27422

  
  
   
  
 取り換えられたばかりのシーツに二人で寝転んで、これから始まる『遊び』に梶ちゃんと思いを馳せる。人によっては眉を顰める爛れた行為にも関わらず、クスクス笑って「嬉しいなぁ」と顔をほころばせる梶ちゃんからは清潔な石鹸のにおいだけがした。

「マルコに怒られちゃうかな」
「なんでマーくん? まさか、あんな良い子と君は浮気してるの? うわぁ悪い大人。お仕置きしなきゃ」
「違いますよぅ。マルコにね、僕いつも言ってるんです。ベッドの上でポテチ食べたり、ジュース飲んじゃ駄目だよって。あんまりシーツが汚れると洗う人が大変だからって」
「うん」
「言った僕が、今日はマルコよりずっとシーツを汚しちゃうわけで」
「あーなるほど」

 したり顔で頷く。梶ちゃんはほんのり顔を赤らめて、着慣れないバスローブで自分の顔を隠した。「そうなんです」

「やらしいこと言うなぁ」
「ね。自分でもびっくり。すごいこと言っちゃってますよね。どうしたんだろ、僕。そんなキャラじゃないのに」

 バスローブの隙間から梶ちゃんの目がひょこんと顔を出す。今更恥じらいが出てきたようで、はだけた足元を気まずそうに擦り合わせた梶ちゃんは「やっぱりこれ、服って呼べるようなもんじゃないですよ」とバスローブのタオル生地を恨めしそうに引っ張っていた。

 普段頑として『寝る時はジャージ』を崩さない子が、今日は備え付けのバスローブを羽織って風呂場から出てきた。元々突拍子もなく大胆なことをしでかす子だとは思っていたけど、今日の梶ちゃんの思い切りの良さは、凄いを通り越して少々不安になるくらいだ。

 大丈夫なの梶ちゃん、そんなに頑張って美味しそうになっちゃって。俺もうずぅっと腹ペコだったから、そんなに腕によりをかけて可愛い君を料理されちゃうと、なんかもう、マナーも忘れてがっつきたくなっちゃうんだけど。

 いい年した男が二人、今日はレストランフロアで食事をしている時も、各自シャワーに入り準備を進めている時も、心は上の空だった。ガンガン行こうぜ! なんてゲームの中でしか口にしたことのない作戦を、今日は俺と梶ちゃんでベッドを舞台に敢行予定である。『命大事に』は過去の作戦で、今日を境に今後は健康的な男二人でガンガンイこうぜ! ――うぅん、我ながら言ってることがお下劣だ。

 セックスのことをスポーツと言い換える人も高度コミュニケーションと表現する人も世の中には居るけれど、俺と梶ちゃんにとってのコレはいわば長らく止められていた悪い遊びの解禁だった。初めて酒を飲むとか、初めて車を運転するとか、その類に近い。ずっとダメだと頭ごなしに禁止されていたものが、たった一つの状態異常が治っただけで一転歓迎されるというのは不思議な気分だった。

「どうしよ。俺、今日けっこう酷くしちゃうかも」

 バスローブの上から梶ちゃんの体をなぞる。ふわふわしたタオル地の下には骨格のしっかりとした男の体があって、でもいつかに抱き始めた時より、ほんの少しだけ腰のくびれが強くなったように感じた。

「ひどくって? 殴る蹴る的な?」
「いやソレを宣言するくらいならそもそもエッチしないよ……じゃなくてこう、止めてって言われても止めないとか、梶ちゃんが泣くまでネチネチ責めるとか、そういうの」
「ひえっ、恐怖宣告! ……でもそれってひどいんですか?」
「え? う、うん。多分ひどいんじゃないかな。だって梶ちゃんのこと、俺いますっごくグチャグチャにしたいし」

 うひ、と梶ちゃんが声を上げる。小さな声で「ぐちゃぐちゃ……」と繰り返す梶ちゃんがどうにか困惑を取り繕おうとしているのが分かったけど、どうにも上手くいきそうにないことも、梶ちゃんの顔が段々とニヤけていくので俺には手に取るように分かった。
 元々性欲が強いタイプだし、年齢もいわゆる“ヤりたい盛り”ど真ん中の彼である。(希望的観測も含めて)今までのセックスもそれなりに楽しんでいただろうとは思うが、たった一回の挿入で三〇分はベッドから起き上がれなくなっていた以前の俺に、健康な成人男性が何も思うことが無いとは俺だって思っていなかった。

 ───貘さんと一緒に過ごせてるだけで、僕は十分ですよ。

 時には一回分の律動さえ耐えきれず、不完全燃焼の体に介護まがいの世話をさせたこともある。梶ちゃんが俺の体力に文句を言ったことは一度もなく、どころかいつも俺の体調を第一に、先述の台詞を呟いては謝る俺を抱き締めてくれた。健気で献身的な梶ちゃんが相手だったからどうにか俺たちはここまで来れたわけで、愛想を尽かさないでいてくれた梶ちゃんに、俺としては頭を下げるしか無かった。

 とはいえ激しい動きが解禁、夢にまで見た恋人との持久戦セックスが目前である。梶ちゃんへの感謝や、今まで我慢を強いてきたアレコレに対してきちんと誠意を返したいという気持ちはやまやまだが、それはそれとして俺の中には梶ちゃんへの願望がむくむくと膨れ上がっていた。梶ちゃんにしたいことが次から次へと出てきて収拾がつかない。バスローブ越しの体が、早く欲しくて仕方なかった。

「……貘さん、なんかやらしい顔してますよ」
「マジ? 願望出ちゃってた?」
「ただでさえイケメンなんですから、エロい顔を不意打ちでするの止めてくださいよ。ドキドキしちゃう」

 そう言って梶ちゃんの顔がまたバスローブに隠れる。顔みせて、とお願いした数十秒後におずおずと出てきた梶ちゃんの顔はもう瞳が潤んでいて、いかにも食べてくれといわんばかりの熟し具合だった。
 生唾を飲み込み、梶ちゃんの肩をなるべく優しい力で掴む。手を下におろしていき、バスローブの境目に手を差し込むと、梶ちゃんの体がピクンと跳ねた。
 今日も感度が良くてよろしい。平らな胸を撫で、俺はツンと立ち上がってる梶ちゃんの乳首を軽く摘む。

「あンっ……えと、もう?」
「うん、もう。早い? もっとお喋りする?」
「お喋り……したいような、したくないような」

 梶ちゃんがもじもじする。可愛い。童貞はともかく処女なんてとっくに失くなった体だというのに、どうしてこの子はいつまでも透き通って見えるんだろう。

「別にお喋りしても良いよ。梶ちゃんと話すの、俺好きだし。そうだなぁ……きみ、名前はなんていうの? こういうことするのは初めて? 緊張してる?」
「いやAV前のインタビュー」
「バレた?」
「昨日見た新作に同じようなシーンあったんで」

 サラッと今でもAVヘビーユーザーであることをカミングアウトされる。別にビデオごときで浮気認定するつもりはないけど、もう少し恥じらいというか、AVを見まくっていることに抵抗を覚えても良いんじゃないかと思った。まぁ初対面の人間に“おもてなし”と称してAVを見せるような子なので、そんな所に期待しても無謀かもしれないが。

 バスローブ姿で居心地悪そうにしている、外見だけでいえば本当にビデオの撮影直前みたいな梶ちゃんは「名前は梶隆臣って言います」とシーツに頬を押し当てたまま言う。

「年齢は二×才。職業はえっと……一応自営業かな? こういうことは初めてじゃないけど、何回やっても緊張しちゃって」
「ノッてくるのかーい。エッチは好き?」
「好き、ですかね。うん。好きななほうだと思います」
「そうなんだ。隆臣君は、どんなエッチが好き?」

 手慰みに摘まんでいる梶ちゃんの乳首を更にぐにぐにと弄る。少し息が上がってきた梶ちゃんが、悩まし気に眉間を寄せた。

「んっんっ……んー……相手が、気持ち良くなるエッチですかね」
「んん? 相手? 自分じゃなくて?」回答が気になるので手の動きを止める。
「相手、です。僕、いつも一緒にエッチしてる人のことが大好きなので。その人が気持ちが良いのが一番嬉しい。それに相手が気持ち良いって分かると、なんか僕も、つられて気持ち良くなるから」
「え、あ、ふーん。そうなの。ふーん……んふっ。そう、んふふ」
「ちょっと、インタビュアーさん? 素が漏れちゃってますよ」

 梶ちゃんが咎めるように足先で俺をつつく。ニヤニヤと笑いが止まらない俺に、ワザとらしく頬を膨らませた梶ちゃんは「言わなきゃ良かった」と言って俺の頬に手を伸ばしてきた。だらしなく緩んだ俺の頬を梶ちゃんの手がつねる。痛くはない。こんな戯れを躊躇わずにするようになってくれた梶ちゃんがただ嬉しい。

「ごめんごめん。いやちょっと、可愛すぎちゃって。ダメだ今の。鼻血出るかと思った」
「止めてくださいよ。血はシーツに着くと落ちにくいんですから」

 なんて脳内花畑なこと思ってたら、すかさず所帯じみたことも言い出す。そういうところだよ、と少し呆れた気持ちで額にキスすると、相手はどう捉えたのか「んふっ」と俺に似たような笑い声をあげてバスローブの紐を自分で解いた。そんなつもりは無かったけどスタートの合図だと思ったらしい。場を仕切り直す理由もないので、俺も梶ちゃんに倣ってバスローブを脱いだ。
 素っ裸の二人になって、改めて抱き締め合う。ぴたりと重なった肌の上で、梶ちゃんが感慨深げに呟いた。

