見慣れた南方の自宅が、今日は心なしか新鮮な景色として梶の視界に映る。本当は梶用の食器も部屋着も南方の家には用意があるのに、「これ使って」と差し出された服が南方のシャツだったので梶は思わず笑ってしまった。
「シャワーは廊下出て右。タオルは好きに使ってくれていい。服はそこら辺に脱ぎ捨てておいてくれ」
「はぁい」
勝手知ったる浴室へオロオロしながら入り、梶は初対面ということになっている人間の風呂場で後ろの準備を行った。
背徳感にも似た感情が沸き起こり、水圧の強いシャワーを梶はこっそり前に当てたりもする。浴室のすりガラス越しには梶の服を洗濯機に放り込む南方が見えたが、ん、ん、と上擦った梶の声はシャワーと洗濯機の音に掻き消え、南方には聞こえていないようだった。
清めと準備を済ませて浴室を出る。南方の貸してくれた服は上下セットだったが、上はともかく、ズボンはウエスト部分がダブつきすぎて履けたものではなかった。サイズにまで頭が回らなかったのだろうか? いいやそんな訳はない。証拠に下着は、梶のサイズにピタリと合うボクサーパンツだった。
仕方なくというか、まぁ南方のお望みが“これ”なんだろうから梶はノッてやることにする。上の服に下着というお約束な格好で浴室を出た梶は、ソファで寛いでいる南方へわざとらしいキャピキャピ声をかけた。
「お風呂先にいただきました~! 服もありがとうございます!」
「あぁそんっ、……んん~?? ?」
ゆとりある大人の男を醸し出していた南方だったが、梶に視線を移した途端、なんともいえない表情になって梶をまじまじと見つめ始めた。てっきり明るい声で出迎えられると思っていた梶は、南方の訝しむような視線に(あれ?)と首を傾げる。
「変です?」
「いやいや、変とかはない。可愛い」ぶんぶんと首を振る南方は、しかしそのまま梶と同じように首を横に倒す。「ただなんというか思ったより……お、幼い? 若い子のエロい格好というよりは、父親の服を子供が着ているような微笑ましさがあるというか……」
南方の顔がますます複雑な表情になった。んんー? おぉー? と音が付いた困惑を口から吐き出し、最終的には釈然としない様子で「まぁ本当に一七歳ってわけじゃないから良いか……」と近寄ってきた梶の頭をぐりぐりと撫でまわす。
その通り。イメプレ中の梶はただいま一七歳の家出少年に扮しているが、何度も言うが彼の実像は二四歳の男である。例え幼く見えようとも全ては成人男性の悪ふざけであり、なので梶としても、一応恋人が煽情的な格好で登場したのだから南方にはもう少し艶っぽい反応をしてもらいたかったのだった。
(早くイチャイチャさせろよなぁああ)
イメプレはわりと楽しいが、とはいえ早くエロい展開にも突入したい。存外性的な方面で我慢の利かない梶は、純朴な一七歳のイメージから外れないギリギリで勝負をかけることにした。
丈が余っている袖口に顔を寄せ、すんすんとにおいを嗅いだ梶は南方に
「なんか、大人の男の人のにおいがして……僕、ドキドキします」
とはにかんでみせる。
リアルな一七歳男子がこんなベッタベタな台詞を言うとは到底思えないし、梶自身も(俺成人した男なのに何やってんだろ……)と虚しくならなかったかと言えば嘘になった。が、少なくとも梶が今まで鑑賞してきたAVの中で、名だたるセクシー女優たちはこんな感じに男を誘惑していたのだ。演技と分かっていても彼女たちの無邪気や無垢は視聴者の梶をキュンとさせたしギュンッとさせたし、だから南方だって、恋人の梶がこんなことをしたらキュンとくるしギュンッとくる―――はずなのである。
「…………」
「……ちょっと、なんで目を逸らすんですか」
無言で梶を見つめていた南方が、おもむろに顔を手で覆い、そのまま大きく仰け反っていった。ソファの背もたれに沈み、南方が「ダメじゃ……」と消え入りそうな声で呟く。
