時代が時代なら、これは拷問の一種か、下手したら処刑方法の一つなのだろうと梶は思った。こみ上げてくる圧迫感は胃どころか肺まで押し潰そうという勢いで、自分の腸が今どうなっているかなどは、なんだかもう、恐ろしくて考えたくもない。
頭上からは伽羅の“だから言っただろうが”といった視線が梶に突き刺さってくる。絶対に入らないから止めろと言われたし、ヤケクソになって全裸で乗り上がった際には「死にたいのか」とまで言われた。いやいや死ぬなんてそんなオーバーな、と笑っていた頃の自分が懐かしい。吹き出す脂汗を拭い、梶は更に大きく股を広げた。恐怖にブルブル震える脚を掴み、『どうか怯えていることがバレませんように』と願いを込める。
「いけます、どうぞ」
「どこが」
大きな手が足を支えていた梶の手に覆い被さる。日頃から梶の言動を見通している伽羅は、いまも当然のように梶の震えに気付いているようだった。はぁ、とため息が聞こえて、伽羅の息が梶の胸元にかかる。冷や汗にまみれた肌はそれだけで身体から熱を逃がし、梶は、今度は寒さによってぶるりと体を震わせた。
────えっちってこんなに寒いんだ。
シーツの上で鳥肌を立てる自分に、梶は薄絹のような絶望を被された気がした。身動きは取れるがピタリと肌に張り付いた虚しさは剥がれない。散々わがままを言って、伽羅の貴重な睡眠時間を三時間も拝借してこのザマだった。杭のように太い剛直を突きさすまでに二時間。そこから三分の二を埋め込んで、先述のように『拷問の類だな』と結論付けるのにさらに一時間だった。まだ三分の一が残っている。計算上三〇分あればどうにかなるが、三〇分も苦痛を伴って異物を挿入される行為を「セックス」と呼んでよいのかは甚だ疑問である。
恐る恐る梶は伽羅の表情を盗み見る。苦虫を奥歯で噛みしめているかのような伽羅の何とも言えない顔が頭上にあった。
「なんでお前ごときに性犯罪を犯さなきゃならねぇんだ」
梶の視線に気付いたのか、伽羅が含みのある言い方をする。言動は厳しい伽羅だが、彼が梶に振れる手はいつも温かかった。自身に向けられる愛情に疎い梶でさえ、伽羅の手や唇が己の肌に触れるときには『そうは言っても僕愛されてるっぽい』と思った。根本的に愛情深いというか、人格のベースに慈愛が練り込まれた人物なのだろう。どんなに素っ気ない態度を取られても伽羅からはどうしても梶を傷つけてやろうという意志を感じない。だから梶は伽羅に触れたかった。どうしてもより深いところで伽羅を感じたかった。
今だってそうだ。憎まれ口を叩きました、というような顔をしているが、伽羅の皮肉は明らかに梶の暴走に並走してやろうという気遣いが見える。「だから無理だと言ったんだゴミカス」と一蹴すれば済むところを、伽羅はわざわざ自分を加害者側に置いてフォローした。そういう優しさが伽羅にはあるし、やっぱりそういう優しさが梶にはたまらなく嬉しくて、彼を諦めたくない理由になってしまう。
「いやあの、この震えはアレですよ。武者震い。そう、武者震いです。だからぜんぜん余裕です」
そんな訳で梶は虚勢を張り、終始嫌そうな顔をしている伽羅の腕に縋りついた。我ながらめちゃくちゃな言い訳である。伽羅の眉間に一層皺が寄り、奥歯にはもはや苦虫が巣を作っているかのようだった。
「そうかよ」
「そうです。そう」
「ハーァ。この馬鹿が」