「貘さんの心臓、うるさいですね」
「今までと違う?」
「全然違います。今までは、耳を当てないと心音が分からなかった」
「そうだったんだ」

 初めて聞いた感想だ。胸によく擦り寄ってきていた梶ちゃんは、いつもそんなことを思いながら俺と接していたのだ。

「今は肌を押し返してくるくらい元気。貘さん、本当に心臓が変わったんですね」
「正確には戻ってきた、だけどね。これが俺の本来」
「すごい。生きてる」
「今までだって生きてたよ」
「そうだけど、なんて言うんだろ、これからも生きてくんだなって感じがする」
「そっか」
「生きていくんですね」
「うん、そうだよ。生きてくの。君と」

 梶ちゃんの顔がじぃっと俺を見てくる。今度は唇にキスをしたら、梶ちゃんの方から舌を伸ばしてきた。水気の多い音が二人の間を行き交い、顎を伝って二人の体液がシーツに落ちる。再び梶ちゃんの胸に手を這わすと、唇の隙間から注文がついた。

「そこはもう良いです」
「早くない?」
「良いんです、今日は。はやく下触って。後ろ、準備多少はしてきたから。最後の調整は貘さんがやってください」

 何も纏っていない足を梶ちゃんが絡めてくる。中心はもう硬くなっていて、太ももに当たった梶ちゃんの性器はぬるん、と早々に俺の肌の上で滑っていた。
 やらしい。たまんない。
 我慢が出来なくなって、右手は梶ちゃんの穴に伸ばしつつ、左手は梶ちゃん自身を掴んで緩く扱き始める。梶ちゃんから素直に甘い声が上がって、絡められていた足は、侵入を手助けするように片膝が立てられた。

「あ、やぁっ、ンっ……」

 ちゅこちゅことゆっくり前を扱きつつ、後ろに中指を埋める。『多少準備をしてきた』っていう梶ちゃんの言葉通り、穴は最初から比較的緩まっていた。ぐるんと円をかくように指を動かして、梶ちゃんの弱いところをぐにぐにと中側から押す。間を置かずに人差し指も埋め、中でピースサインを作った。肉は抵抗せずに指に沿って拡がる。三本目も簡単に入ってしまいそうだったけど、ひとまず二本で梶ちゃんの反応を見ることにした。

「はっ、はぅ、んン……!」
「気持ち良い?」
「あっ、きもち、きもちいですっ……! あっ、そこぐにぐにしないでっ……ぼくそこっ……!」
「弱いよね」
「うん、うん……! よわいのっ、あっ、や、あ、あっ……ゆびだめっ……ダメ……!」

 ダメと言うわりには梶ちゃんの股は一層開いていき、俺の指に合わせるように、腰もカクカクと上下に揺れ動いた。左手を添わせている性器は面白いくらいに膨らんでいて、このまま彼が腰を動かしていたらほんの数十秒で発射しそうだ。
 俺としては何度吐き出してもらっても良いからこのまま一回抜いてしまおうかと思ったけれど、梶ちゃんは前の刺激があんまり強いと怖いらしい。無意識なのか腰の動きは止めないまま、梶ちゃんの手が弱弱しい力で性器を扱いている俺の左手を掴んだ。

「アッ、あ! だめっ、前、も、おしりもっ……! ンぁッ! どっちもはだめっ……!」
「だめ? じゃぁ、どっちか止めよっか。どっちやめる?」
「ンンッ……! まえ、まえ止めて……!」
「前? ちんちん触るのやめて良いの?」悪戯心が芽生え、つい鈴口に爪を立ててしまう。「梶ちゃん男の子なのに、ちんこよりお尻を取るんだ?」
「ひァ、! ア、あぅっ……だって、だってぇ……!」

 梶ちゃんの視線が下に落ちた。勃起が始まっている俺の性器を見て、こくんと梶ちゃんの喉が鳴る。何が言いたいのか手に取るように分かり、俺も生唾を飲み込んだ。

「うん、そうだよね。だって俺のちんこで気持ち良くなりたかったら、お尻たくさん弄んなきゃ駄目だもんね」
「ひぅっ、ばくしゃん、おしり、もっと……!」
「うんうん。じゃぁちんちんはお休みね。お尻だけ。指増やしたげる」
「あッ、んぁっ! っ、ぁ、ありが、と……ございますっ……!」

 頭を振り乱して梶ちゃんがお礼を言う。放置が決まった梶ちゃんのちんこがぶるんと揺れ、何もない空間で頼りなさげに震えていた。

 同じ男としてちんこが少し可哀相な気もするけど、梶ちゃんが決めたことだからグッと我慢。俺は枕元に脱ぎ捨てていたバスローブで濡れた手を拭い、空いた左手で梶ちゃんの頭を撫でることにする。
 三本の指に翻弄され、梶ちゃんは中の刺激に感じ入っているようだった。受け入れようと頑張っているいじらしい姿に、髪を梳く手は自然と柔らかくなった。

「アッあぅ、んぁっ! おひ、おひり、おひりぃ……!」

 指の動きが激しくなるごとに梶ちゃんの言葉もあられのないものに変わっていく。腕はいつからか俺の首に回っていたが、締めてしまわないようにという配慮か、梶ちゃんの手は俺の肩の骨を掴んで耐えていた。縋り付いてるのに相手の動きは制限しないという器用なやり方を選んで、梶ちゃんは俺の耳元でひっきりなしに喘ぐ。

 体温でゆるくなったローションが、指を伝って肘辺りまで垂れていた。はくはくと伸縮する穴は力を加えるとに形を変え、ぐんにゃり指にまとわりついて、中に招き入れようと蠢いている。頃合だった。

「そろそろ挿れるね」

 梶ちゃんの中から指を引き抜き、自分の性器にゴムを被せる。先端にゴムを当てた瞬間から『あれ、こんなだったっけ?』となんとなく違和感があり、そのままゴムを装着していくにつれ、今までにない締め付けを否が応でも感じた。
 前々から愛用していたはずのコンドームが、今日はちょっとキツい。なんとなく視覚的にも感じていたことだが、どうやら心臓が変わるというのは、臓器一つが単に元気になるだけに留まらない効果を生むらしかった。

 当たり前と言えば当たり前の話である。心臓とは体中に血流を送るポンプであり、性器が勃起するシステムは、海綿体が血流によって活性化することで生じる。廃棄寸前だった粗悪品が突然良品フルパワーになったのだ。まぁそりゃぁ、入ってくる血も段違いだった。
 少々の窮屈を感じつつ、梶ちゃんの穴に先端をびと、とくっ付ける。押し当てられた熱に喉を鳴らした梶ちゃんが、つぷん、と入ってきた質量に途端目を見開いた。

「えぁっ……!? え、あ、あ、……ア?」

 梶ちゃんの顔に困惑が広がる。目をかっぴらいた梶ちゃんが、浅い息をしながら体を仰け反らせた。普段ならこれだけ解せばスムーズに入るはずの性器が、今日はローションを追加してもなかなか入っていかない。ぐぐ、と腰を進めるたび、梶ちゃんのお尻の淵が苦しそうに引き攣った。

「待っ……ばく、ひゃ……! なんっ、ぁ、あ、っ、……んぐ、ぐぅ……!」
「大丈夫梶ちゃん? 痛い?」

 いったん腰を止め、梶ちゃんの顔を覗き込む。顔には相変わらず未知の感覚に対する戸惑いがあった。

「えぁっ……貘さっ……な、なんか変っ……ぼくこれ、し、知らないっ……!」

 梶ちゃんの手が下に降りてくる。接合部分を指でなぞった梶ちゃんが、そのあと恐る恐る俺の性器を触った。おっかなびっくりで埋まっていない部分を触り、形を確かめるように握りこんでみる。「へ!?」と梶ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。

「なに、これ……ふ、ふと……! あっつ……!」
「血流良くなったからかな? 思ったよりサイズ変わったね」
「こんなっ……む、無理です貘さん! こんなん、はい、入んないっ……!」
「大丈夫だって。いっぱい解したし、先っぽはもう入ってるし。あとは押し込むだけだもん」
「いや、でもっ……!」
「今まで触れなかったとこも触れるかもね。梶ちゃん、前から奥ぐりぐりされるの好きだったでしょ? もっとたくさん、もっと深いトコぐりぐりしてあげれるよ? 興味なぁい?」
「うっ……そ、それは……」

 興味ありますけど、と徐々に語尾が小さくなっていく。梶ちゃんの穴がきゅぅと締まって、触っても無いのに性器がまたふるんと揺れた。口では恥ずかしがっても、若い身体はどこまでも快楽に正直だ。

「苦しかったら止めるから。ね? おねがい、梶ちゃん。俺もう限界なの。梶ちゃんに入りたくておかしくなりそう」

 言いながら梶ちゃんの体を軽く持ち上げる。運動が解禁されたお陰でようやくジム通いも可能となり、ヨガでやり過ごしていた運動への欲求を最近は思う存分トレーニング器具にぶつけられるようになっていた。貧弱の名をほしいままにしていた筋肉もじわじわと育ってきている。梶ちゃん程度の重さを持ち上げるくらい訳もない。