「もう本物の一七歳にしか見えん。ワシ一七歳の子を部屋に連れ込んでしもうた。え、するんか。ワシこのあとセックスを。こんなおぼこい子にちんぽ突っ込んでええんかオイ」
「いや何言ってんですか南方さん」
ビシ、と梶の手刀が南方の頭に炸裂する。非戦闘員のへなちょこチョップだったが、完全に気を抜いていた十陸號立会人はモロにくらい「ホッ!?」と裏返った声を上げた。
「落ち着いてください。僕は二四歳で貴方の彼氏です。これはマンネリ防止のイメージプレイだし、つぅかもう南方さんは僕に何度かちんぽを突っ込んでます。冷静になって」
「そ、そうじゃな。すまん……ワシどうかしとった」額をさすり南方が申し訳なさそうにする。「これはイメプレ。梶は本当は成人男性。セックスの時は経験も浅いくせにもう自分から腰を振ってくるような淫乱メスガキ………よし!」
「いま後半悪口じゃなかったです?」
両頬を叩いて仕切り直しをはかる南方に、梶はのそのそとソファに乗り上げながらツッコミを入れる。聞き間違いでなかったら梶はいま『淫乱メスガキ』と罵倒されたような気がするが、まさかまさか、梶の優しい恋人がそんな暴言を吐くはずがない。
ふぅぅ、と何度目かの深呼吸を吐いた南方が、急にきりっとした顔で梶を見据えた。散々ぎこちない男の姿を晒してきたというのに、真面目な顔になった途端嫌味なくらい男ぶりが上がる人物である。これでガチのエリートっていうんだから始末が悪いよなぁ、と苦笑する梶の腰に南方の手が回り、ここまで主導権を握ってきた梶は一気に体を強張らせた。
「わっ……!」
「あぁすまない、いきなり触って」
南方が言葉ばかりの謝罪を入れる。気が付くと南方のイントネーションは標準語に戻っていた。オンオフの切り替えが早い南方は、そのまま余裕を含んだ手を梶の服の中へ差し入れてくる。
「やっ、なんぽ……恭次さん!」
「ん? あれ、違ったかな。君の望んでいることだと思ったが」
「ちがっ……! の、望んでるなんて……僕その、そういう経験は……!」
「したことがない? その割には、初対面の人間の家で随分大胆なことをしていたじゃないか」
シャワーは気持ち良かった? と耳元で南方が囁く。浴室での一人遊びを思い出した梶はギクッと肩を揺らした。
「えっ、き、聞こえてたんですか!?」
「声は聞こえなかったが、ガラス越しならある程度なかで何をしているのかは見えるさ。そうか。声も上げていたのか。ははっ。いよいよ行儀が悪いな」
「そんなっ……!」
南方の手が梶の腹をまさぐる。素肌にスウェットを着ただけの梶は、直接触れる南方の手にゾクゾクと肌を粟立たせた。
手が円を描くたび、指先が胸の飾りに届きそうになる。体は熱を帯び、燻るような快感が脳を震わせた。もどかしい。決定打がない。南方が耳に舌を這わせると、梶の喉は甘くわなないた。
「ぁ、は……!」
「形のいい耳だな。ピアスがよく似合いそうだ。君と同じくらいの年の頃に私も開けてね。案外痛くないんだよ」
そう言って南方が梶の耳たぶに歯を立てる。丁度自身のピアスホールが開いている辺りに、南方が犬歯を喰い込ませた。貫通するほどの力ではないが、淡い痛みを刺激と捉えた梶の身体にはその瞬間電流が走る。ズボンを履いていない下半身は、既にボクサーパンツにシミがあり、前も不自然に膨らんでいた。
「ん、い、いたっ……、きょうじ、さん……っ、みみ、止めて……!」
「止める? なら、次はどこを?」
「っ……! ぁ、あんっ……!」
拒否を待っていたかのように狙ったタイミングで南方が梶の胸を擦る。掌で優しく全体を撫であげ、かと思えば身悶えする梶を咎めるように先端を摘み、血が集まった先っぽを爪でカリカリされると、絶賛開発途中の家出少年の中の人はもうひとたまりもなかった。
「はっ、はぅっ、ぁ、ち、くび……きもひっ……!」
「あーあーだらしがない。本当に何も知らない子供が、乳首を触られたくらいでこうも乱れると思うか? 大人をおちょくって楽しいか。なぁ、どうなんだ?」