伽羅がガシガシと頭を掻く。ウェーブのかかった髪が揺れ、逞しい二の腕が梶の眼前に移り込んだ。同性から見ても惚れ惚れするような体格だ。太い腕が梶の足を抱え直し、指先で梶の胸の飾りと少々弄ぶ。「ぁ、」と小さな声が梶から出た。久々に漏れた嬌声を己の中に反芻し、梶は『俺の喘ぎ声は、本当ならコレ』と自分の脳みそに教え込む。実際に出来るかはともかく、次こそは挿入に感じていると伽羅に思われたい。「進むぞ」という伽羅の声にごくりと息を飲み、梶はやってくる衝撃に備えた。
「う゛ぁ……!」
意気込み虚しく、梶は苦悶の声を上げる。
「ぁん゛、ん、ん゛、ンい゛っ」
「梶」
「ぁ゛、だい、大丈夫です、もう少し……!」
圧迫感が押し寄せてくる。空気を取り込むスペースが徐々に剥奪されていくように感じ、白状してしまえば穴だの内臓だの、きっと痛んではならない部分が耐えずきりきりと痛かった。
どうしてこんなに痛くて苦しいんだ。自分の身体なのに、伽羅を愛している人間の身体なのに。
痛みと情けなさで梶の瞳に水が湧く。泣いているとバレたら、いよいよ伽羅は挿入を中断してしまうだろう。それだけは避けたくて梶は唇を噛んで懸命に耐える。掘削作業のような挿入は辛うじてじわじわと進んでき、フーフーと伽羅の口からは獣の息遣いが漏れていて、それが梶にはどういった意味合いのものなのかイマイチ分からなかった。
傷口に生まれる熱と外気に晒された皮膚の冷たさでぐちゃぐちゃになっていた箇所に、じんわりと温かい体温と体毛の感触を得る。全部入りきったことが分かると梶の身体からはようやく力が抜け、すると頭上の伽羅から「最初からそうやって力を抜け」と野次が飛んだ。ごもっともな指摘だが、それが出来たら苦労はしない。しかし何はともあれ、梶の体内に伽羅の性器はついに収まりきったのだった。
びっしょりと汗をかいた顔で無理やり笑顔を作り、梶は伽羅に「は、入り、……ましたよ……!」と得意げに言う。思ったより息も絶え絶えな勝利宣言になってしまったがそこはご愛敬だった。
「ぼく、生きてます……!」
「死んでねぇだけだろ」
挿入前の『死にたいのか』に対する渾身の反論だったが、伽羅は梶の言葉に素っ気なく返し、鼻白んだ表情で梶の額に手を置いた。浮かんでいた汗を払い、キスでも落とすのかと思えば伽羅は改めて掌全体で梶の額ををわし掴む。予想外の態度に梶は掌の下で眉を寄せ、不安げに「きゃらさん……?」と鳴いた。
「おい、セックスって何をするもんか知ってるか。突っ込むことがゴールじゃねぇぞ。これがスタートだ」
入ったからもう大丈夫、と安堵していた梶とは対照的に、伽羅は相変わらず険しい表情を崩さないままでいる。梶の身体を隅々まで観察し、ぎろんと鋭い目で睨む伽羅には情事の高揚感など微塵も感じられなかった。
「スタートから満身創痍な奴にこの後が耐えれると思うか。もう良いだろ。抜くぞ」
「えっ!? そんな、そ、それじゃえっちにならな……!」
「いつこれがセックスになった? そういうのは人並みに快感を得てから言え」
「ちがっ……! ぼ、僕ちゃんとあの、き、きもちぃ……ですし……!」
「ほぉ。なら動いて良いか。この薄っぺらい腰をひっ掴んで、ネズミの骨盤みたいな奥に狙いを定めてだ。良いならやる。言えるもんなら言ってみろ」
脅すような口調が梶に振りかかり、伽羅の両手が過剰な握力で梶の腰を掴んだ。指が食い込み、腰の骨がみしりと軋む。伽羅の態度は明らかに演技で、実際に彼が梶に無体を働くとは思えなかった。思えなかったが、身体は正直だ。梶は腰を掴まれた段階で「ひっ」と短い悲鳴を上げてしまっていたし、ぎりぎりと骨に力が加わるたび、やってくる下半身の衝撃を想像して全身を強張らせていった。
言えるなら言いたい。全然平気だと、どうか僕の奥に貴方の爪痕を残してくれと。
