるわけだけど、亀頭と半分くらい竿が入ったくらいで、僕の口は弥鱈さんのちんこでキャパオーバーを起こしていた。
 まだ外に血管が浮き出た竿が残ってるけど、もう奥歯の先くらいまでちんこが入っていて、これ以上入れようと思うと喉が完全に塞がれてしまいそうだ。
 嘘だろマジか。弥鱈さんって今まで女の人にさせる時どうやってきたんだよ。僕でコレだったら女の人の小さい口じゃそもそも尺足りなくない? すげぇ馬面で口の中の尺が有り余ってる人とかじゃなきゃ無理じゃない?  馬面風俗嬢ばっか所属してる店とかあんの? 
 あと弥鱈さんのちんこすげぇ硬い。中折れとかの心配が一切ないくらいに硬い。なんスかコレ、中に骨でも入ってますか? それか表面に浮いてる血管、これも血管じゃなくて筋肉かなにかですか。
 
 とりあえず入った分だけでもと、口をもごもご動かしながら前後に頭を振ってみる。歯を立てないように、あんまり吸いすぎないように。AVの知識をフル稼働しながら必死に口を動かすものの、多分全然良くないんだろう、弥鱈さんは息を上げることも無くジッと僕を見てるだけだった。

「はの、ほぅへすか、みはりゃひゃん。おく、の、ふぇあ……」
「下手」

 一言で撃沈する。分かっちゃいたけど一刀両断だった。

「んぶ、ふぃまへん……」
「別に……テクに期待はしてませんし。というか、フェラが上手い梶様は正直引きます」

 まぁ確かに。
 頭の中に百戦錬磨な自分の姿を想像して、途中でオェッてなったので止めた。

 その後も口に入ってる部分は舌とかでチロチロ舐めつつ、口に入ってない所は手でゴシゴシ扱きつつ、我ながら下手くそだなコレって分かるくらい低クオリティなフェラが続いた。
 不幸中の幸いで弥鱈さんのちんこが萎えることは無かったけど、変わり映えのしない戦況に全く終わりが見えてこなくて焦ってくる。顎もすごく疲れてきた。ずっと口を閉じていないから、飲み込めなかった涎が垂れてシーツに落ちていく。あっ、ていうか。僕は怖くて喉使ってなかったけど、よく考えたら女の人って普通に喉の奥まで突っ込むよな。アレやったら弥鱈さんも少しは気持ち良いのかな。
 おずおずと喉を広げてグ、とちんこを押し込んでみる。息を吸い込もうとして、そんな隙間も無いくらい弥鱈さんのちんこに圧迫されてることを知って一人でテンパった。マジか。フェラって息できないのか。AV女優の人ってこんな苦しいこと普通にしてたのか。すごいな。
 ピク、と弥鱈さんの太ももが揺れたのが嬉しくて、弥鱈さんの腰に抱き着いてさっきよりも深めに頭を動かしてみる。顎とか喉の柔らかいとこに弥鱈さんのちんこが擦り付けるたび鼻から変な声が抜けていって、僕こんなことでも気持ち良いのかよって自分で驚いた。
 弥鱈さんのがちょっと大きくなった気がする。まだデカくなんのかって弥鱈さんのポテンシャルにおののいていたら、ふいに弥鱈さんの手が僕の頭に乗せられた。
 指の長い手で頭を掴まれ、ビクッと身体が跳ねる。手持無沙汰になるのは分かるけど、フェラの時に男がわざわざ頭掴む理由なんてイラマチオくらいしか思いつかない。そうだよなぁ。こんな経験のない僕のフェラなんて絶対気持ち良くないし、自分のペースでガンガン突きたくなるよな……。
 僕は固く目を閉じて、鼻で思い切り深呼吸した。息が出来なくなることはさっき分かったから、多少ガンガン動かされても酸欠にならない程度には酸素を取り込む。

 よしきた、僕も覚悟くらい決めますよ。
 遠慮せずガンガンやっちゃってください弥鱈さん!

 弥鱈さんの手を頭にずっと感じてる。
 この手が僕の頭を思い切り掴んで、自分の好きなようにオナホみたいに扱うんだ……。そう思ったらゾクゾクした。なんかもう、本格的にヤバい性癖が開花してきてる気がする。
 マジで弥鱈さんにしか反応しないド変態になったらどうしよう、なんて考えてた僕を知ってか知らずか、ちょっと息を荒くした弥鱈さんが、頭に置いてた手でサワサワと僕の頭を撫ではじめた。ちんこはビクビクしてるけど、手は別人みたいに優しい。
 
『あれ、イラマチオは?』

 上を見上げたら、眉間に少し皺を寄せた弥鱈さんが「どうしましたか? 苦しい?」って口元に少し笑顔を作っていた。ベタベタになった口の周りを拭ってくれて、頭は相変わらず優しい手つきで撫でられている。ここにきて僕は、弥鱈さんがただヨシヨシしてるだけってことに気付いた。
 あぁもう……どうにでもしてくれよぉ。
 僕はちんこをくわえながら思わず泣き出しそうだった。そこはイラマチオじゃん。弥鱈さんならイラマチオだと思うじゃん。なんでそんな頭撫でてんだよ。優しすぎるでしょもう。そんな優しさ、ラブラブ系のAVでもなかなか見たこと無いですよ。その忍耐力どうやって培うんですか。畜生馬鹿好き。もうやだ大好き。