「おちょくってないっ、ぼ、ぼく……ぁ、しらない……本当にしたことにゃいのっ……!」
「そんな言葉を信じた私が馬鹿だったよ。無垢な顔で善良な人間に付け込んで、一体今までどれだけの大人を誑かしてきたんだ?」
「ヒッ! や、やぁアア!!」
ぎゅぅう! と強い力で乳首を抓られ、不意打ちの刺激に梶の体が大きく跳ねる。つま先から脳天に向かって一気に電気がかけ登り、痛みか快楽かも分からないソレに脳が焼かれた。
目元に星が飛び、口がパクパクと意味もなく開閉する。梶の下半身を見下ろした南方が「下品な子だ」と吐き捨てたので、ようやく梶は、自分が乳首で達していたことを知った。
「今ので達するのか。君は本当に、どうしようもないな。将来が不安だよ。今のうちに教育されるべきだ」
「うぐ、ぁ、んぅっ……!」
南方の目が冷たく光り、彼の指がするすると後ろに回った。ボクサーパンツ越しに淵を揉みほぐし、すっかり柔らかくなった蕾に、南方の指が、ボクサーパンツの布地ごと捻じ込まれていく。
「あぁアッ!! !」
「悪い子供にはここを使った躾が一番よく効く」
嘲笑と共に降ってくる侮蔑の目。自身の暴行を肯定するような大義名分を並べ立て、無力な存在を蹂躙する悦びに唇を歪ませている南方を見て、梶は自分の中でむくむくと被虐心が膨れ上がる気配を感じた。先程潰されたばかりの乳首が再び興奮で充血し、達して間もない性器も、乳首と同じようにまた芯を持って刺激を得ようとビクついている。今まで気付かないふりを続けてきたが、どうも梶は、元来マゾヒストの気質があるようだった。
(ヤバいヤバいやばいっ♡♡♡南方さんノリノリじゃん! え、やば、南方さんこんな強引に出来るんだ……! ♡こんなん、す、すっごい意地悪なえっちされる……! 言葉責めとか? 強引なアレとかソレとか? こ、こんなでっかい、頭も体も良くて強い人にネチネチされちゃったら? ……~~っ♡♡! む、無理! ♡絶対僕むりになる♡やばい、やばいって! ♡マジで本当にメスガキになるって♡♡♡)
脳内を桃色に染め上げ、すっかり沸騰した思考回路で梶はごくりと生唾を飲み込む。普段の甘イチャ猫可愛がりらぶらぶ(隠語)も勿論大好きだが、それはそれ、これはこれ。たまにはジェントルな男にクレバーに抱かれたいではないか。
南方の指がボクサーパンツ越しに梶の中を擦った。繊維が柔い粘膜をしょりしょりと削り、梶の腰が自然に揺れる。
「あっ、はぅ……! っん、だめ、だめだめっ! そんなとこっ、触っちゃ……!!」
「ダメと言うわりに腰が揺れているな。カマトトぶるな。あぁそれとも、それもか弱い子供の演技か?」
くつくつと笑われ、容赦なく中の指が増える。ナカの弱いところを執拗に責められ、躾という表現がピタリと当てはまる終わりの見えない快楽地獄に叩き落とされた梶は、グズグズになった脳みそで、本当に家出少年になった気分でぽろんと涙を流した。
「どうしてっ……っ、恭次さんのこと……し、信じてたのに……!!」
ピタリと南方の手が止まる。ハァァア、と深いため息が聞こえ、梶はゾクゾクした。
呆れられている。浅ましい自分の身体が。
さぁここからは乱れた身体の梶少年に、品行方正な街のお巡りさんこと南方が正しい青少年としての有り方を文字通り体に教え込むターンである。細身の体に逞しい剛直が打ち込まれ、激しい快楽と圧倒的な雄に征服される敗北感に、梶は己がいかに無力で世間知らずな子どもかを思い知るのだ。
別にボトム専用になりたいわけでも性的な意味で破壊願望を抱えているわけでも無いが、信頼している南方にならちょっとくらい自分を捻じ曲げられたって良い。例え取り返しのつかない性癖が開花したとしても、きっと南方は責任を取ってくれるタイプだ。だったら望むところだ。
たっぷりたっぷりいけない快楽に溺れてやる。さぁめくるめく夜の教育的指導の始まりだ―――!
