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 テレビから流れてくる芸能人たちの声は相変わらず賑やかで楽しそうだ。ワーワーキャーキャーと老いも若きも音楽に夢中になり、流行歌の今と昔を行き来する番組構成になんなく対応している。
 彼らには何の罪も無く、ただ報酬に見合った立ち振る舞いをカメラの前で続けているだけだった。分かっている。彼らは何も悪くない。悪くないが、ならばテレビの前で項垂れる南方と、その真向かいで呆然とへたり込む梶が悪いというのだろうか。
 そんな訳はない。南方も梶も、この場に居合わせた人物全員に罪は無かった。

「……なんぽうさん」

 梶は唇を噛みしめ、意を決してソファに座る南方へと近づいていく。両手で顔を覆ったまま微動だにしない南方の膝に手を置けば、分厚い身体は大袈裟にびくりっと跳ねた。

「なんぽうさん」

 もう一度名前を呼ぶ。今度ははっきりと声に出したはずだったが、梶の声は掠れ、動揺が喉を伝って音にまで影響していた。
 弱弱しい梶の声に慌てて顔を上げた南方は、目の前にあった梶の表情に自身も顔をクシャリと歪めて「すいません」と謝罪を口にする。

「そんな顔をさせてしまうとは……本当に……すいません……」

 膝にあった梶の手に南方が自身のものを添える。高い体温に包み込まれ、梶の手がほわほわと温かくなった。大きな手だ。関節が出っ張っていて、甲には大袈裟に浮き出た血管と皺がいくつも走っている。
 手には年齢が出やすいというが、ろくに保湿のされていない四十路男の手は通説通りしっかりと老いの迫りを感じさせた。一度は南方の体温が移った梶の手から、また温度がすっと引いていく。

 誰も悪くないのに、どうしてこんな空気なのだ。

 梶は瞬きを忘れた目をテレビに移動させる。往年のアイドルが目尻に笑いジワを溜めてこちらを見つめており、彼女は梶の実母と同じ年齢だった。当時ミリオンヒットを記録したという彼女の代表曲は今や懐メロの代名詞である。梶は幼少期に母の鼻歌でこの曲を知り、南方は学生時代、舎弟から勧められてこの曲を聞いていた。 

 年の差という溝は最初から二人の間に横たわっていたが、それはまるで落とし穴のように、この瞬間までは溝の上に土が被って周囲の地面と区別がつかなかったように思う。
 二人の出会いが賭郎という特殊な環境下だったことも今日までの無自覚に拍車をかけたのかもしれない。梶は賭郎の絶対的存在である御屋形様に最も近しい会員だったし、南方は梶の後に組織入りした会員に礼節を尽くす立会人の立場だった。年齢に関係なく梶を南方が敬うことは当然の事項であり、よって外見的特徴から相手の年齢を察する以外、二人が改まって年の差を議論することなど無かったのだ。

 南方と梶は無邪気に溝の近くで交友を深め、何気ない会話で溝の上を歩き、そのまま二人揃って溝の底まで落ちた。誰がどう、という話ではない。ただテレビに映ったアイドルを南方が懐かしいと言い、僕もこの曲を知ってます、と梶がにこやかに返したことがキッカケだった。南方がしみじみと懐古するので、梶は単純に会話を広げてやりたかったのだ。

「学生時代、周りの人間もみんな聞いてたなぁ」
「僕はまだ学校行ってなかったかな? 五歳とかだった気がします」

 瞬間の南方の表情を、梶はもう生涯忘れられないかもしれない。

 途端に顔を強張らせた南方は、「……ご、さい……?」と呟いたきりソファに座り込み、先程のように梶が声を掛けるまで、無言で銅像になっていた。
 
  
 