「梶様、くち外してください」

 まだ限界は遠い気がするけど、弥鱈さんに唐突に言われて口を離す。久々に口の中からちんこが無くなったら、それはそれでぽっかり隙間が空いたようで寂しかった。
 口とか顔に出します? と提案したけど弥鱈さんは素っ気なく断って、ベッド脇のティッシュを手に取ると自分で何度かしごいてティッシュに出し、そのままゴミ箱に捨てた。
 え? って思わず口に出してしまうくらい、ひどく淡白で事務的な処理だった。え、あの、僕居るんですけど。さっきの僕のド派手な射精シーンとのギャップヤバくないですか。自分のことに対して興味無さすぎませんかソレ。
 色々な感想が頭を巡ったけど、弥鱈さんはそれが当然とばかりに水を飲んで一息つき、そのまま僕に水を渡してくる。

「すすいでください」
「ねぇ弥鱈さん!? あの、口に出すとかしなくて良かったですか!? 僕、頼まれたら精液だってジョッキでいきますよ根性で!」
「嫌ですよ汚い」

 どういう基準なのか分からないけど、弥鱈さんにとって自分の精液を飲んだ口は汚いから嫌らしい。潔癖症って分かんないなぁ、と思いながら残ってた水を全部飲み干して口内を洗う。空になったペットボトルを見届けて、弥鱈さんが僕の口に噛みついた。

「ん」

 またシーツに寝かされて、今度は「腰浮かせて」と指示される。ブリッジの体勢で腰に隙間を作ると、備え付けの真っ白でふかふかな枕を間に押し込まれた。
 当然のように気遣いされて勿論嬉しいけど、僕の足元に弥鱈さんが座り込んだのが見えて、いよいよだと心臓が早くなる。
 ジッと弥鱈さんが自分の指先を見てる。深爪気味の右手を目視してから左の甲に指を押し付けて、爪が当たらないか確認している。そんな行動一つ一つが甘くてどうにかなりそうだ。

「あ、ぅ……、い、いよいよですね……!」
「えぇ。ここからは梶様の頑張り次第ですよ」

 弥鱈さんの指を見て、ヒク、と息を呑む。手足の長い弥鱈さんは指も比例してすごく長い。骨もごつごつと筋張ってるし、意外と最初のハードルからなかなか高めだと思った。
 ローションを追加で手に落とし、にちゃにちゃ手で慣らしてから僕の尻に塗る。冷たくない。手に残ったローションを指の側面までまとわりつかせて、弥鱈さんが中指を穴に埋め込んだ。

「ひ、うぅう……」

 今までに経験したことのない感覚が下からせり上がってくる。得体の知らない感覚に身体がビビッて、無意識に身体が弓なりになった。
 違和感ヤバい。痛くはないけど違和感が凄い。ケツの穴が反射的に弥鱈さんの指を締めて、外に押し出そうとうねうね中で蠢いていた。

「痛いですか?」
「いや、痛くは……けど……苦しい、ですね……」
「まぁ苦しいのはどうしようも……とりあえず指一本入れますね」
「う、ぐ、ぅぅ……」

 ローションのぬめりも手伝って弥鱈さんの指は思ったよりスムーズに入った。中指が根本まで入り切って、ひとまず僕が慣れるまではってことで休憩する(ナチュラルに休憩挟んでくれるんだから弥鱈さんの優しさは止まらないなって思う)。
 たった一本入っただけでも、感覚的にはさっきの口にいたちんこと同じくらいの圧迫感だった。なんとなく息がしにくくて、下半身にずっと謎の存在感がある。まだ気持ち良いのきの字も無い。何だったら中に埋め込まれてる指よりも、暇そうにしてる弥鱈さんが他の指でさわさわ弄ってる金玉が一番気持ち良かった。

「よろしいですか? 動かしますよ」
「あ、はい、どうぞ……」

 宣言されて指が中をぐりんと抉る。ゆっくり抜き差しされながら、いろんな所を押されたり、撫でられた。
 丁寧な手つきに痛みとかは感じないけど、それでもやっぱり埋め込まれるたび息が詰まって、浅い息を繰り返す僕を観察していた弥鱈さんは片手で僕のちんこをまた刺激し始める。

「うぅっ、んっ、っ、……」

 声色が変わってきたところで口を塞がれる。右手は僕の穴をくちくち広げて、左手はちんこや胸を弄って、そんで口は気持ち良い深いキスをしてくれていた。
 器用すぎる弥鱈さんにどんどん翻弄されていく。ぐちゅって聞き慣れない音がして、気付けば指が二本に増えていた。
 後ろだけだとよく分かんないけど、ちんこと一緒に弄られるとどっちが気持ち良いか分からなくなって、なんとなく後ろもヨくなっていく気がする。増えた指がバラバラに動いたりしてたおかげで、少しずつ指の存在にも慣れてきて、圧迫感があっても呼吸は問題なく出来るようになってきた。ぐちゅぐちゅ、と耳を覆いたくなるような音が下から聞こえ始めたのもその頃だ。ぐにぃ、と淵を広げれば外の空気が中に入って来てスースーする。そこを弥鱈さんの指が何度も撫でて肌を馴染ませてくれる。繰り返してると、ぞわぞわ、今までなかった感覚が湧いてくるようだった。連動してちんこも緩く勃ちあがって来て、口の中も唾液の量が増える。