 持ち上げた体を上下に揺らし、梶ちゃんの体に俺の形を教え込ませていく。指とは打って変わって隙間なく埋まった体内に、梶ちゃんは喉を仰け反らせ、面白いくらい鳴いた。

「ふぁっ! っんぁ、あッ……! ッ、待……っん、ぁ、今、揺らされたら……!」
「なに?」
「ぁんっッ、ん、入るの許しちゃうっ……ぁ、入って、ほしくなっちゃぅぅ……!」
「あはっ。それさ、言って本当に待ってもらえると思ってるの?」
「ひっ……! アあぁッ! ふぁ、あっ、あぅ――!!」

 恋人の痴態を前に、耐え性なんてものはあって無いようなものだ。俺は身体を抱え直し、角度を調節して一気に梶ちゃんの中に押し入った。そりゃそうである。こんな可愛いことを言われて、馬鹿正直に止まる男がどこに居るのか。
 梶ちゃんが好きな所を擦りながら奥まで埋めきってしまうと、梶ちゃんの中心からぴゅくっと精液が漏れた。トコロテンをかました梶ちゃんが全身を痙攣させ、中に埋まっている俺をきゅう、と締め付ける。

 ヤバい、気持ち良い。
 うっかりしてると俺もすぐ出してしまいそうだ。

「おっ、ぁ、……ァ……♡」
「入ったよ梶ちゃん。全部。ちょっとイっちゃったね」

 わざと恥ずかしいことを口に出して、液を垂れ流している梶ちゃんの性器に手を伸ばす。ちゅくちゅくと軽く扱いてやると、緩く勃起したままの性器から断続的に精液が吐き出された。梶ちゃんは焦点の合わない目を宙に漂わせている。呼吸が浅く、今も小さくイっているようだった。

「動いて良い?」
「あ、……ぁ……」
「ていうか、動くね。こっからがセックスだよ梶ちゃん。舌噛まないようにね」
「んっ……ばく、しゃん……!」

 何か言いたげな視線が俺に注がれる。何だろ、止めてって言いたいのかな。残念だけど、それはちょっと無理な相談だ。
 深呼吸をして、ゆっくり腰を引く。引き留めるように絡みついてくる梶ちゃんのナカが可愛くて、いじらしくて、どうしようもなく興奮した。

 溜まった唾を飲み込み、梶ちゃんの体を見下ろす。何度も繋げてきた身体は、けれど今日は一段と美味そうに見えた。この身体がどんなふうに跳ねて、どんな風に達するのかは知っている。今日は、今日からは。好きなだけ貪って良いんだと思うだけで頭が煮えそうになった。
 毎回噛みしめるように勿体ぶって動かしていた腰を、試しにばちゅん、と欲のままにぶつけてみる。頭の中で何かの線が切れる感覚があり、気付いた時には既にまた腰を引き、また奥に自身をぶつけていた。

 リミッターが外れたのだと他人事のように悟る。ブレーキがぶっ壊れてしまった腰が、動物みたいにひたすら動いていた。

「ひっ――!? あっ、ぁンあっ!? あぁッ! やっ、あっぁ! ッ、んぁあぅっ! びゃ、びゃくしゃんっ! ばくさァ、っ! アッ! おっ! んぁアあぁッ!!」

 梶ちゃんから聞いたことのない音量が飛び出してくる。喘ぎ声と悲鳴の中間みたいな声で梶ちゃんが鳴き、ずっと肩を掴んでいた手が制止するように俺の腕まで降りてきていた。
 それなりの力で掴まれて、成人男性の腕力で引き離そうと躍起になられる。今までだったら簡単に止められていたはずの貧弱な俺が全く意に介さず動き続けるものだから、梶ちゃんは信じられないって顔で俺を見て、大混乱のまま快楽の渦に飲み込まれていった。

「アッあっぁ! おっ! ァん! ふっ、あっあぅ! あ、ぉ、お!!」
「はっはっ、やばっ、きもち、ぁ、梶ちゃんっ、腰無理、止まんない……!」
「んっ! あん! アッあっァ! おっ、ん、ン! あぅあっ! ぁ、あぁッ! ばくしゃんっ! ばくさんっ!!」
「梶ちゃんっ、かじちゃん……!」
「ァんっんあ! っぁ! ばくさん! アッンッんぁ!! ァん! おっ! ばくっ……! ァ、ああぁッ!!」

 もう何だこれって感じだった。テクニックとかプレイとかなんにもなく、ただ梶ちゃんが一番よがって可愛い部分めがけて自分を打ち込む。一突きするごとに中の自分がより膨らんで、梶ちゃんの好きな箇所を、毎回きちんと潰してやれないだけでイライラした。

 スピードに緩急をつけてる余裕もない。梶ちゃんの奥を殴りつけるのが楽しくて気持ち良くて、奥を叩きたいから助走をつけるために急いで腰を引く、そんな具合だった。

「あッ! んおっ! あん! ン、っあ! ァあぁッ! あぅんぁ! っ! あっぁッアッ! ばくしゃ、止まっ、ぅ! とまってぇ!」
「無理!」
「むりってそんなぁ!!」

 今までならこんな飛ばし方をしたら射精の前に心臓がイカれて動けなくなっていたところだ。めちゃくちゃに動いて梶ちゃんを貪りたいという願望だけはいつも胸に燻っていたけれど、現実問題今までの心臓じゃ土台無理な話で、梶ちゃんとのセックスは必然的にスローセックスだった。別にそれも嫌いだったわけじゃないけど、でもそういうセックスって、本来はある程度普通のセックスをこなしてきたカップルが最終的に行き着く愛し方だ。ヤるだけヤり尽くした奴らが、『セックスというのは体の繋がりじゃなくて心の繋がりが重要☆』みたいな悟りに至った際に始めるのがスローセックスである。
 
 勿論梶ちゃんの体だけが欲しいと言いたいわけじゃないし、身体も心も、俺は梶ちゃんから全部貰うしあげるけども。
 
 それでも俺は、まずはずっと、梶ちゃんで馬鹿になりたかった。
 梶ちゃんの肌に理性を忘れて、梶ちゃんの声に歯止めが利かなくなって、梶ちゃんの中に夢中になった結果発情期の猿かよってくらい一心不乱に腰を振りたかった。
 
 何なんだろうか、この感覚は。恋に溺れるとかの、もっと生々くて根本的な欲求かもしれない。大好きなこの子に酔って馬鹿に成り下がりたかった。梶ちゃんに溺れて、何もかも忘れて梶ちゃんだけを求めていたかった。破滅願望だろうか。ずっと梶ちゃんが欲しかった。梶ちゃんで俺の中身全部が満たされたかった。

「最高……っ、さいっこう! っァ、梶ちゃんきもちい、梶ちゃん好き、大好き! 梶ちゃん!」
「ふやあ゛あ゛あ゛あ!!」

 ギリギリまで抜いて一気に根元まで挿れる。出ていくたびにすぐに梶ちゃんが恋しくなって、再び打ち込むときには、俺は何故か毎回『早く入んなきゃ』と焦りさえ感じていた。訳わかんない。度を越えた刺激に有頂天になってる一方で、さっきから乱暴な快感ばかり生んでいる自覚もある。きっと梶ちゃんもそうだ。さっきから大混乱って感じで喘いでる梶ちゃんは、きっと普段の方が純粋な快感としては上なんだろうと思った。

 今日の梶ちゃんはいつもみたいに声が甘ったるくないし、いつもみたいに最中「もっと♡」などと可愛らしいおねだりをしてくることもない。ていうか、まぁ、実際そんな余裕も無いんだろう。現在進行形の梶ちゃんは、なんか、俺がむちゃくちゃに中に入ってくるからどうしたら良いのか分かっていない感じだった。気持ちが良いとか気持ちが良くないとかは二の次で、ただただ蹂躙される自分に理解が及んでないようだ。

 それでも「止まって」とは言っても「やめて」とは言わないのだから、梶隆臣という子は、なんていうか、つくづく俺に都合のいい性分をしているなと思う。

「あ、あー出そうッ。梶ちゃん、出る、出るよ。梶ちゃんの中にザーメン出しちゃう。ねぇ良いよね? ゴムしてるもんね? 中で射精しても良いよね?」
「ッんぁ! ふぁ、あ、あー! ばくさんっ! おっき、っや、! 出してッ! 早くイって! お願い! ああぅっ! うっ! おねがい! お尻こわれちゃう、っおねがっ……! あっぁ! んっ、ん! ぅ、んンッ! ばくさんっ! おしりだめっ、ア、ンンー!」
「うんうん! じゃぁ一回出しちゃうね! 梶ちゃん大好き、今日は出して終わりじゃないけど!」
「きゃぅっ! う! あっ! っ、あぅ、あっぁァッあぁ!!」

 大きく跳ねる梶ちゃんの体を抱き締めて、一番奥でびゅるっ、とゴムの中に射精する。どくどくと性器が脈打つ感覚があり、何時もの倍以上の時間射精している自分にギョっとした。