   
 今宵の梶は南方の自宅に招かれ、凝った料理と洒落たラベルのクラフトビールで盛大にもてなされていた。“南方の家で飲む”という約束自体は一か月も前に取り交わされていて、軽い宅飲みだけなら即日中に完遂できるものを、わざわざ猶予を作ったということは南方も梶もつまり『そういうこと』だった。出会いから数年、ぐっと話す機会が増えて半年。家に入る際玄関先で一瞬尻ごみをした梶の背中を、南方の手はもう待てないとばかりに後ろから押していた。

「手料理と言いたいところですが、そう腕がないので全部デリです」

 リビングに梶を通し早速飲み会の準備を始めた南方は、そう自虐しつつも一つ一つの料理をきちんと皿に移し、梶の目の前に出すたび「これは中目黒の中華屋のエビチリ。安いけど美味いんですよ」と料理の説明をしていった。店は都内に散らばっており、南方が実際に気に入っている料理を足を使って集めてくれたのだと分かる。梶は手料理でなくても良くて、自分の為に時間を割いてくれた南方に何度も礼を言い、どの料理も大喜びで口に運んだ。

 二人はゆっくり酒を飲み、宅飲みらしく室内のインテリアや家電を肴にひたすら話をした。南方は生活に合理性を求めるタイプらしく、家電はいずれも機能性重視だった。一人暮らしが長いと自然こうなるんです、と説明する南方に梶は冗談めかしく「確かにこの家なら僕も独り暮らししたい」と言い、南方はアハハと笑った後「残念ながら、貴方がこの家に来ても二人暮らしですよ」と何やら含みのある言葉を使った。穏やかで健全でまどろっこしい空気が変わったのは二一時を回ったあたりだ。そわそわした南方が「もう遅いので泊っていきませんか」と切り出し、予想より遥かに早い時間帯での申し出に、梶は思わず「え、もう?」と口走ったのだった。

 勿論梶も宿泊する気は満々だったが、まさか二一時台で「もう遅いので」なんて文言を使われるとは思っていなかった。だって相手が未成年ならともかく、だ。一般的な感覚からいっても、成人男性にとって二一時は“まだ”二一時だ。夜の街は今からが本番だし、電車だって全線確認するまでもなくフル稼働している。

 時間を言い訳にするにしては些か早すぎる南方の判断に、梶はビックリしたのちクツクツと笑った。南方も梶と同様に、闇の世界にイマイチ染まりきれない性分の男なのだろう。せっかちというよりはただただ心配性で、時間を理由に梶を引き留めようとするくせに、乗り気でなかった梶が帰る時、彼が安全に帰れる確約が欲しかったのだ。
 少々ヘンテコな南方の提案は、彼の相手を気遣う誠実さの表れだった。梶はぴょこぴょこと跳ねたくなる気持を堪えて「じゃぁ、お言葉に甘えて」と言い、それ以降はスマホに目を向けることも止めた。問題は無いはずだ。急ぎの仕事は全て終えてきたし、斑目には前もって今日は帰らないと伝えてある。

 梶は勧められるままシャワーを浴び、寝巻きに南方が用意してくれていたスウェットを着た。買い置きがあったので、と南方は言うが、南方の買い置きであったはずのスウェットは梶の背丈にピッタリだった。「僕にピッタリですよ」と梶が言えば、大袈裟に南方は驚いて見せる。「サイズを間違えていたんですね。貴方が泊まることになって良かった!」のわざとらしさといったらなかった。
 梶のために手間をかけて惣菜を用意することは良くて、梶のために寝巻きを用意することは南方の中で少し気まずいことらしい。線引きを難しく感じつつも、やはり誠実な人なんだろうと梶は思った。
 そしてその誠実な人は、初めて唇が触れ合う時も自分ばかりは律儀に歯磨きを終えていた。