しかし気持ちとは裏腹に、梶の喉は乾き、上手く言葉が生み出せなかった。息が深く吸えない。内腿が震え、腸内は早く伽羅を追い出そうと蠢いていた。こんなにゆっくり挿入しても痛かったのだ。今までとは比較にならない速度で出し入れを繰り返し、繊細な内臓を伽羅の杭で突かれ続けたら、痛みもダメージもおそらくは看過できないほど深刻になる。
頭と身体で意見が食い違い、梶自身は伽羅の問いに沈黙するしかなかった。この場面における沈黙は肯定だと分かっていても、口を開いたところで出てくるのは痛みに怯えカチカチと鳴る歯の音だけだ。どうしよう、どうしよう、と頭の中で考えを巡らせる梶に痺れを切らし、伽羅は梶の腰から手を引いた。
「入ったからもう良いだろ。抜くぞ」
「や、や……!」
咄嗟に梶の手が去ろうとする伽羅を掴む。ようやく動いてくれた身体だったが、伽羅の怒ったような目に射抜かれるとどうにも掌に力が入らなかった。結局添える程度にしかならなかったが、纏わりつく梶の弱弱しい手を、伽羅は無理やり振りほどくことはしなかった。
「もうちょっと! あの、もうちょっとしたらきっと、出来る、出来ますから!」
苦し紛れの言い訳だ。何の根拠も確証もない梶の言葉に、伽羅の片眉が胡散臭いものを見るように吊り上がる。
「具体的には?」
「えとあの……い,一時間とか……?」
「抜く」
「わああ三〇分! じゃぁ三〇分にします! 半分に短縮! ね!? それなら!?」
「何勝手にお得感出してやがる。三〇分あれば場合によっては股からガキが出てくるぞ。生命の誕生と張り合う気か」
「うぐっ」
仰る通りである。
「でも……あの、だって……」
「でも、なんだ。だって、なんだっつうんだ」
やってられないとばかりに伽羅が舌打ちした。梶の手がずるずると伽羅の腕を伝い落ち、最後には「ぼとっ」と音を立ててシーツに転がる。もう一度手を引き上げる勇気が梶には無かった。せめてものよすがに内部の伽羅を締め上げるが、これが伽羅にとって快感に繋がることなのか、そもそも彼に『良いこと』として捉えてもらえるかは自信がない。なにしやがる、と直接的な文句こそ言われなかったが、締め付けられた伽羅は居心地が悪そうにまた舌打ちをしていた。
「これは感情論でどうにかなる話か? ギャンブラーだからハッタリで最後まで抱かれ抜けるとでも言いたいのか」
「だって伽羅さん、もう抜いたら、僕の相手なんてしてくれないでしょ?」
「質問に答えろ。お前は感情で話し過ぎだ。女か」
「こんな面倒な奴、二回目なんて無いんでしょ。抜いて、あー面倒臭かったなって思われて、終わり。終わっちゃう。死んでも良いからえっちしてみたかったんです。伽羅さんとヤったらどうなれるのか知りたかった。好きなのに。すごく貴方が好きなのに。なのにこんな、な、なんにも、何にもないまま終わっちゃう。僕は伽羅さんにとって面倒なガキで、面倒なガキのまま。ガキは、愛想を尽かされたら何になるの」
話せば話すほど支離滅裂な言葉が列を成す。どこに着地するのか梶自身も検討が付かず、ただ溢れてくる不安や悲しさに音を割り振っていく。梶の言葉は伽羅に向けて投げつけられ、その実伽羅にぶつかった後は、とんぼ返りをするように梶の手元に戻っていった。会話のキャッチボールと言うより、梶のソレは会話の壁打ち練習だ。感情で話をするなと言われながらも、梶の口からはどうにもならない気持ちだけが速度に乗って飛び出していく。伽羅にぶつけて跳ね返ってきた自分の言葉を、梶は咀嚼して、そこでようやく『あぁ自分はそんな風に思っていたんだ』と思い知ることが出来た。
結局のところ、首尾一貫して今回のセックスは全て梶の我儘だった。伽羅に触れたいのも、伽羅に触れられたいのも望んだのは梶だ。