 梶ちゃんにも中で射精されている感覚が分かるのか、荒い呼吸を繰り返しながらしきりに「なか、熱いぃ……!」とうわ言を言っている。抱き合った二人の間で梶ちゃんの性器は再び暴発しており、今度は一切触っていないにも関わらず、粗相のように精液をとろとろと流していた。中イキしたらしい。エロい。とんでもない。悩まし気に眉間を寄せ、中に吐き出された精液の熱さに感じ入っている梶ちゃんの色気といったら壮絶だった。

 あんなに普段純朴そうでセックスのセの字も知りませんって顔をしている子が、外側から腹を撫で、「ここが熱いよぅ」と熱に浮かれた声で自分を抱いた男に報告してくる。無意識だろうが体は継続的に甘イキを繰り返していて、中に入ったままの俺をねっとりと締め上げては、最後の一滴まで精液を絞り尽くそうと蠢いていた。
 ただでさえ萎えずにいた性器が再びむくむくと膨らみ始め、“一度抜いて休ませてあげよう”や“せめてゴムは交換しよう”というささやかな気遣いの気持ちさえ意識の向こうに追いやってしまう。
 どうしたもんかなぁと内心葛藤しつつ、俺はくったりと脱力する梶ちゃんに素知らぬ顔で微笑みかけた。

「梶ちゃん、気持ち良かったよ。最高だった。ありがとう。大好き」
「はふっ、ふっ、ぼ、ぼくも、大好きです……!」

 荒い息の合間にどうにか返してくる言葉がコレである。
 健康な心臓を取り戻した俺が言うのもなんだけど、梶ちゃんは本当に心臓に悪い子だと思った。

「んふふ。ありがとう。ちゅーしよっか」
「しますっ。ちゅぅ、したい。ばくさん……」

 梶ちゃんが食い気味に俺へと顔を寄せてくる。今まであんなに好き勝手されていたのに、俺からのキスを心底嬉しそうに受け入れる梶ちゃんが可愛かった。
 抱き締めて、今度は最初から舌を絡めたキスをする。流し込まれた唾液をこくこくと一生懸命飲む梶ちゃんが愛しくて、やっぱりまだまだ美味しそうに見えて、俺の口の中には流し込むそばから新しい唾液が次々に湧いた。

 中に埋め込んだままの性器はいよいよ硬度を取り戻していて、太さもあるし、今更引っこ抜いて場を仕切り直すのも面倒臭かった。梶ちゃんはキスに夢中になっているようで、一旦は頭の中から俺の性器の存在が抜け落ちているらしい。がっつり入ったままだけど、舌を甘噛みされて嬉しそうに鼻を鳴らしていた。
 キスに酔いしれている梶ちゃんはとっても幸せそうで可愛いが、とはいえ俺の下半身も未だ限界である。俺は梶ちゃんと抱き合ったまま、先程よりもゆったりした動きで、中に入ったままになっている性器をゆさゆさと揺らした。

「んおっ!? ♡♡」

 揺れ出した瞬間、梶ちゃんが再び良い反応を見せ始める。案の定入りっぱなしだったことを忘れていたらしく、中に埋まっている俺をきゅぅと締め付けた梶ちゃんは、その感触がさっきまで自分を苛め抜いていたちんこと同じだったからだろう、目を白黒させておっかなびっくりで俺の顔を見た。

「ぉ、お……ば、ばくしゃ……!?」
「んー? なぁに、梶ちゃん」
「な、なか……おっきくて……さ、さっきと……変わんないくらい……!?」
「うん、なんかね、まだ全然足りないみたい。ちんこ窮屈なままなんだよね。梶ちゃんのことも、相変わらずめちゃくちゃエロく見えてるし。ていうか言ったよね? さっき。今日は出して終わりじゃないって。有言実行」
「ひっ……!」
「さ、梶ちゃん。もう一回しよっか」

 にぱぁっと梶ちゃんのお気に入りらしい美少年スマイル(突っ込まないでほしい。梶ちゃんが実際にそう言ってたんだから俺は悪くない)をかまし、梶ちゃんの汗に濡れた前髪をかき上げる。さぁ仕切り直しと行きましょー、と梶ちゃんの足を抱えた俺に、梶ちゃんから「待ってぇえ!」と抗議が飛んだ。

「い、一回休憩しません!? それに貘さん、ゴム替えてな……!」
「えーもう良くない? 抜きたくないもん。一回出してちょっと余裕出てきたし、俺次は梶ちゃんの奥ぐりぐりしたーい」
「ヒッ、お、おく……!? そんっ……僕、奥は……!」
「一回目は思いっきりガン突きしたから、二回目は突かないで気持ち良くしてあげる。お尻壊れそうって言ってたもんね? ピストンしなかったら穴への負担も少ないよ。大丈夫だいじょうぶ。はい梶ちゃん、そんな訳だからもっと足開いて」
「開けるかぁ!」

 再び抗議の野次が上がる。大きい声を出した拍子に中が締まったようで、梶ちゃんはぐっと息を詰まらせていた。

「ぅ、待ってばくさん……奥、僕弱いんです。いま、もう中ぐちゃぐちゃだから……っ、こんな状態で……奥責められたら……!」
「気持ち良さそうだね」

 わざとつれない態度を取ってみせる。梶ちゃんが困ったように口元をへにゃっとさせ、意地悪で再び身体を揺さぶった俺に涙目になった。

「やっ……やぁ……! 貘さん、おねがい、貘さんが気持ち良くなるんなら僕、お尻壊れても良いですから。貘さんが、貘さんだけが気持ちいいことして。僕ばっかり虐めないで……!」

 いやいや、と梶ちゃんが頭を振る。中イキをしたせいで燻った熱がなかなか引かない様子の梶ちゃんは、こんな状態で更に内部を責められることが怖いらしい。立て続けにナカを責められたくない梶ちゃんの気持ちは分かったけど、だからってそんな提案を軽々しくして良いのかと何故か俺の方が不安になってしまった。

 傍から聞いた梶ちゃんの提案は、まるで自分が俺の肉オナホになることを容認するような内容である。『お尻壊れても良いから』なんて、昨今じゃAVでもなかなか聞かないような台詞だ。正直めちゃくちゃ興奮する。可哀相なことはしたくないけど、でも正直、壊れるまで穴を使われた梶ちゃんって想像しただけでエロいし、梶ちゃんの穴を好き勝手する妄想とかも、一度頭をかすめるとなかなか甘美なお誘いだった。

「穴が壊れるまでむちゃくちゃされた梶ちゃん……うーん見たい……梶ちゃんの閉じなくなった穴とか絶対エロいもんな……」

 頭の中で後ろの穴が開きっぱなしになった梶ちゃんを想像する。一生懸命閉じようとしてもくぱくぱと伸縮を繰り返すアナルに、妄想の梶ちゃんはべそべそ泣きながら「戻んないよぉお貘さぁあん」と俺に助けを求めてきていた。凄くエロい。すごくエロいです。そんなん流石に男のロマンと言わざるを得ない。

「怖くなって泣いちゃったりするのかなぁ梶ちゃん。可哀相だけど正直興奮するね。泣きついてきた梶ちゃんのことめちゃくちゃに甘やかしてあげたい」
「で、でしょ? でしょ? 恥ずかしいけど、貘さんになら僕、全部見せますから。くぱくぱしてる僕の穴見ませんか? ね?」
「見る。ガン見する。えっろ。なに、そのお誘い? 聞いてるだけで暴発しそうになるんだけど」
「じゃ、じゃぁ……!」

 ぱぁっと梶ちゃんの顔が明るくなる。痛いのは僕我慢できるんで! と自信満々に胸を張る梶ちゃんに張り付けた笑顔を向け、俺は梶ちゃんにうつ伏せになるよう指示を出した。

「う、後ろから突くんですね? バックって突きやすいですもんねっ。僕あの、邪魔しないように頑張ります!」
「んーアハハ。そうだね。頑張って」

 白々しく返し、体勢を変えるために名残惜しくも一旦性器を引き抜く。
 先端に精液溜まりを見止めた途端、

「あっ」

 ほとんど無意識に、俺の手は装着していたコンドームの処理を始めていた。行動を把握した頃にはゴムの口もしっかりと縛られ、でっぷりと精液で膨らんだゴムが掌に納まっている。慣れというのは恐ろしいもんだ。ゴム替えたくなーいと寸前まで駄々をこねていたにも関わらず、結局俺は、梶ちゃんとのお行儀が良いセックスが身に染み付いてしまっていたらしい。

(あーあ。せっかく取ったし、新しいやつ着けるかぁ)

 そうしてベッド脇のコンドームに手を伸ばそうとするが、思ったより俺たちはベッド上を移動していたようで、開始前は手の届く範囲にあったはずのサイドテーブルが今はやけに遠かった。あと五センチほどがコンドームの箱に届かず、指先は虚しく宙を切る。もどかしくてイライラする。別に体の向きを変えれば済むだけの話なのに、なんだか急に、ゴムを取る些細な行動が面倒臭くなってきた。

 ていうかどうして俺、毎回馬鹿正直にゴムしてたんだっけ。別に梶ちゃん女の子じゃないし、俺性病とか無いし、そこまで神経質になる必要無かったのに。なんだっけ。梶ちゃんに負担をかけたくないから、だっけ? でも今日の梶ちゃん、俺が好き勝手やっても何でも許してくれるっぽいんだよな。貘さんにめちゃくちゃにされたい、みたいなこと言ってたし。言ってたっけ? 言ってた気がする。言ってたってことにする。うん。
 なんか、良いんじゃないかな。ずっとお行儀の良いセックスしかしてこなかった俺たちが、ようやく思いきりセックスしても良いよーって念願の解禁を迎えたわけだし。今日の梶ちゃん、普段に増してエロくて可愛いし。こんな可愛くしてもっておいて、普段通りのセックスなんて逆に失礼。おもてなしには応えなきゃ。そうそう。うん。