「……僕、食べたままの口です。すいません」

 清涼感が鼻を抜けた時、梶は申し訳なさそうに眉をへにょりと下げた。自分の鼻腔にはミントが届いたが、南方側にはきっと今まで飲んでいたビールのニオイが届いたことだろう。
 着替えと一緒に歯ブラシの場所も教えてもらっていたのに、と恐縮する梶に、南方はキョトンとした顔をして直ぐに苦笑した。自分がいきなりしたことですから、とフォローをして、梶が飲んでいたビールが最初に飲み終えた一本と同じものだったことに気付くと笑みの種類を変えて言う。「それが口に合いましたか? 自分もその銘柄が一番好きなんです。気に入ってもらえて、良かった」

 二回目のキスも触れるだけだった。ただ最初より数秒長く唇が停留して、それが梶には嬉しかったし、いよいよ心と体の踏ん切りも付いた。
 この唇が離れたら、自分も洗面台へ急ごう。きちんと歯磨きをして、寝る準備を整えて、少し早いけれど「もう寝ませんか」と南方を誘ってみよう。南方は誠実だが聡い人であるし、何より経験が豊富な大人である。きっと梶が早い時間にベッドに行きたいといえば、意思を汲んで一緒に寝室へ向かってくれる。そうして眠りたくない梶に付き合って、長い夜を共に過ごしてくれるだろう。

 トクトクと緩やかに脈打つ心臓を抑え、梶は自分から離れていく唇をぼうっと見つめた。離れていったらすぐに行動しようと思っていたくせに、実際その場になってみると心地よい熱の余韻に体を浸していたくなる。熱っぽい視線が絡まり合う室内に、聞き覚えのあるイントロが流れたのはそんな場面だった。古今東西の名曲を集めた音楽番組の中で、とある時代のアイドルが特集されていたのだ。青春の一曲としてあまりに思い入れのある曲に思わず南方が反応し、それに呼応して梶も─────。
 
  
 そんなわけで、冒頭に話は戻るのだ。
  
  
  
 
「……僕、自宅でご飯を出してもらって、お酒も飲んで、泊まる準備とか、ちゅーとか……だからその、貴方にもそういう気があるんだろうって、思ってたんです」

 手を触れ合わせたまま梶がポツンと呟いた。もう無理に気丈に振舞うことは諦めていたので、声が震えようとお構いなしだ。
 結果として少々恨み節のようになってしまった梶の発言に、南方の手が強張り、僅かに指先が梶に食い込む。

「…………今更取り繕ったところでどうにもならないので、白状します。そうです。そのつもりで呼びました」

 白状とは言い得て妙だった。がっくりと肩を落として言葉を紡ぐ南方は、取調室で自白を始めた容疑者のようである。
 梶は加害者面の南方に困り、手元に目を落として首を傾げる。「何がダメでしたか。僕、なにか粗相をしましたか?」

「違うんです、貴方は何も悪いことなんてしていない。梶様は今までも、今日も、ずっと礼儀正しく素晴らしい人だった。用意した飯をどれも美味そうに食べてくれて自分はとても嬉しかったですし、酒の呑み方もお若いのにとても綺麗で……お若いのに………」

 南方の言葉はそこで途切れた。視線が右往左往し、また南方は顔を覆った。「すいません。ベッドはお譲りするので、今日はゆっくりお休みになってください」

 実質的な断りの台詞だった。梶は唇を噛み、南方が用意してくれたスウェットの裾を握りしめる。

「……お譲りって、南方さんはどうするんですか」
「私などどうにでも。ソファもありますし、最悪床でも」
「一緒にベッドじゃ、ダメなんですか」
「……」

 南方が沈黙する。ヒドイこと言いよるよなぁ、という独り言だけが漏れ聞こえ、梶をいっそう惨めにさせた。

「貴方に手を出す勇気が無くなったんです。貴方が私よりうんと年下の男の子だと痛感してしまったから」
「僕が南方さんより若いことなんて最初から分かってたじゃないですか。なのに、なんで今更」