触れる手の温かみで慈しまれていると分かる。つっけんどんな言葉の節々に、伽羅のぎこちないが淀むこともない愛情も感じ取れた。そこで梶が止まれなかったのは、『もっとこの人に愛されてみたい』と欲が出てしまったからだ。伽羅の愛情は深く、また様々な引き出しを持っている。きっと梶の知らない引き出しが、まだ自分に与えられていない愛情が伽羅にはあるはずだと思った。物事にはタイミングがあって、伽羅の引き出しを開ける権利は伽羅にしかない。なのに欲を覚えてしまった梶は、何時かくれるのなら今くださいと、相手の事情も知らずに無理やり中身を引っ張り出そうとしたのだ。
「ごめんなさい」
梶が呟く。何に対しての謝罪なのか自分でも分からなかったが、とにかく今はそう言いたかった。
「何がだ」
「いやその、諸々」
「諸々で片付けるなら最初から謝るな。お前が何に一番ごめんなさいと言うべきか教えてやる。会話の返しがノーコン過ぎるところだ」
「ごめんなさい伽羅さん。暴走して。我儘言って。なのに全然、責任を取れなくて。ごめんなさい。でも大目に見てくれませんか。えっちはじゃぁ、もう諦めるから。もうシたいって言わないから。だから他のところまで愛想を尽かさないでほしいんです」
「おいノーコン。おい。は・な・し・を・聞・け・ク・ズ」
ぶに、と伽羅が梶の頬をひっ掴む。「言われた先からなぜ死球を投げる?」と凄まれ、梶はひょっとこのような顔で「ひゅいまひぇん」と締まらない謝罪を口にした。わりと繊細な話題だし、梶は一連の行動を顧みてけっこう本気で反省している。伽羅への謝罪もこんな軽い調子で流すつもりはなかったのだが、当の伽羅は、あまり梶の謝罪を聞きたくないようだった。
「今、話をしている間も俺はブツを突っ込んでるわけだが」ひょっとこに伽羅は真面目くさった顔で言う。
「ふぁい」
「この下らねえやり取りの最中も俺はおっ勃てたままだ。お前はどう思う」
パッと伽羅の手が離れる。どう思う、と聞かれたのだから答えるべきだろう。口元が自由に動くようになった梶は、自分の中でジッとしている伽羅の一部に感覚を戻し、やはり凄い存在感だと圧倒されながら回答する。
「えと……………滑稽?」
「そうか死にたいのか。分かった殺してやる」
また顔をわし掴まれた。ままならないなぁと梶は思う。
「お前が」
視界が手のひらに覆われた梶の耳に、伽羅の、先程より角の取れた声が届いた。「お前が楽にならないのは、俺もお前も現状維持だからだ。面倒な相手に俺が萎えて、多少なり体積が減れば楽になっただろう。だが実際、そうでもない。いつまで経ってもだ。分からねぇのか。少しで良い、俺を見ろ。お前越しじゃなくて今目の前に居る俺をだ」
視界がまた開ける。目の前に伽羅の顔があり、梶は言われるがまま伽羅の顔を覗き込んだ。赤みの強い瞳が、今日はいっそう燃えている。ジリジリと奥に炎が燻っているようで、「あ」と口に出した梶は、次の瞬間伽羅に唇を喰われていた。
キスなんて今までに数える程しかされたことが無い。挿入の時でさえ痛みに呻く梶を宥めるため、額に数度唇が落ちた程度だった。こんなにしっかりキスをされるのは初めてで、何度も角度を変えながら口付けられると、(伽羅さん、キス知ってたんだ)と失礼な感想が梶の頭にうっかり浮かぶ。