 コンドームに伸ばしかけていた手をベッドに落とし、素直にうつ伏せの姿勢になった梶ちゃんに上から覆いかぶさる。性器に梶ちゃんの尻たぶが当たり、いつもツルツルすべすべに感じていた梶ちゃんの皮膚が思ったより硬いことにビックリした。

(良いよね。良いよねうん。最悪謝れば済む話だし)

 割れ目に性器を押し付け、素股をするみたいに軽く動いてみる。梶ちゃんがぴくぴくと身体を震わせて、切なそうに息を吐いていた。あと少し角度を変えたら挿入出来てしまいそうな俺のちんこは、現在なんの人工物も纏わずにゼロ距離で梶ちゃんに触っている。“二人のあいだに隔たりが無い”と考えるだけで、頭が茹だってぼぅっとした。
 ローションがなくとも先走りでぐちゃぐちゃになっている自身を更に軽く扱き、俺は満を持して先端を梶ちゃんの穴に押し当てる。既に今までよりも遥かに熱くて、こんなん入って本当に我慢できるかな、とちょっと自分の耐久性に不安を感じた。 

 梶ちゃんを驚かせないよう、出来るだけ刺激を抑えてゆっくりと挿入していく。

「へぁ゛ッ!?」
 秒で梶ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。

「えっもう気付くの? はやっ」
「っ。え、……ア……!? ……な、なにっ……、あれ……な、なんかナカ……違…あ、あれっ……!?」
「へー、ケツの中もそんなに違うんだ。俺のちんぽが気持ち良いだけかと思ってた」

 言いながら中で軽く自身を揺する。熱い。つるつるとした肉の感触がダイレクトに伝わってきて、押し進めるだけで声が出そうになった。

「ちょっ……ば、く……さん……!? っ、ぁっあっ……っ、え……こ、れ……!」
「相変わらずキモ冴えてんねー梶ちゃん。そうでーす。梶ちゃん、初めての生ちんぽはどーぉ?♡」

 さっきと同じように一番奥まで腰を進め、梶ちゃんが好きな箇所に先端を当てて一旦停止する。初めてのナマの感触に理解が追い付いていない梶ちゃんは、最奥に侵入されたことにも気づかず「え、これ、生ちんこ……?」と同じ台詞を何度も繰り返していた。

「そうだよ、ナマ。俺と梶ちゃんの間には今なぁんも障害物なんて無いの。ゴム無しのちんこどう? 何か違う?」
「はっ……はっ……ば、貘さんの……ちんこ……僕の中に……貘さんの……!」
「えっちょっと待ってよ梶ちゃん泣きそうじゃん。大丈夫?」
「はぅっ……! はっ……はっ……生…ナマぁ……♡」
「うーん想像以上に感動されてる。やっぱちょっとキモいとこあるよね、梶ちゃんって」

 どうやら梶ちゃんはゴムの無いダイレクト貘さんにいたく感動しているらしい。鼻を鳴らして「生ちんこだぁ……!」と感慨深げに呟く梶ちゃんは、昔テレビで見た、ルーベンスの絵画を遂に見ることが叶った某少年のテンションにちょっと似ていた。パッと頭に浮かんだ例えがソレだったからそのまんま言うけど、実際はフランダースにも犬にもネロにも申し訳ない例えである。
 こんな風に感動されるならもっと早くからゴムなんてやめてしまえばよかった。後悔がじんわりと胸に広がり、その悔しさを掻き消すように、俺は感動している梶ちゃんの奥を、脈略もなくぐりぃっ! と抉る。

「ッ!? んオ゛ッ!? ♡ ぇッ、ゃ、ア゛……~~ッ!?♡」

 不意打ちの刺激に梶ちゃんが背中を仰け反らせる。ぎゅぅぅと締め付けてくる中は、生で味わうと今まで以上に熱くて気持ち良かった。

「感動してるとこ悪いけど、後が詰まってるからサクサクいくね」
「ォ゛ッ♡オッ♡んぉ、お……あ、と……?」
「さっきの梶ちゃんの案さぁ、めちゃくちゃ良いよね。採用! ――うん、絶対三回目はそれにしよーね♡」
「あぎっ! ァ゛……っ!? さんッ……かい、め……!?」

 梶ちゃんが目を見開く。『何を言ってるんですか』とでも言いたげな視線に『君こそ何言ってんの』と同じく視線で返し、俺は梶ちゃんが特に敏感になる所を連続的に刺激して、少し伸縮が収まってきていた梶ちゃんの体内に再度、強制的に熱を帯びさせていった。

「ひゃぁあ゛あ!! に゛ゃっ……! あぐっ! あ゛ッ……! ぉ゛ッ!♡」

 なぁにが『痛いのは僕我慢できるんで!』だ。そんなことを自信満々に言われたって俺は嬉しくもなんともない。この俺が、日頃から梶隆臣をドロドロに甘やかし続けている貘さんが。『痛いのは我慢できる』と言われて素直に痛い思いをさせてやるとでも本当に思っていたのだろうか。

「あー楽しみ三回戦目。じゃ、二回戦目始めよっか♡」
「ア゛ッ、ちょ、貘さんっ!? ん、ォ゛♡待っ、話が違――ッ、ア、あ゛あぁッ!? ¥♡」
「ほらぐりぐり~♡」
「ン♡ア゛ッァ゛♡あ゛ぅッぁ♡待っ、……ばくしゃだめっ♡ぐりぐりだっ……ア゛♡お゛あっ゛ァ!♡♡」

 梶ちゃんの身体にピタリと密着し、彼とさほど変わらない自分の全体重を遠慮なく下に敷いた梶ちゃんの体にかける。身動きが取れなくなった梶ちゃんの手足を拘束して、腰だけ左右に揺すったり、小刻みに上下運動させたりした。

「ッぁオ゛ッ!♡ おほっ♡んオ゛! ふ、ぉ゛ッ♡ほっンお゛っ♡♡オ゛ッ!♡」

 梶ちゃんのナカがずっと痙攣している。さっきに比べたら純粋な快感は強いわけじゃないけど、何といっても“ナマでヤっている”という認識が俺の脳みそを問答無用で焼いていた。
 梶ちゃんの一番深い場所に、生身の俺が入り込んで絡み合っている。一番奥を自分だけで満たしているという征服感が頭の中で暴れまわり、出来もしないのに頭が勝手に『これで孕ませられる!』とテンションを上げていた。これで本当に俺のものっていうか、男が好きな子に感じる最後の欲って征服欲なんだな、と思う。射精したらこの子の中に自分の種が注がれるんだと思うと、なんだか妙にたまらなかった。

 今まで意識したことはなかったけど、どこかにずっと“俺の雌”という認識があったのかもしれない。俺の梶ちゃん。俺の雌。流石に本人に向かって「雌ですね」なんてことは言えないが、獣じみた声を上げて善がり狂っている梶ちゃんは、やっぱり男というよりは雌と表現したほうが正しい気がした。

「ひッあ゛ああァッ!♡♡ あ゛ッ、んああ゛♡あ゛ぅッ♡う゛ゥッ♡ばくさ、ダメッ!♡ おぐダメッ! 死んじゃうッ……ん゛ぉッ♡オ、♡オ゛ッ!♡♡」
「中すっごいねぇ梶ちゃん♡ずっとブルブルしてて気持ち良いのが伝わってくるよ♡ねぇ分かる? 梶ちゃんの中をこんなにしてるの、俺のちんぽなんだよ? いっつも梶ちゃんに我慢させてた雑魚ちんぽが、生まれ変わっちゃった。はぁ最高。幸せ~♡」
「そこ、っや゛らぁ……っ! ひっ♡ふぁ、あ゛あっ♡♡や゛らあぁッ♡♡ひっ♡♡らめぇ゛え゛っ♡」

 弱いと自分で公言するだけあって、梶ちゃんの乱れっぷりはそりゃぁ見事なもんだった。とにかく奥をグリグリしてやると全身が悦び、勝手に俺のちんこを締め付けて快感を拾っている。梶ちゃんのナカは熱くなる一方で、なんだかこのまま溶けて、俺と梶ちゃんで一つの存在になれそうだった。

「あー可愛い梶ちゃん♡なんでそんな可愛いの? ほんと最高♡」
「んぎっ♡あ、ァ゛♡ヒッ……! き、きち゛ゃ、きぢゃうッ!♡ ばくしゃん゛待っ、ふかいのきぢゃぅ゛う゛ッ♡ふかっ……! ア゛ッ♡きぢゃうッ……!♡」
「ん? イっちゃう感じ? もう? んふふそっかぁ♡もうイくんだ梶ちゃん♡良いよいいよ、好きな時にイってね♡何回イっても良いんだよ。全部最後まで付き合ったげる♡」
「らめ、あ゛ぁっ♡♡おかし゛く゛な゛る゛ッ……!♡♡ むり、らからあ゛……ッ♡♡あ゛っ♡♡お゛っ、ん゛んっ!! ひっ♡♡♡あ、あ゛ーッ!!♡♡」