「みだ、んっ、うし、ろ……!」
「どうされました?」
「なんか、違うの、ひっ、んん、」
「違うとは?」

 ニヤニヤしながら弥鱈さんが聞いてくる。この人絶対分かってるだろ、と思いつつ、言わなきゃ多分このままなんだろうと思って、近くにあった弥鱈さんの頭に手を回した。
 ぎゅう、と思い切り抱きしめて、大きい声で言うのはなんとなく恥ずかしから、弥鱈さんの耳元に顔を寄せて小声で話す。

「やばいです、なんっ、なんか、気持ち良くなったかもしんなくて……わっ、ぉあっ、ん……弥鱈さんの手、腹の中ぐちゅぐちゅ、撫でるみたいな……そ、れっ……いい、かも‥‥!」
「……そうですか」

 言葉はそっけないけど弥鱈さんの頬が僕の頬に摺り寄せられる。すりすりされて知った。見えないけど弥鱈さんにもちゃんとヒゲは生えてるらしい。チクチクと伸びてきた毛がこすれて、少し痛いけど可愛かった。

「撫でられるのがお好きなんですか?」
「んっんっ、すき、すきぃ……!」
「じゃぁ、これは?」
「ん、んっ!? へぁ、あ、ああッ!?」

 ズガァンて背骨に隕石が落ちてきたみたいな衝撃があった。何が起きたのか分かんなくて、ベッドの上でビクン! と魚みたいに跳ねる。
 目を白黒させた僕を鼻で笑って、弥鱈さんがさっきと同じ所をゆるゆると撫でた。ちんこの真裏くらいだろうか、中に出っ張り? みたいな何かがあるみたいで、どうもそこの一部がヤバいらしい。コリコリ撫でられたり、指で挟まれて強請られるたび、僕の頭は真っ白になって、シーツの上でくねくねと身を捩じらせた。

「どうですか?」
「やっ、なんっ、変ッ……! 待っ、何、ひぁあー!」
「男がよがるポイントらしいですよ。良かったですねぇ、便利な器官があって」
「やっ、あ゛ぁあ!! ぐりって、ぐりってしないでっ! あっ! ぁ゛っ! あ゛ー!」
「何故です? 気持ちいいなら触られたいでしょう?」
「ひっ、ひぃっ、んああ!!」
「褒められたいと言っていたじゃないですか。私も沢山褒めて差し上げたいので、痛くないならもっと撫でますね」
「おね、お願いしま゛すっ……! やめ、て、や゛めッ、ぇ……!!」

 弥鱈さんの細長い指が容赦なく中を責めてくる。どんだけ身体をバタつかせても、機械ですかってくらい正確に、弥鱈さんの指は僕が一番おかしくなる所だけを弄り続けた。
 ただ内臓のどっかを撫でられてるだけなのに、触られてビリビリと刺激が頭に届くたび、本能が訴えかけてくる。ここは触ったらダメなところだ。さっきの亀頭グリグリされるのもヤバかったけど、こっちは何か、戻ってこれない気がする。どこに戻ってこれないかは、分かんないけど。

「ごめ、ごめん、なさ、いいぃ! うぅ……あッ。……ふっ、ヒ、ぐッ、ぁ、こわい……! やめ、っ……! ……う、んん゛っ、!!」
「止めて良いんですか? 気持ちいいのに? 貴方、さっき性器の先を弄られても上手におねだり出来てたじゃないですか」
「だめっ、ダメなんです……! これダメなとこ……ァ、分かるの、ここ、良くなったらダメなの……! むりっ、……んぁあっ!」
「はぁー、難しいこと言われても分かりませんねぇ」

 白々しい演技で首を傾げて、僕が何度やめてとお願いしても弥鱈さんは「知らない」「分からない」と棒読みを繰り返して手の動きを止めてくれなかった。中の同じところを色んな動きで責め続ける弥鱈さんを涙の膜が張った眼で必死に睨みつけるけど、目が合った弥鱈さんは舌なめずりして、僕の目からこぼれる涙に唇を寄せるだけ。
 あぁ悪い人だって、涙でしょっぱくなった口でキスされて思った。分かんないわけないでしょ。弥鱈さんに分かって僕に分かんないことは世の中にごまんとあるけど、僕に分かって弥鱈さんに分かんないことなんて、きっとこの世の中一つもないよ。

「んっ、……きゃぅっ、あ、あ゛、ぁ、ッ! も、ゆるしっ……ぇ、ン! ゆるして……おね、が……ひぃっ、あ゛っ……ッ!」

 せめてこれ以上おかしくしないでって、身体中を撫でてる手を止めようとする。逆に腕を掴まれて、指を絡めとられた。
 僕の指と弥鱈さんの指が絡まり合ってシーツに落ちてる。恋人つなぎってやつを弥鱈さんはこのセックス中当たり前のように何回もやってくる。悪い人なのに、やめてって言っても全然止めてくれないヒドい人なのに、動作が隅々まですごく優しいから、僕にはもう訳が分からなかった。