こういうときAVでは、途中から舌が入ってくるものである。しかし一向に伽羅の舌が伸びてこないので、恐る恐る梶は自分から舌を伸ばし、伽羅の唇の表面をぺろ、と舐めた。伽羅が一瞬動きを止め、諦めたとばかりに口を開く。恵まれた体格に似合った広い口内が梶をもてなし、脳を蕩けさせるほど甘ったるく梶を愛でた。(それが出来るなら最初からやってくださいよ)と思わず恨み節が梶の頭を巡るが、んっんっ、と梶から鼻にかかった声が抜けるたび、埋まっている剛直がビクビクと振動したり、中でもっと膨れようとするので次第に梶も文句が付けられなくなっていった。
唇が離れ、混ざり合った唾液が二人の間で糸を引く。至近距離で伽羅の息がかかり、今度は体が、熱風で炙られたかのように熱くなった。
「俺がいつお前の為だけに動いた。おい、始まって何時間経ったと思ってる。いつまで俺は生殺しのままだ。クソが。俺はちゃんとお前が可愛いよ。次なんていくらでもある」
「ほぁ」
梶が目を見開く。伽羅さんがデレた、と感動する梶を余所に、伽羅は居心地の悪い顔をして「抜くぞ」と腰を引き始めた。
伽羅がデレた。しかしよく考えてみれば、この無謀な取り組みを力ずくで止めきれなかった時点で既にいつもの伽羅では無かったのかもしれない。確かに伽羅は愛情深いが、己のノーを捻じ曲げるほどお人好しというわけでも無い。何だかんだいって伽羅は梶を甘やかしているし、何だかんだいって伽羅は梶に折れっぱなしだ。
初めて見る伽羅の表情に、梶の頭にふと“惚れた弱み”なんて表現が浮かんだ。生温くてお花畑で、ずいぶん伽羅に似合わない語感だと思う。いやいやまさか伽羅さんに限ってそんな、と梶は苦笑交じりに頭を振ったが、逆を言ってしまうと、似合う似合わないで説明がつかなくなった状況こそ『惚れた弱み』そのものともいえた。
挿入時は中身を押し潰すように進んできた杭が、今度は内臓を丸ごと掻きだしてしまうのでは、と心配になるほど壁を引っ掻きながら退いていく。ぬぽ、と生々しい音と共に梶の下半身には解放感が訪れて、杭が抜けぽっかりと空いてしまった穴の淵から、何やら液体が伝い落ちていく感覚があった。
(なんだろ、ローション?)
挿入前にしこたま仕込んだ記憶があるので、これだけの量が逆流してもおかしくはない。そうでなければ、何だろう、もしかして抜く前に伽羅さんが暴発して……!? と淡い期待を抱いた梶だったが、現実はそこまで都合よく出来ていないらしい。「えぇ……」と伽羅の方からあまり聞いたことのない類の声が聞こえた。
「え、な、何スか。何があったんですか」
「何があったっていうか……出血……お前……」
「出血!? え!? 僕の尻に一体何が!?」
「タオル持ってくる……いいか。絶対に体を動かすな。穴も決して見るな。引くぞ」
「そんなに!?」
「お前のやせ我慢だけは認めてやる」
いそいそと伽羅がベッドから降りていく。手にバスタオルの束と救護セットを持って帰って来た伽羅に、梶は「ひぃっ!」と悲鳴を上げた。夜の後処理とは到底思えない処置を受けながら、梶はアドレナリンが切れた時を考えて顔を青くしていく。シーツを汚れていないバスタオルで包み、伽羅はそのまま布の塊をゴミ箱へ突っ込んだ。血の汚れに詳しい暴の判断である。梶はそれ以上考えることをやめた。
伽羅の腕が軽々と梶を持ち上げ、新しいシーツを敷き、梶の身体に下着や服を着こませていく。視線だけで伽羅の下半身を確認すると、辛うじて履かれているボクサーパンツが未だに歪に膨らんでいた。
「あの、伽羅さん、それ」
「これが終わったら便所に行く。見るな」
「あの、僕も連れション……てかご、ご奉仕……」
「調子付くな」
「あ、ウス」
せめてもの提案だったがあっさり却下される。
最後までダメダメな自分を情けなく思い、項垂れた梶に、伽羅は誰に向けてか分からない舌打ちを一つすると「だったら死ぬ気で傷を治せ」とヤケクソ気味に言っていた。