 ビクン! と梶ちゃんが大きく跳ね、上に乗っていた俺まで軽くバウンドする。めちゃくちゃな力で急に締め付けられ、気を抜いてた俺も危うくイきかけた。すんごい力だ。気張ってないとちんこ千切れそう。

「んぁ、あ゛っ!!♡♡ あ゛ああァっ!!♡♡ まッ……ま゛ッて゛え゛ッ♡♡♡イ゛ッて゛るッ!♡ い゛ま゛イッて゛るか゛ら゛ッ!♡♡」

 深いイき方をしてる梶ちゃんが可愛くて更に腰を動かしてみる。と、当たり前のように梶ちゃんから恨み言が投げつけられた。どうにか顔を動かして俺の方を向き、涎と涙でぐちゃぐちゃな表情で「待って」と懇願する梶ちゃんは下半身にクる。また中でちんこがデカくなると、懇願していた梶ちゃんが新しい涙を目に貯めて「な゛んでおっきくする゛の!」と追加で俺に怒鳴った。

「怒んないでよぉ。だって仕方ないじゃん、梶ちゃんすっごいえっちで可愛いんだもん。興奮しちゃうよ。不可こーりょく」
「もっ、もぉ゛やだァっ゛!♡ ぁッ♡きもち、いの、や゛だよ゛ぉッ!♡ ばかっ! ばくさん゛のばかァ゛!♡」
「わ、そーゆーこと貘さんに言うんだ?」
「ひッ……! あ゛ああァッ♡♡あ゛ッ、奥またっ……! ん゛あ、! あ゛あぁッ!♡♡」
「怒って止めると思った? 残念でしたー。俺、梶ちゃんになら馬鹿って言われても全然良いもん。何言われたって大好き。可愛いとしか思えない」
「な゛んれッ!♡♡ お゛くッ、! も、許してッ!♡ あ゛、ぉ……っ!?♡♡ やっ……あ゛ァああ゛ぁ!!♡♡」
「でも意地悪する理由は作ってくれてありがと♡」
「あ、あ゛ーッッ!♡♡し、ぬ゛……ッ♡♡しんじゃ、……ッ、あああ゛ァッ!!♡♡♡」

 シーツと身体の間で押し潰されていた梶ちゃんの性器から、ぷしゃ、と透明な汁が飛ぶ。見るとベッドは既にぐちゃぐちゃに濡れており、特に梶ちゃんのちんこの付近はバケツでもひっくり返したように水浸しになっていた。
 二人分の体重をかけられたままシーツに擦りつけられていた性器は、多分ずっと床オナをしてるくらい強い刺激に晒され続けてきたのだろう。いつの間にか梶ちゃんの金玉はすっからかんになっていて、後はさっきのように、気持ちが良くなると潮だか何だかを吹き出すオモチャみたいになっていた。

「ゆ゛るしてッ……! ごめんなさっ、ンッ゛おっ♡オ゛あ、っ♡アッア♡ごめん゛なさい゛ッ、ごめ゛んなさいィ……!♡♡」

 最終的に梶ちゃんはやたらめったら俺に謝罪を繰り返してくる。奥ばかりじゃつまらないかと思って腹の上から前立腺のある辺りを押してやると、梶ちゃんの悲鳴がまた大きくなって、涙交じりの声がまた「ごめんなさい」を繰り返した。
 ちんこと手で前立腺を挟み込まれる形となり、余計と気持ちが良くなったらしい。奥の弱いところは先端で虐め、途中にある前立腺は幹の部分と手で挟んで揺さぶる。梶ちゃんの少し黒目の小さな三白眼が、ぐるんと上を向き、「あへぇ」とエロ漫画でしか見たことのない声で喘ぎだした。顎が落ちた口元からは、薄い舌がだらんと垂れている。快楽が行き過ぎると本当に人間ってアヘ顔になるのか。未知の梶ちゃんに興奮した俺は、梶ちゃんの顔をまじまじと観察したあと、また中を責めた。

 ぐりぐり、ぐちゅぐちゅ。ねっとりしたセックスを続けている内に、柔い刺激を拾い集めていた俺の性器も限界を訴え始めた。下半身から立つ音が大きくなり、内腿も自然と痙攣してくる。

「っ、かじ、ちゃん……! ごめっ、俺もそろそろ……!」
「ひア゛あぁ゛ッ!!♡♡ あっ! あぐッ♡んァ゛♡オ゛ッ♡みゃっ……なかっ……ッ! おほッ♡ん、エ゛♡、あぇっ、へ、ッオッオ゛ッ♡♡」
「ぁ、ん……! っ、そうだよっ、中出すねナカっ♡梶ちゃんのナカッ……俺のせーし、梶ちゃんのナカに……ッ! ♡」
「らめ゛ッ♡らめらめ゛ぇえ゛!♡♡ オ゛ァおっ、ッ!♡♡ ナカっ、あっ、ンあっ!♡♡ ぁ、ア゛♡オ゛ッ♡らめッ♡せーしもらったらっ♡♡ぼくっ♡ッオ゛、ぼくぅ……!♡♡」
「なぁに? オンナノコになりそうで怖いの? んふふッ♡ん、もうとっくに、梶ちゃんは俺のオンナノコでしょッ……! ♡」
「あ゛ッ、えぅ゛う!! あっ、ぇ……ッ!♡♡ お゛ほ、んぁ゛お! ♡」
「あっ、も、出っ……! っ、ん、ん! ン───ッ、!」

 全身がぶるぶると硬直し、頭の中で火花が散った。こみ上げてきた射精感に堪え切れず、俺はどぷっ、と梶ちゃんの奥に精を吐き出した。

「~~ッ!! ♡♡オ、おオ゛おぉ゛、お゛ッ、ッッ!!♡♡♡」

 俺の射精に合わせるように、梶ちゃんも今までで一番派手に体を痙攣させる。何も出なくなった梶ちゃんのちんこがブルブルと震え、吐き出す場所を失った快感に、梶ちゃんの身体はどうすることも出来ずただ悶えていた。

「……ほ、ぅ……へ……へぉ……ぉ……♡」
「あ、あーきもち♡……ねぇ梶ちゃ……ん? んんー?」

 射精の余韻に浸る俺をよそに、梶ちゃんの様子がにわかにおかしくなっていた。先程までの喘ぎ声が急に小さくなり、あれだけ大袈裟に跳ねていた体も反応が薄くなる。呼吸の合間に小さく喘いでいる梶ちゃんは、どうも意識が飛びかけているようだった。

「あーこれは……無茶させすぎたな」

 ぼんやり焦点の合わなくなってきた梶ちゃんに「ちょっと待っててね」と声をかけ、俺はゆっくり梶ちゃんの中から自身を引き抜く。自分の精液と梶ちゃんの体液でぬらぬら光っている俺のちんこは未だに硬く、『このまま次も行けますよ』とばかりに上に向かってそそり立っていた。いやあの、流石にいくらなんでも元気過ぎやしないだろうか。ここまで勃起が持続すると、自分のことながらちょっと引いてしまう。

 吐き出しても吐き出しても性器からは芯が失われず、目の前に広がる梶ちゃんの痴態を見るとすぐにむしゃぶりつきたい気持ちが復活する。心臓が元気だと、ここまで違うもんなのだろうか。勿論以前から梶ちゃんのことは大好きだったし、セックスも好きなら乱れる梶ちゃんの姿にもしっかりがっつり興奮していたけれど。なんていうか今日は、今までの全てと具合が違う。とにかく身体からは熱が引かなくて、高い体温がとろ火のように、俺の脳みそをいつまでもじりじりと焼いていた。

 ピクピクと身体を痙攣させている梶ちゃんは打ち上げられた魚みたいで、正直ちょっと可哀相なくらい消耗している。だというのに、どうしても俺の目は梶ちゃんのことを美味しそうな獲物として捉え続けてしまっていた。さんざん拡げて弄った中が蕩けるほど柔らかいことは知っているし、淵がほんのり皺に沿って赤くなっている穴は、排泄器だと紹介される方が違和感があるほどぷっくり膨らんで濡れている。美味しそう。ダメだ。やっぱ無理。おあずけなんて出来ない。

「梶ちゃんイケる?」
「ん、ぅっ……ぅ……?」

 梶ちゃんがふわふわとした声を上げる。語尾が微妙に掠れているのは、まぁあれだけ叫んでいれば当然だった。

「起きれる? もっかいしよ」
「ん……んー? ……んぅ……」
「あぁ寝ないで寝ないでっ。梶ちゃんもっかいだよ。えっちしよ」
「えぅ……んー……えち……えちぃ……?」
「そうそう。えっち。梶ちゃんが中イキするとこはいっぱい見たから、次は穴がガナガバになってる所が見たいの。見せてくれるんだよね?」
「んー……え、ち……ぃ……むぃ……ゆぅして……ばくさん……」
「次は梶ちゃん、何にもしなくて良いから。俺が動くだけ。ね? 頑張ろ?」
「むぃ……しんじゃう……」
「おーい梶ちゃん? アレ? なんか本格的に寝ちゃいそうじゃない?」
「ん……ね……ない……で……ぅ……」
「あ、寝たわコレ」