「……ひ、ひぁ゛! ぁ、ぁア゛、ヒ、ぐッ、ぁ、ごめ、ゃ、やめ゛で、ッ! ダメ、だめ˝っ……! 、ァ」
「ダメなコトなんて無いんですよ」
「ひぅっ、い、い゛いッ、あぅうう˝!」
「ただ梶様は快感に素直でいれば良いんです。私は貴方がよがる姿を見ていると楽しくて沢山褒めて差し上げたくなる。ねぇ、梶様。それって二人共、とても喜ばしいことでしょう?」

 弥鱈さんはズルい。僕よりも、僕をどう扱ったら良いかを知っている。
 中に入ってる指はもう何本か分かんないけど、相変わらず遠慮なくかき回してくる動きに、それでも弥鱈さんの言葉を聞いたが最後、僕の身体からは一気に無駄な力が抜けていく気がした。あんなにダメだって叫んでた本能が、弥鱈さんの一言でスッと身を引く。弥鱈さんが僕で楽しくなるんなら、躊躇うことなんてないじゃん、って言ってるみたいだった。
 身体は相変わらず強すぎる快感で苦しい。頭も気持ち良さがキャパを越えてて全然処理出来てない。ちんこ興奮しすぎて痛い。キスされてる口の中と、繋がった手だけは温かくて優しい。

「……ぃい……」
「うん」
「あっ、あふ、ぅう……あ゛ーそこ、いぃ、気持ちいいぃ……!! っ、ぁ、はぁ、ん……ん゛ぁ゛……みだらさん……たのし、ぃ……?」
「はい、とっても楽しいです」

 ゴリッ、と今までで強く擦られて、体が限界までのけ反った。突き出した喉に弥鱈さんが噛みついてきて、歯が当たった感覚に軽くイく。ビクビクと脚が痙攣して、弥鱈さんの指を穴が何度も締め付ける。ちんこからは何も出てない。ネットで見た中イキってやつだと、ぼんやり頭で思った。
 射精しないでイくとか女の人みたいだ。今までなら情けなくて恥ずかしくて死んでたと思うけど、僕を見下ろす弥鱈さんが満足そうに笑ったから、それだけでまぁ良いかと思えてしまった。
 弥鱈さんの指が引き抜かれる。ぼんやりした視界でみた指は皮膚がふやけていて、どんだけ長いこと弄ってたのかすぐに分かってめちゃくちゃ恥ずかしかった。

「わー指すごいですね。全部梶様の汁ですよ、コレ」
「ごめっ、なさいぃい……」
「あ、怒ってないです。上機嫌です。楽しかったですよ、梶様」

 ふやけた指が弥鱈さんの口の中に消えていく。赤くてつやつやした弥鱈さんの舌が僕のナカに浸かってた指を見せつけるように舐める。フェラはダメで何でその指は舐めれんだよ。アンタ潔癖症じゃなかったの。ケツの中とか多分雑菌だらけだろうに、弥鱈さんにとっては、僕のナカって汚いものじゃないの。

「気持ち、よすぎて……ちょっと途中ヤバすぎてマジで止めてほしいって思ったけど……でもずっとナカ触られる間、僕、すごく気持ち良かったです……」
「そうですか。きちんと気持ち良くなれて自分から報告も出来て、梶様が優秀な方で嬉しい限りです」

 弥鱈さんの口元からシャボン玉が飛んでいく。シャボン玉はベッド脇のチェストまで飛んでいくとパチンと弾けた。何だかここ掘れワンワンみたいだな、と僕は一人で笑う。弥鱈さんがシャボン玉のはじけたところに手を伸ばす。あ、と僕から浮かれたような声が上がる。弥鱈さんの手には衛生用品がある。えっちのための道具。コンドーム。メガサイズ。

「これで触っても気持ちいいでしょうか?」

 いつの間にかガッツリ復活していたちんこを僕の太ももに擦り付けて弥鱈さんが言う。熱い。押し当てられた太ももから火傷しそうだ。

「分かんない、ですけど……」

 コンドームの箱とちんこを交互に見る。脅すようなメガサイズの文字と象のパッケージ。そのパッケージに負けないほどの破壊力がある、何ですかその長さって感じのちんこ。
 正直、気持ち良くなれるかは分からない。頭の中にはやっぱりちくわとキュウリの映像が思い出されて、何度もちくわを裂いて突き進むキュウリがフラッシュバックしていた。
 気持ちよさそうって興奮出来るかと聞かれると正直自信がない。ぶっちゃけ今のところは快感への期待より裂けそうっていう恐怖心の方が勝ってるし───でも、それよりデカい感情が、もう脳内の大部分を占めてしまっているのも事実だった。
 太ももに押し当てられた熱に手を乗せる。
 ツルツルしてて熱い。これが今から中に入る。弥鱈さんが、僕の中に入ってくる。

「きもちいかは、分かんないけど……多分、幸せ、だと思います」
 
 もう痛そうとか、裂けそうとか、そんなのは問題じゃない。男が触られて一番気持ち良いところが自分の中に入って来て、自分の中で弥鱈さんが気持ち良くなってくれるかもしれない。散々僕を甘やかして、撫でて、気持ち良くしてくれてた弥鱈さんに、今度は自分が快感を与えられるかもしれない。後ろの穴がヒクつく。奉仕できるかもしれないってことが、一番今の僕には嬉しくて幸せだった。
 言ったら、弥鱈さんが天井を見上げた。上を睨んだまま息を吐いて、何度か深く深呼吸して頭を振る。

「どうしました?」
「いえ、別に。ちょっとキただけです」
「頭に?」
「……まぁそうですけど。多分梶様が思ってるような感情ではないです」
「んんー? すいません」
「謝ってる時点で絶対違いますね」

 箱からコンドームをひとつ取り出し、弥鱈さんが自分のちんこにゴムを被せる。弥鱈さんいわく太さは普通とのことだったが、弥鱈さんに張り付いたゴムは少しも隙間なくぴっちりと張り付いていた。というか少しキツそうにも見える。ううーん、うっすら思ってたけど、弥鱈さん普通に太さも並みよりあるんじゃないか?