そう、梶が息まいた矢先である。
「─────すまんもう無理ッ!! !! !」
「えっ?」
ぬぽ、と唐突に指が引き抜かれ、直前まで梶をいたぶっていた鬼畜エロエロお巡りが瞬間どこかへ霧散した。
後に残ったのは火照った身体でキョトンとする梶と、梶の隣で頭を抱えて唸る南方だけである。
「あれ? 南方さん? あれ?」
「すまん梶……ワシはもうダメじゃ……」
「なに? え? え?」
「食い物にされる青少年が……惨すぎて……すまん今日はもうワシ梶のこと抱けん!!」
「え………え゛え゛え゛え゛え゛!?!?」
何が起こっているのか分からない梶の前で、次には南方は「ごめん!! !」と平身低頭したまま動かなくなった。今まで人に頭を下げることなど少なかった人生だろうに、南方の謝罪する姿勢の美しさといったらない。それはもう、彼の謝罪の気持ちと押し潰されそうな罪悪感がとても伝わってくる姿だった。カジュアルな部屋着を着ているにも関わらず、なんだかそのスウェットの黒さえ謝罪用のフォーマルスーツに見えてくる始末である。
「いやいや何言ってんですか!? え!? ここに来て!? え!?」
「言わんとすることは分かる! 本当にすまない! でももう耐えれんのじゃ! ワシ出来ん! こんな弱い立場の家出少年を食い物にするようなこと! 今日は普通に飯食って寝て帰ろう!? な!?」
「えっ僕食われるためにお膳立てしてきたのに!?!?」
梶が慌てて南方に駆け寄る。今の今まで弄られていた体が動いたことでズクンと疼き、次を期待していた後ろの穴は切なそうにキュンキュン締まった。思わず声が出そうになるものの、これ以上ややこしい状況にして堪るかと梶は己を叱咤して南方の肩を掴む。
ガクガクと彼の恵体を揺さぶり、とにもかくにも顔を上げさせようと力を加えてみる。が、南方の俯き続ける力の方が強かった。南方の身体はビクともせず、梶は仕方ないので南方の背中に乗りかかってバシバシと彼を叩く。
「何言ってんですかこれ演技! 演技ですよ! 僕は本当は家出少年なんかじゃなくて都内の高級ホテルを自宅扱いしてるような成人なんです! 南方さんとも普通に付き合ってる成人! 分かる!?」
「いやそうなんだが……でもさっきの怯えた表情がどうしても罪悪感を煽って……」
「怯えてねぇし! 演技ですって! だって僕らもう六回もヤったじゃないですか!」
「あれ? 六回だったか? 四回では?」
「てっ、手とか口でシてもえっちでしょぉ!?!?」
梶の下で南方がひぃ、ふぅ、と指を折る。南方の言う通り挿入まで済ませた回数は四回であり、その他は梶の準備が整いきらなくて手で扱き合ったり口で互いを慰めたりしてフィニッシュまで迎えていた。おっしゃる通りではあるが、そんな数字上の揺れはこの際どうでも良くないだろうか。大切なのは二人が性的行為に及んだ回数の有無であり、更に言うなら濡れ場に至るまでに積み重ねてきた南方と梶の信頼関係だ。
梶は南方に折り重なった状態で「とにかくえっちはしてきたじゃないですか!」と語尾を強くする。強情な態度を貫く南方をいいことに、梶はそのまま下に居る南方を馬鹿! ヘタレ! もみ上げの角度四五度! となじった。厳密にはもみ上げの角度は誹謗に該当しないが、南方は「言わせておけば!」と急に状態を起こし、バランスを崩した梶を片手で受け止めるとそのまま梶を羽交い絞めにする。