 梶ちゃんの瞼が完全に締まりきる。意識が無くなったことで体からも力が抜けたのか、梶ちゃんの穴から、ドロリ、俺の吐き出した精液が固まりで出てきた。
 梶ちゃんの穴が俺の精液で白く汚れている。どぷどぷと逆流してきた精液は俺が梶ちゃんのナカの中まで貪り尽くした証で、垂れ流れる精液に、俺の下半身がまたドクンと脈打った。

「あーこれは……はは、煽情的ってこーゆーのを言うのね」

 普段からコンドームは絶対につけるようにしていたし、今まではゆっくり一回やるだけだったからローションが過剰に泡立つなんてことも無かった。細く長く、頻度はそれなりだったけど激しさとは無縁の夜ばかり。だからこんな梶ちゃんも、こんな梶ちゃんの身体も、目に映るもの全てが初めての光景である。

 とんでもないものを覚えてしまった、とすやすや呑気に寝息を立て始めた梶ちゃんを見て思う。宝物のように大切に抱いてきた子を、今日は欲の吐き出し口として酷使した。手荒く抱けたところで梶ちゃんが俺の大事な宝物であることに変わりはないが、多少の無茶をしても許されると知った時の安心感は、少々濁った俺の好奇心を肯定した。
『ちょっと乱暴に遊ぶくらいの方が楽しい』なんて、俺みたいな人間は気付いてはいけなかったのだ。梶ちゃんは今まで、大切に扱ってやることしか出来ない男と老人相手みたいなセックスしかしてこなかった。そんな子が、今日は一転、泣き叫んでも許してもらえないで気を失うまで責め抜かれたわけだ。最初こそ同意があったとはいえ、行為の最中、どこまで梶ちゃんの本位に添えていたかは分からない。眠っている梶ちゃんの目元には泣きはらした痕が今も色濃く残っていて、本来切れ長で涼しい彼の目が、今は腫れて重たい瞼をしていた。

 昨日までの俺だったら、こんな梶ちゃんを起こそうだなんて絶対考えなかった。休ませてあげようと彼の頭を撫で、息苦しい心臓に鞭打ってでも体を綺麗にしてベッドを整えるくらいはしてやったはずだ。

 なのに、である。

 ピクン、と中イキの余韻で体を跳ねさせた梶ちゃんから、またとろりと胎内の精液が漏れ出た。梶ちゃんはいよいよ本格的に寝入っていて、口からは寝涎まで垂れている。
 健やかな寝顔を見せてくれる梶ちゃんに苦笑をひとつ、俺はベッドに放り出されていた梶ちゃんの腕をすくいあげ、そのまま力任せに上に引き上げた。

「───ッ! ん……ぇ……?」

 急に体を動かされ、梶ちゃんの意識が強制的に浮上する。体勢の苦しさから徐々に覚醒を始めた梶ちゃんは、それでもまだ半分夢の世界にいるようで。未だに状況を理解出来ずキョトンとしていた。

「おはよ、梶ちゃん」

 後ろから声をかける。キョロキョロと前方を見回した梶ちゃんが、覚醒途中のトロンとした目で振り返った。

「ぉ……は……? ぼく、ねてた……?」
「一瞬ね。とりあえずさ、さっきの約束。お尻が馬鹿になるまでえっちするんでしょ? はやくやろうよ♡」
「え……っち………え?」

 ようやく俺の言葉が頭に届いたらしい。梶ちゃんがオーバーに体を硬直させ、意識が戻った彼は「ひ、ぃ……!」と絞り出すように呻いた。

「ぁ……あ……! や、やだ……貘さんっ……やだ……!」
「お尻貸して梶ちゃん。もっかい。今度は激しいやつ」
「え、あっ……や、やだっ……嫌ですッ! もうイきたくない、イきたくないよぉ……!」

 散々痙攣して体力を使い果たしてしまった梶ちゃんは既に自分の身体を自力で支えることも難しく、口では必死に拒絶を訴えつつも、体重を俺に預けたままロクな抵抗も出来ないでいた。
 俺は梶ちゃんの両脇に腕を突っ込んで無理やり体を起こし、どうにか拒もうとする梶ちゃんの股の間に自分の足を割り込ませる。
 抵抗虚しくかぱりと足を開いた梶ちゃんが、「ぐすっ」と鼻を啜って俺をねめつけた。

「ひどい……僕もう……限界って、言ってるのに……!」
「でも最初にお尻壊してもいーよって言い出したのは梶ちゃんじゃん。言い出しっぺでしょ君は。頑張りなよ」
「だってこんな……はげ、はげしいなんて……! っ、貘さんひどい。意地悪。ど、して……許して、くれないの……?」

 恨み言が次から次へと繰り出される。梶ちゃんの目が再びじんわりと涙で潤みはじめ、唇はムッと、『僕怒ってますよ』とでも言いたげに突き出されていた。どうも怒っているらしい。可愛いからちょっと判断しにくかったけど、どうやら梶ちゃんは今、強引な俺にお怒りのようだった。
 背中側から梶ちゃんを抱き締めて、首筋に顔を埋める。ちゅ、ちゅ、と小さく首筋にキスをすると、梶ちゃんがぶすっとした声で俺の名前を呼んだ。顔を上げると、何かを期待するような瞳とツンと突き出した唇にぶつかる。怒ってたんじゃなかったの? と茶化したくなる気持をグッと堪えて、期待に添うように梶ちゃんの口に噛み付いた。

「んっ、……ふっ、ん……」

 梶ちゃんはキスに弱い。快感的な意味もあるが、それよりもキスという行為自体に梶ちゃんは満たされやすかった。ただでさえすぐ俺に絆されちゃう子が、唇で触れてやると大抵のことは許してしまうのだ。こちらとしては扱いやすくて有難くもあるが、そんな簡単に絆されて大丈夫なのか、ともちょっと思う。

「梶ちゃんって本当にちゅー好きだね。でもさ、そんな風にすぐ可愛いことするから虐められるんだよ? そういうのって分かんない?」
「んぅ……分かんない、です……」
「分かんないかぁ」
「でもばくさんとのちゅーが……でも、でもぼく……好きなんです」
「うーん……そっかぁ」

 イヤだからそういうのが致命的に可愛いんだって。
 いっそ投げやりな気持ちになってキスを繰り返す。今夜の自分の人でなしを棚に上げ、『こんなん喰わない方が無理じゃない!?』と誰に対してか分からないが反論したくなった。
 強引なセックスを続ける俺の唇も受け入れて、梶ちゃんはすっかり怒りが見えなくなってしまった目でうっとりと俺を見つめている。
 ちゅくちゅく舌を絡めて、絡めながら、俺は梶ちゃんの穴に臨戦態勢の自身を押し当てた。

「んぁっ、ア……っ、ゥ……」

 梶ちゃんが喘ぐ。うっすら涙の膜が張った横顔で、梶ちゃんが「また突っ込まれるんだ……」と諦めるように呟いた。

「そうだよ。一気に入れてほしい? それともゆっくり?」
「ん、ん……せ、せめて……ゆっくり……」
「腰落とせる? 俺が入れるより梶ちゃんが自分で入れた方が、自分のペースで出来ると思うよ」
「あぅ……は、い……」

 そろそろと梶ちゃんの腰が降りてくる。亀頭の太い部分を飲み込んだ所で一旦息を止め、ゆっくり深呼吸した梶ちゃんは、そのまま後ろ手に俺にしがみ付きつつジワジワと腰を落としていった。
 言っといてなんだけど、なんでさっきの今で梶ちゃんは挿入に協力してくれるんだろう。何だかんだ、結局は俺に協力しないではいられない辺りが梶隆臣という子である。

「あぁッ♡……ふン、っ♡ア、♡あぅ……んっ♡」
「こんなゆっくりでも感じるの?」
「あん、ンッ……♡も、おしりずっと、ばか……だから……♡っ、こすれるだけで……もっ、んっ♡気持ちぃ……♡」
「全部入ったとこからバトンタッチね。そこからは俺が動くよ。猿になった気分で限界まで腰振りまーす」
「ひぅっ………ぁ、あ……♡やばっ……♡奥くる……っ、もう、全部入っちゃう……!♡」
「あとちょっとだね。頑張ってぇ」
「んっ……んっ……♡こわ、い……こわいよぉ……♡」

 ふるふる体を震わせて、でも梶ちゃんの腰は全く止まる気配もなく俺を飲み込み続ける。どういう感覚なんだろう。場を盛り上げるためにわざとか弱い言葉を選んでいるのではと疑ってしまうほどに、梶ちゃんの言動はあべこべで、それが余計にやらしかった。

 ちんこを突っ込む前まではそれなりに本気で嫌がっているようにも見えた梶ちゃんは、今は声も甘く、『怖い』と言いつつも中のうねりは増している。
 もしかして梶ちゃんは、ちんこを突っ込まれてると脳内に麻薬物質でも出る特異体質なんだろうか。挿入されたらドーパミンだかエンドルフィンだか分からないけど分泌されちゃう的な。俺に抱かれると思うと自然に悦んじゃう的な。エッチな気分になっちゃう的な。
 ありそう、梶ちゃんなら。こんだけ俺のことを好きで好きでたまらない子なら、俺でめちゃくちゃにされる為だけに脳みそを改変しそうだ。ヤバいなぁ。自分が梶ちゃんにハマるだけならいざ知らず、こんな賢くて将来有望な子にまで、俺はとんでもない魔改造を施してしまったのかもしれない。ヤバい。責任取らないと。絶対沢山幸せにしてやろう。