 ぴと、と弥鱈さんのちんこが僕の穴に当てられる。尻の縁が燃えそうに熱い。ゴムについたローションを刷り込むみたいに、弥鱈さんのちんこが僕のケツの入り口を何度も行き来した。
 流石にもう要らないんじゃって思うけど弥鱈さんは更にローションを足して、ちんこが僕の穴の上を擦るだけでぐちゅ、とかぷちゅ、とか恥ずかしい音が立った。尻の肉がぷるぷる震えて、弥鱈さんのちんこが擦りつけられるたびケツの皺が勝手に伸縮する。
 まるで食べたいって言うみたいに吸い付いて、弥鱈さんのちんこが早く欲しいって僕のケツは入り口も中もヒクヒクと動いていた。僕の体はやらしいことに、早く弥鱈さんに入ってきてほしくてずっと疼いている。

「入れますよぉ」
「は、……い゛っ! ……あぁあ゛っ、あっ! んぐっ……」

 宣言されて弥鱈さんの熱が入ってきた。
 足がピン、と張って、今までどこか夢見心地だった頭が急に冷めていく。カリの一番太い所までいかず、穴の皺が広がり切ったような感覚がある。熱いし、大きいし、硬い。指とは比較にならないくらいの圧迫感に呼吸が浅くなる。心臓がバクバクと鳴って、無意識に身体が緊張で強張った。
 凶器みたいなソレを飲む込む事が出来なくて、弥鱈さんの腰が途中で止まる。
 嘘だろ。あんなに解してコレかよ。

「梶様、息を吐いて。力が入ると余計に痛いですよ」
「あ゛っ、ぁ、……うぐ、い、だぁ……!」
「手を貸してください。大丈夫。ゆっくり深呼吸して」

 言われて弥鱈さんの方に手を伸ばす。弥鱈さんの首に手が回されて、グッと抱き寄せられると弥鱈さんの顔が一気に近くに寄った。弥鱈さんの顔が目の前にある。至近距離で見る弥鱈さんの瞳は普段より大きくて、目元が興奮で少し赤くなっていた。

「痛くなったら手に力を入れてください。噛んでも良いですよ」
「ぅ、い゛、でもっ、……それ、したら、弥鱈さんの身体に傷が……」

 弥鱈さんの額にも少し汗が滲んでる。こんだけギチギチだと入れる側も痛いだろうに、弥鱈さんは「立会人がこの程度の傷を気にするわけないでしょう。貴方ばかり痛いのもフェアじゃありませんし」と躊躇いも無く言った。さっきのフェラの時といい、今といい、この人はヤるときでさえ自分は二の次だ。
 上半身をしっかりと抱き合ったまま、少しずつ弥鱈さんが腰を進めてくる。少し進めて、僕の様子を見て、キスして、また進める。進行形でめちゃくちゃ痛いけど、気持ちはぬるま湯に浸かってるみたいだった。怖いほど優しくて、もう十分ですよ、ってくらい気遣いと愛情がダダ漏れてる。こんなに優しいのに、それでも「止めましょう」って言わないのが嬉しかった。絶対腰を引かない辺りが、弥鱈さんも入れたいんだって分かってたまらなくなる。

「ひぎっ、弥鱈さんっ……いま……ぁ……?」
「んっ……えー……半分?」

 とはいえ全然進まない。ほんとに笑えるくらい進まない。いや、笑えないんだけど。結構入れ始めてから時間経ってるはずなのに、半分? 嘘でしょ、もう。

「もう無理ぃ……腹破れる………し、死んじゃうぅ……」
「破れませんし死にません。多分。引っ掻いたり噛み付いたりしてください。少しは気晴らしになりますよ」
「いぅ……弥鱈さんの身体……怪我させたくないぃ……」
「……馬鹿ですねぇ貴方は本当に。自分は私のせいで傷物になっているのに」

 ポタタ、と弥鱈さんの汗が滴り落ちてくる。顔に落ちた汗を、弥鱈さんが嫌そうに手で拭った。僕の顔なんて汗で汚れたところでなんとも無いのに、いっそ過保護なくらいの動作にまた体がゾクゾクと震える。
 とっくに涙とか汗でぐちゃぐちゃになってる顔を汗が落ちた程度でいちいち拭いたり、僕がケツ掘られたくらいで傷物って言ったり。そんなことするの、たぶん弥鱈さんくらいですよ。言葉にすると呆れたように聞こえるけど、その事実がいちいち僕の身体をデロデロに蕩けさせてくる。