 梶の口ぶりが段々と詰問調になっていく。見るからに追い詰められている南方には申し訳ないが、梶側もいっぱいいっぱいで、正直南方を気遣っている余裕はなかった。
 うんと年下。確かにそうだ。梶と南方は年齢が一回り以上離れており、梶が二十そこそこの若者であるのに比べ、南方は三十も後半で男として脂が乗りきっている。だが、だから何だというのだろう。梶は年齢に関係なく南方を魅力的な人物だと思っているし、例え手に老いを感じ取ったとしても、自分にはない皮膚のたるみを見たとしても、南方を好ましく思う気持ちは揺らがない。自分とは違う所もひっくるめて梶は南方恭次を好きになったというのに、彼のほうは違うのだろうか。

 梶の唇がわななき、今にも「なんで」が飛び出しそうになっている。
 南方はこの短時間に二度も触れた唇が震えているのを尻目に捉え、やはり懺悔するように「申し訳ありません」と言った。

「貴方が『小学校に入る前に聞いた』といったあの曲は、私が大学受験の際に気晴らしでよく聞いていた曲です。年齢が一三も違うのだから、そんなことは当たり前なのに―――なのに、いざその差を思い知ったら恐ろしくなった。自分は一体、良い歳をして、いったい幾つの子を暴こうとしているのかと」

 梶が年若い青年であることなど南方も承知していた。いや、正確には承知した“気になって”いた。若い子だから酒は日本酒よりもビールが良いだろうとか、まだまだよく食べる年頃だろうから総菜は食いでがあるものにしようとか、そんなことを考えて今日の用意を進めてきた。だが、南方の意識を上回って梶は若かった。若すぎた。南方の感覚でいえば、今の梶はまだ『幼い』の範疇だ。世の酸いも甘いも経験途中の子に、自分は今から何をしようとしているのか。また成熟したとも言い難い身体に何を植え付け、どう組み替えてしまおうというのか。

 『幼い』と感じてしまったら、もう南方は先に進めなかった。個人的な感覚の話であり、実際はとっくに成人を迎えている梶にこのような負い目を持つこと自体ありがた迷惑だ。なんで今更、と梶が南方を責める気持ちも分かる。分かるが、南方はやはり梶に手を伸ばせない。

「自分が警察官になった時、まだランドセルを背負っとった子やぞ。ワシ、そんな子抱けんよ」

 結局そんな、情けない言い訳が南方の出した結論だった。若い芽は摘めないという、大人が子供に掛けるには真っ当だが年上が年下に掛けるには残酷すぎる台詞が十三年の溝に落ちていった。
 梶のいまだビールの残る口内が干乾びていき、喉の渇きを覚えた梶は、咄嗟に残っていたクラフトビールを開封して一気に煽った。誰に責められることもない飲酒だ。このビールを用意し梶に飲ませようとしたのは、他でもない南方本人である。

 二秒、三秒、沈黙が続いた。
 五秒を数える前に、「ぺしん」と音が響いて南方の頬に鈍痛がやってきた。弱い弱い平手打ちだった。梶の皺一つ無い若い手が南方の頬を打ち、そのまま手が、南方の顔に添えられていた。

「ざっけんなよ」

 梶が眉間を寄せ、簡潔に南方を罵倒する。
 今までで最も砕けた口調を南方に向けた梶は、続けて南方のほうへ顔を近付け、見開かれた目から視線を外さないまま彼の唇を塞いだ。三度目なので角度の調整も容易く、梶は緊張を悟らせないように注意を払いながら南方の唇を去り際に舐めていく。ビールのにおいが先ほどよりも強くした。濡れた唇を舌でなぞれば、僅かに麦の味を南方は覚える。

「かじ、」
「……公僕上がりの貴方には納得出来ないかもしれませんが、僕はこの世界に来る前も来てからもずっと若造で、でも一回も『若い子』だったことはないんです」

 謎かけのような言葉が至近距離で南方に掛けられた。返答に悩む南方の前で梶は残りも飲み干し、苛立ちを押しつけるように空になったビール缶を握り潰す。カラン、と軽い音を立てて床に投げ捨てられたビール缶を無意識に目で追った南方は、直後にソファに乗り上がってきた梶への反応が一拍遅れた。
 ソファに座った南方の膝の上。跨ぐ形で南方に乗り上げた梶は、南方と向かい合うようにして彼の図体に腰を落ち着けた。普段と違い、梶の顔の位置が南方より高い場所にある。互いに視線を交わすため、南方は梶を見上げ、梶は南方を見下ろした。