 下の毛に物が当たる感触があって、次には性器の周囲にじんわりと体温を感じるようになる。
 梶ちゃんが深く息を吐いて、褒められ待ちのワンコみたいな表情で俺を見た。

「ばく、ひゃん……でき……ました……♡」
「ん、良い子」

 空気に則って俺もワンコにするみたいに梶ちゃんの頭を撫でてやる。蹂躙される準備を自分でこなした後だっていうのに、梶ちゃんは心地よさそうに俺の手に擦り寄り、素直に撫でられることを喜んで「えへへ」と言った。可愛くて、加虐心に火がつく。いよいよ俺もサディストを自称した方がいいかもしれない。

「ケツってどれくらいやったら壊れるんだろうね。賭けてみる?」
「……ひど、い」

 飼い主に撫でられて夢見心地だったワンコが、いきなり動物病院に連れてこられた時のように現実を突きつけられて尻尾を垂らす。

「うん、俺けっこうヒドイ奴。みんな知ってるよ? 梶ちゃんは知らなかったの?」
「……ばくさんは、やさしい人です」
「ありがと。でもね、梶ちゃん。本当に優しい人間は、君の優しさに漬け込むような酷いことしないんだよ」

 こんな風に、と予告なしに下から突き上げてみる。思った通り「ひぁああ゛あァ゛!!」と元気に声を上げた梶ちゃんの腕を引っ掴んで、腹の中で煮えたぎる欲のまま、俺はまた梶ちゃんを揺さぶり始めた。
 ぐじゅっ! と派手に水音が立つ。ばちゅ、ぐじゅっ、と耳を塞ぎたくなるような卑猥な音を立てて、梶ちゃんの穴が俺を歓迎していた。梶ちゃんは苦しそうに頭を振り、梶ちゃんの穴は嬉しそうにちんこへ絡みつく。上と下で真逆なことを言う梶ちゃんから『やめて』と『もっと』を同時に投げかけられて、俺は梶ちゃんの口にキスをし、下はそのまま穿った。

「おわっ」

 度重なる興奮が祟ったのか、キスを止めた直後にたらりと俺の鼻から血が垂れてくる。キスしてる時に出てこなくて良かった。梶ちゃんをビックリさせてしまうところだったし、梶ちゃんの顔に血が着くのはなんか嫌だ。
 拭うことも億劫で、シーツや梶ちゃんの背中に血痕を落としつつ腰を振る。血の汚れはシーツに着くと落ちないって最初の方に梶ちゃんが言っていた。終わってから怒られちゃうかな。いやでも、怒られるとしたら血の汚れだけじゃないか。今日は。

 頭がぐらぐらと煮えたままになっている。梶ちゃんは俺の鼻血に気付く余裕もなく、穴という穴から体液をまき散らして悶えていた。

「んぁ゛ッ! あっぁ! オッ、オッァ!♡ ……アッ!! おッ、! ほ、ぉ……! あぅ! あっ……! 、っ♡ッン♡おあぁッ♡♡あんっ! ふアんっ! あぐっ、ほっ、ォ゛!♡♡」

 どちゅ! どちゅ! と一回ずつ殴るみたいに思いきり奥を突く。ガクガク揺れながら梶ちゃんは叫んで、抜かれるたび前に倒れ込みそうになり、その都度俺に腕を引っ張られて無理やり体勢を戻されていた。
 中の肉はさっきまでのぎゅうぎゅう締め付けるような感覚は薄くなっていて、ちょっと緩いというか、まったりした質感に変わっている。多分痙攣しすぎてバテてしまったんだろう。長時間苛め抜くにはもってこいのやわやわ肉だった。

「ばくしゃ……! オ゛ぉ! っ! ほ……ほっ、♡ぁん! あ゛ア!♡ あぅ! ばく、しゃン゛ッ!!♡」
「あ゛ー気持ちぃい……」
「あぁ゛ッ!♡ ンんぁ、っ! あっ、ぁふアッお♡おっ……!♡ ァオッオッ゛んっッ!」
「どこ突いても絡んでくるじゃん。あー最高。媚びっこびな梶ちゃんのケツマンコほんと可愛い♡」
「っあっ……♡ひっ……ばくさっ……!! はぁ゛ッ……ん、ん゛ぅう゛っ!♡♡ こえッ!♡ とまんにゃ、う゛ぅ……っ♡むり、あ゛……ッ♡♡あ゛っ♡♡お゛っ、ん゛んっ!! ひっ♡♡♡あ、あ゛ーッッ♡♡いく……ッ♡♡イぐっ、あああ゛ァッ!!♡♡♡」
「あはは。もうさ、イくって言う前からイってんじゃん! ほら声もっと出して。きったない声で俺に媚びてよ。ほらほら!」
「ッ!?♡ やめ、あ゛ぁっ!!♡ それ゛っ! ッオ゛♡、おかし゛くな゛る゛ッ! オッオッ、ぉ……、っ♡♡! ……ぁあっぁ! ン、や、ら゛あぁッ♡♡♡」
「んー? どこがヤダなのー? ここー?」
「オ゛……や゛ッ♡♡♡しょこぉ゛っ!♡♡ あっぁ゛ん、ふぅっ♡♡! ッぁ♡♡あ゛ッ、おほっ♡オッ♡オッ♡♡」
「嫌がってる子の反応に見えないなぁ。梶ちゃんどこが嫌なのかなー? ここかな? ここかな? ♡」
「はひっ、ヒィいぃ!! ♡♡お゛ッ♡おッ♡ばくしゃっ、らめっ♡らめら゛めッ♡♡ぜんぶよわい゛の♡♡お゛っ、ん゛んっ♡♡!! んぉっ♡♡キて、る゛う゛ッ……ッ♡♡おあ゛ッ、ああ゛ぁ♡♡またイぐっ!♡ いぐの゛ッ!♡♡♡ ン゛ンー!!♡♡」
「あっあ♡っ、いい締め付け♡俺もイこっかなっ……!」
「ふぁ、あ゛あっ!!♡♡ や゛らあぁッ!!♡♡ もう゛中出し許しっ……ひ、アアア゛ー!!♡ や゛だぁああ゛ァ゛! きもち゛ぃのこわいッ、こわ゛いよぉ゛!! ~~ッ!♡ ヒッ、ひィいい゛っ!!♡♡♡」
「っ、く、ぅ――! んっ♡、あ、イったチンコでピストンすんの、これ、やばっ♡気持ち良っ……!」
「とまッでえ゛えぇ……!! ッ♡♡ もぉ゛っ♡お゛ッ♡お゛ッ!♡ きもち、いのい゛ら゛な゛い゛ぃッ!!♡♡♡」
「あんっ♡ふふ、梶ちゃんが要らなくても、俺はあげたいからダメー♡」
「あ゛ぁあ゛ッ!!♡♡♡ アッ、っ! んっ!♡ ア゛、ぉ、お゛オっ!♡♡ あ゛ッ、ン、ンンー!!♡♡」
「今お尻どんな感じかなー?」

 ぬぽん、と性器を抜いて梶ちゃんから手を離す。支えを失った体はべしゃりとそのままシーツに倒れ、梶ちゃんは汁まみれのシーツで顔を汚し、尻だけ高く掲げた格好で震えていた。

 肌をぶつけ過ぎたせいで梶ちゃんの尻全体がほんのり赤くなっている。くぱくぱ伸縮する穴は縁取りのように周りが腫れて赤黒く、呼吸をしているかのように閉じたり開いたりを繰り返していたが、それでもまだ開きっぱなし、というほどでもなかった。

「まだかなぁ」
「ひッ……ぁ……ぁ……」
「まだ壊れてるってほどじゃない感じ。もっと使って良いよ~ってケツマンコが言ってる」
「あ……あ、ぁ……!」
「この体勢入れやすくていーね♡ぬちぬちしちゃおー♡」
「ひ……ひんっ……も、やらぁ………あ、ぅ……ぅ、ぃ、ひ……ひぐっ……うぅうぅう……!」

 梶ちゃんがベッドに顔を埋めて呻いている。気持ち良いのか苦しいのか、梶ちゃんは頭をシーツに擦りつけ、頭上のすぐ上で自分の指を重ねた。土下座するような形で梶ちゃんが「もうゆるしてください」と口にする。恋人とセックスしてるのに土下座までしなきゃいけなくなった梶ちゃんがあまりにも不憫で、俺はこちらに突き出ている梶ちゃんの腰をしっかりと掴み、彼になるべく優しい声をかけてやった。

「梶ちゃん悲しいの? 可哀相。ごめんね、俺が動くのを止めたりなんかしたから、気持ち良いが無くなって梶ちゃん悲しくなっちゃったんだね?」
「ひっ……ぅぐ……ぐすっ……」梶ちゃんがシーツの向こうでグズグズし始める。「ぐすっ……ちが、ちがうよぉ……!」
「ごめんね梶ちゃん。今からまた動くからね。すぐまた気持ち良くなるよ。何にも分かんなくなる。梶ちゃん大好き。梶ちゃん、頑張ろうね♡」

 ニッコリすると、梶ちゃんがいよいよシーツに顔を埋めたまま号泣を始めてしまう。
 小さな子供みたいに泣きじゃくる梶ちゃんを宥めすかし、俺は掴んだ腰を、ぐっと自分の方へ近付けた。