「た、例え穴が裂けたって、僕は胸を張りますよ! 弥鱈さんにちゃんと捧げられたってことですから。尻の裂傷は梶隆臣の勲章ですっ」
「授与する側からしたら不名誉極まりない勲章ですねぇ」

 鋭いツッコミが冴えわたる。お互い脂汗をかいてる顔で場違いなくらい笑って、笑った振動で僕が痛がる素振りを見せるとすぐに頭を撫でられた。
 なんだろ、今夜だけでもう僕の今までの人生分くらい頭を撫でられてる気がする。頭を撫でていた手が、弥鱈さんの首に回ってる僕の腕をつつ、となぞった。

「貴方の裂けたアナルが勲章になるなら」

 低くて掠れたエロい声で喋りながら、弥鱈さんの手が僕の腕をたどり、指先まで到達する。弥鱈さんの指が僕の指先を押せば、少し伸びてきていた人差し指の爪がクッと弥鱈さんの皮膚に食い込んだ「ここに貴方がひっかき傷を残したら、それは私の勲章になるんでしょうね」

 試すように言って弥鱈さんがキスをする。身体をもっと密着させて、さぁやれ、と煽る様に腰をすすめてきた。
 一度食い込ませてしまったら歯止めが利かなくなってきて、僕は弥鱈さんに煽られるまま弥鱈さんの背中にグ、と爪を立てる。皮膚が張り詰めて、爪に皮膚が引っかかるような感触があった。

「っ……」
「あっ、弥鱈さん! ごめんなさい大丈……!? ん、ンあぁあ゛ア!?」

 弥鱈さんの顔が痛みで歪む。慌てて手を離した瞬間に、思い切り身体を抱きしめられ、一気に根元まで貫かれた。
 気を抜いた一瞬で体の奥までねじ込まれて、痛いとか思う間もなくみっちりと腹の中が弥鱈さんのちんこで満たされる。全部が熱すぎて、もう先っぽがどこまで入っているのかさえ分からなかった。
 じんじんと内臓中に衝撃が響いている。目を見開いて口を意味も無くパクパクさせる僕を、どうやら痛がる顔は演技だったらしい弥鱈さんが満足げに抱きしめ直した。
 あやすように背中をさすられ、額やら頬に唇が降ってくる。

「お疲れさまです」

 優しい声に労われて、何を思うよりも先に涙が込み上げてきて、僕は弥鱈さんにしがみついたまま、それはもうみっともなく嗚咽を漏らした。

「うっ……うえっ……うぇええぇえ……」
「泣く要素どこかにありましたかねぇ」
「だって、だってぇええ」

 止めようと思うけど涙が止まらない。どんどん大粒になってく涙をシーツで拭って、弥鱈さんが自分の胸に僕の顔を埋めた。
 背中を撫でて、頭を撫でて、低い優しい声が「泣かないでください」と慰めてくる。逆効果過ぎる。優しさにさらに涙が追加された。

「ひっぐ……なんで弥鱈さん、そんな優しいんですか。僕準備とか全然出来てなかったし、フェラ下手だし、突っ込むのだってめちゃくちゃ時間かかって、なのに頭撫でてくれたりとか、ていうかこのホテルだって一晩いくらですか、すんごく高いんでしょ、立会人の人ってそんなに給料良いんですか、弥鱈さんともあろう人がお金の使い方間違えるなんて、僕の為に間違えてくれるなんて、そん、そんなん、泣きますよ、情けないし恥ずかしいし申し訳ないし、でも嬉しいから、馬鹿みたいに泣ける、あぁもう、止まんない」

 シーツで乱暴に涙を拭っても、後から後からこぼれてくるから全然間に合わない。鼻水も出てきて、見えてないけど酷い顔してるんだろう。若干引き気味の弥鱈さんが「過去一ですよ梶様」と言った。えぐえぐ言いながら、僕は「自覚はありますぅうう」と頷く。
 僕の号泣してる姿を唇を尖らせながら見ていた弥鱈さんが、ふいに僕の顔を上に持ち上げた。二人の目が合う。「貴方は」と言いながら弥鱈さんが僕の口に指を押し当てた。

「貴方は、梶隆臣様ですね」
「え? あ、はい……」
「じゃぁ私は?」
「え、み、弥鱈さんです。弥鱈悠助さん。俱楽部賭郎弐拾八號立会人」
「えぇそうです」

 いきなり謎な質問を投げられて、訳が分からず涙が引っ込む。
 頷いた弥鱈さんは繋がったままの下半身を見下ろして、そんでもってとんでもない顔してる僕の顔をもう一度見て、それからちょっと不満そうな顔で言った。

「貴方と私です。だったら過ごす夜はこうなって然るべきだ。違うんですか? 何故貴方はそう泣くんです?」
 
 
 え、何それ?
 唇に指を押し当てられたまま、ポカンと口を開ける。弥鱈さんの指が素直に口の中に落ちてきて、口内でだらけたままの舌を撫でた。
 え、何それ。弥鱈さんと僕だとこんなセックス当たり前なの? 高級ホテルもいちいち褒めてくれるとこも頭撫でる細くて長い指も、当たり前なの? 僕は別に顔が可愛いわけでも華奢なわけでもすごく頭が良いわけでもないし、僕の誰にも負けないとこって言ったら好きな人に向けれる忠誠心の大きさくらいで、それだって弥鱈さんには普段何にも響いてないと思ってたけど。それでも僕は、弥鱈さんにこれだけ甘やかしてもらっても当然なの?
 弥鱈さんが僕にやって当然だって思ってたことって、こんなに温くて甘いものだったの?