「……僕の若さや未熟さは、今までずっと、誰かが僕を馬鹿にしたり食い物にするためにありました。僕の年齢は昔から、守る理由としてなんて機能していないんです」

 淡々と告げられる言葉に南方は息を飲む。曲りなりにも警察官の肩書を持つ男に、被虐待児の言葉は深く突き刺さった。
 過去を多くは話さない梶だが、賭郎の資料から彼がどんな半生を送ってきたのかはある程度把握している。行政の支援も周囲の大人からの加護もないまま育つ梶のような子供は事実この国に多く存在して、彼らの若さが搾取されやすいことも、その反面救済の手は限りなく手薄であることも、この国の正義の中枢にいる南方は職務を通して知っていた。

「今更ね、南方さん。若さを理由に、今更僕は守られたって困るんですよ。だってそんなのもう求めてない。本当に困ってた時期はもう過ぎた」

 梶が薄目で力なく笑う。日頃は若さに溢れいきいきとする梶だが、ふとした拍子に垣間見える表情の中には、今のように妙に達観したものもあった。
 南方は何かを確かめるように口を開きかけたが、考えあぐね、最後は何も言わずに口を結んだ。彼が梶に向ける眼差しは暖かく、瞳には梶に対する慈愛が滲んでいる。言葉の代わりに背中へと回された南方の手を、梶は上体を反らすことで、無言のまま拒絶した。
 大きな手は優しく、梶の背中を庇護するように伸びてくる。(冗談じゃない)と梶は表情を引き絞り、物分かりの良い大人の表情をした南方をぎろりと睨んだ。

「その優しさは、南方さん、そんなの優しくないっすよ。苦しくなるだけなんで、僕を苦しめたいわけじゃないならやめてください」

 虚勢を振り絞って硬く強い声を出す。南方がぎくりと肩を揺らし、そんなつもりは無かった、とばかりに目を泳がせた。
 分かっている。南方にあったのは純粋な善意だけであり、危害を加える目的で梶に触れようなんて思考のテーブルにも登らなかったことだろう。
 梶は深呼吸をして南方に向き直り、反らせていた体を元に戻す。ぐんと近くなった南方の顔から目を逸らさず、そろそろと梶は南方の首に己の手を回した。

 相手の手は拒絶したのに、自分は相手に巻き付くだなんて都合が良いだろうか。南方と梶は行動こそ同じだったが込められた意味合いはむしろ正反対であり、梶が南方の慈愛を無下にしたように、南方にも梶の情欲から目を背ける権利があった。

 明確に拒否されたら今度こそ立ち直れないかもしれないと梶は思う。不安が心臓を叩き、跳ね上がった脈拍は梶の体を熱くした。南方は見たことのない梶の姿に瞠目して、正しい反応が分からないのか固まったままでいる。自分よりも賢く経験豊かな南方の、主導権を握れるとしたら今この瞬間しか梶には無かった。

 首に回した手を引き寄せ、南方の顔をさらに近くする。精悍な顔立ちにほぅと息をつき、梶は口を開いた。

「僕の若さを理由に手を引くなら、せめて馬鹿にするとか、もっと罵倒してください。そんな優しい顔はズルですよ」
「……やさしい、顔」

 南方の手が自身の顔をペタペタと触る。そんな顔をしていますか、と梶から視線を離さないで言う南方が場違いなほど可愛らしく思え、梶はこくんと頷くと渾身の笑みを顔に作った。「その顔をするなら僕を大人として扱って」
 
 
 優しくするなら、ベッドでしてよ。