 またぶわっと涙がやってくる。弥鱈さんはやっぱり面倒くさそうに、それでも僕を突き放したりせずに抱きしめたまま「締まらない人ですねぇ」と言った。

「というか、もう泣いても何してても良いんですけど、そろそろ動きますよ」

 弥鱈さんがため息を吐く。呆れてるのかと思ったけど、中に埋まってるちんこがドクン、と脈打った気がして、見た目以上に弥鱈さんもヤバいんじゃないかって気がしてきた。そういえば話してる間もずっとちんこ動かさずにいたんだよな弥鱈さん。もう何度目かの感想だけど、忍耐力がありすぎてとんでもなくスゴイという感情しか湧いてこない。
 コクン、と頷いたら、深く突き刺したまま、弥鱈さんが腰をゆっくりと動かしてきた。前後に突くような動きはしないで、ナカを広げるように押し付けてくる。

「あっ、ひっ、あァ、や、これ、い……たくない? あれ? ん、ふ、ンんー?」
「最初から激しくは動きませんよ。痛くないですから、落ち着きましょうね」
「はっ、ふっ、ん、んん……!」

 緩く腰を動かしながら、弥鱈さんがまた僕の口をふさぐ。ちゅくちゅく、ワザと音を立てながらキスをして、手は指先を絡めるように握られてシーツに縫い付けられる。たっぷり口の中を弄られて息が甘くなってきたら、今度は乳首を弄られた。またしても中も外も弥鱈さんでいっぱいだ。
 少しずつ上下のスライドが増えてきて、引き抜かれるたびに内臓ごと持ってかれるような感覚がある。ギリギリまで抜かれて、浅い所をちゅこちゅこ責められると、さっきまであんなに痛かったのに変な声が出た。

「あぅっ……ッ、……くふ、ぅっ……ぅあァ、あんっ、あ、アぁ……」
「ッ、甘い声ですね。もう気持ち良いんですか?」

 少し声を詰まらせて弥鱈さんが言う。さっきよりも余裕が無い顔をしてて、口の端から時々息が漏れていた。

「あぁふ……ン……っ……すご……いっ……いい、です……あっ、あっ、待っ、て……はァッ……」
「待てません。――というか、もう良いですよね」

 何が? と言うより先にさっきまでよがり狂ってたポイントを中心的に突かれる。

「きゃんッ!!」
「室内に子犬なんていましたかねぇ」

 指で挟まれるのもヤバかったけど、熱いちんこで全体をぐりぐり押されるともっとヤバい。ちんこを後ろからも弄られてるみたいな感じだけど、それよりもっと、腰とか腹にまで甘い痺れが広がった。

「ぃいッ‥! ッや、ん! ぃっ、んァ!! あっ、アァ!!」

 前後の動きが激しくなってきて、パン! パン! とお互いの身体がぶつかり合う音が部屋中に響いていた。
 男二人が揺れるたび、頑丈そうなベッドでもギシギシと軋む音がする。揺さぶられていたら、弥鱈さんの手が僕の頭を覆った。ゴツン、とその後に少しだけ頭に振動がきたから、動きすぎてベッドのヘッドボードまで体が上がっていたらしい。そろそろ遠慮が無くなってきた弥鱈さんの腰遣いに翻弄されながら、頭をぶつけないようにって当たり前のように手で押さえてくれる弥鱈さんの優しさに腹の奥が疼く。時々押さえてる手が、撫でるように動いてることに気付いたらもうダメだった。

「もっ、イ、ッ……やば……ひァっぁっあ! ……ぁ、やめ、みだしゃ、みだら、しゃんっ……!!」
「ん、どうしました?」
「やさし、の……やめてッ、ぁ、優し、いの…ダメ…ん、ッ……! はっ、それ、イっちゃう、からっ……!」
「優しいとイクんですか? どういう仕組みですそれは?」

 弥鱈さんがほんとに分からないって顔で僕を見てる。いや、気持ちは分かりますけど、それ以外の言い方がないから仕方ない。現に優しすぎてイきそうになってるんです、こっちは。

「やっ待っ……頭っ、ひっ、う、ん、ぁっ……!! 撫でないでっ、あのっ……! ……イくからッ、ホントにぃっ……、ッ!」
「性器じゃなくて頭を撫でられてイくんですか? 変態ですね。感度馬鹿になっちゃったんですねぇ」

 どんどん不名誉な称号が増えていってる気がするけど、感度は確かに馬鹿になってるので素直に頷く。
 弥鱈さんはふぅん、と鼻を鳴らして、脈略もなく乳首を抓った。甲高い声を上げた僕に気をよくして、一回のセックスですっかり性感帯にされてしまった乳首をまた弄られる。乳首を潰すように押したり、指二本でこねられたり、さっきより動きはちょっと激しいけど、もっと弄ってほしくて胸を突き出してしまう。

「あぅッ、ぅ、く、みだらさ、好き、あんっ、す、きぃッ……!」
「存じております」
「違うんですッ……! ァ、はっ、あのッ、……好きだったけどッ、こん、な……セックスされ……たら、ィ、ぁ……こんな優しくされたら……ぅ、ん……無理、ィ……好きになりすぎて……はァ、ん……ぅ、死ぬッ……!!」

 弥鱈さんのことは好きだ。立会人としても人間としても、それこそ弥鱈立会人がただの「弥鱈悠介」になってもきっと大好き。最初は強さに憧れて、会ううちに別の意味で好きになって、たかだか付き合って一週間でなんだって言われるだろうけど、これ以上好きになるとか無いんだろうなって思ってた。もう僕は十分惚れ抜いてると思ってた。
 なのに、今日弥鱈さんに全部暴かれて、中も外も撫でられて甘やかされて、まだ全然好きになれるんじゃんって、頭が追い付かないくらいもっと弥鱈さんに落ちた。
 優しく撫でてくれる手も、熱くて柔らかい唇も舌も、今日初めて知ったし、今日どうしようもなく好きになった。好きな手に、唇に、舌に。熱くされる身体が気持ち良かった。蕩けていく脳も、感じたことのない刺激も、弥鱈さんが僕にくれてるんだと思うだけで無条件に受け入れたくなった。塗り替えられてく身体が、こんなに簡単に染まっていく身体が、ヤバいって思うと同時に嬉しくてたまらなかった。
 もう、今自分が傍から見てどんな姿に映っていてもいても良い。
 弥鱈さんが褒めてくれるなら、楽しんでくれるなら。何だってする。何だってしたい。

「ぁッ、んッ、……! こんなの、……ダメ、僕ばっかり気持ちいい。優しくて、体がっ、弥鱈さんに触られンの喜んでるっ……こんなの、好きになるっ……しか、ないじゃん、ふぁ……っ、ぁあ、ッ、弥鱈さんのことも、弥鱈さんの手もちんこも全部、弥鱈さんの全部……っ、欲しいッ! あっあっ、こんなのっ、こんなゾワゾワする感じっ、僕知らない、怖いぃぃ……!!」
「……それ、一言でなんて言うか知ってます?」

 弥鱈さんが顔を寄せた。喘ぎ声がうるさい僕の口を塞いで、存分に口の中を味わい尽くしてから、僕の耳に唇をくっつける。

「雌になるっていうんですよ」

 低音が鼓膜を揺らして、ダメ押しとばかりに舌が耳の中に突っ込まれる。
 ダイレクトに聞こえる水気のある音に、後ろの穴がきゅぅって締まった。『嬉しい』って身体が言ってるみたいだった。
 この反応が全てな気がする。雌になるって言われて、穴締めてナカに埋まってるちんこ喜ばせようとするようなヤツ、確かにこの人の雌以外の何物でもない。

「あっ、ゃ……それでいいっ……! メスっ、……雌で良い、ッ! ぼくっ……弥鱈さんの雌になる……なり、はぁっ、……なりたい……ッ! んっ、はァっ! 弥鱈さんの、雌になって、それで良いからずっと気持ちいいことし、てぇ……! ……ン!! あっ、ぁっ、ナカっ……こしゅ、って……! 顔、見せてっ、弥鱈さん、ぁン、ん、やっ、」

 たっぷり解してもらった穴は広げられるたびに気持ち良い。イイトコをたくさん教えてもらって、僕の内臓は今日から性感帯になったので、弥鱈さんのちんこでごちゅごちゅ擦られるたび嬉しくて気持ち良くて幸せな気持ちになった。
 今までただ付いてるだけだと思ってた乳首も、AVで毎回飛ばしがちだったキスだって、弥鱈さんにたっぷり触られて与えられたらもう無いことが考えられないくらい大好きになってしまった。全部ぜんぶ、たった一回で塗り替えられた。どうしてくれるんだよ弥鱈さん。こんな簡単に、こんな何もかも、変えられてしまったら、僕は弥鱈さんから離れられなくなる。

「あなのとこっ……気持ちい! 優しいの、気持ち、ぃい……弥鱈さん、ぼく、もう、むり、いくっ、あっアっ」
「ン、上手く出せたら、褒めてあげますからね」

 徐々に込み上げてくる感覚に、また射精が近いことを悟る。そういえば途中からちんこを触られてなかったなぁ、なんて思ってチラっと下を見たら、ダラダラと汁を流しながら震えてるちんこがあって、こんなとこも塗り替えられたのかとクラクラした。
 あっあっ。気持ち良い。ダメだ。もうダメ。
 イってしまう。
 弥鱈さんの手で、弥鱈悠助という人間に酔って、僕はもう、この人で達してしまう。

「あっ、んっ、はふっ、嬉し、んんっ、いく、上手に出すから、出したら、褒めて、僕のこと、貴方の雌にして、弥鱈さん、ァ、みだら、しゃ、ん……!!」
「えぇ、ッ、喜んで」

 トドメとばかりに弥鱈さんの腰が速くなる。ベッドのスプリングが軋むくらいの激しい動きに、僕は半分白目をむいて、壊れたおもちゃみたいに声をあげながら弥鱈さんの首にしがみついていた。

「───上手にイって、全部私のものになりましょうね」

 頭を撫でながら極めつけに強くイイトコロを抉られて。
 僕は声にならない叫びをあげ、勢いよく欲を、二人の肌にぶちまけた。