「というか、これに関しては梶も悪いんじゃないか!?」
「はぁ!?」
何やら聞き捨てならない台詞が南方から飛び出す。身動きの取れない状態だが梶は果敢に南方に噛み付き、『立会人に非戦闘員が羽交い絞めにされている』という絶望的状況の中ある種呑気に「何が悪いっていうんですか!」と南方に怒鳴り返した。
「僕、ちゃんと演技してたじゃないですか!」
「それじゃそれ! 演技が上手すぎるんだ! こんなんもう本当に未成年を騙してる気分にしかならんわ! リアリティがありすぎるイメージプレイはフィクションと現実の境界が曖昧になって危険なんだ! 普段からAV見とるんじゃろ!? 分かるだろそれくらい!」
「そんっ……! いや知らないっスよそんなの! 誰が紗倉まなだ!!」
「言ってない!! 実在する演技派セクシー女優の名前を挙げるのは止めなさい!!!」
梶が威勢良くツッコミ、それに対して南方が更に勢いをつけて突っ込む。曲がりなりにも南方は法治国家において法の名の下に悪を取り締まる職に就いているため、こと著作権とか肖像権とか二次創作におけるプライバシーの侵害については人一倍気を配ってくれるのであった。素晴らしい。我々も見習わなくてはいけない。ちなみに余談ですがコレを書いてる人間はセクシー女優に疎いので作中に人物名を明記するにあたり検索欄で『セクシー女優 演技派』で調べて一番最初に出てきた名前を打ち込みました。本当に演技派かどうかは各自FANZAなりで確認してください。閑話休題。
さてさて、梶と南方の攻防戦は相変わらずまだ続いている。
「なんですか南方さん別にそんな良い人設定無いじゃないですか! いや悪い人とは思ってないけど! 特別子供好きとかじゃないでしょ!?」
「いやワシ、子ども交通教室に自分から有給使って指導員として参加しとるんじゃけど……」
「じゃぁ良い人じゃん! そんな人がなに未成年イメプレなんてしてるんですか! リアル未成年に手ぇ出したら犯罪ですよ!?」
「おどれはさっきから何を言っとるんだ!!!」
目くそ鼻くそのどっこいどっこい討論は殊更犬も食わない方向へと加熱している。二人は羽交い絞めの状況からは抜け、南方の膝に梶が乗り、互いの首に腕を回した状態で言いたいことを遠慮なくぶつけ合うフェーズに移行していた。
南方のズボンは梶の体液塗れになっていたパンツのおかげでじわじわと布にシミが広がっており、梶も欲の炎は一旦下火になったものの、燃焼不良の身体は未だに奥底で熱が燻ってふとした拍子に梶の身体を震わせている。
そこまで来たらもうセックスした方が早いのではないかという体勢だが、残念ながら余裕のない二人は自分たちが現在どれほど淫猥なポージングになっているのか気付いていないようだ。
それにしても、である。
南方が良い人間なのかは諸説あるにせよ、少なくとも南方恭次に児童を加虐する趣味は無いらしく、どころかリアルとフィクションを明確に分け、少しでも現実に影響が及びそうになれば生理的拒否を突き付ける分別が彼には備わっているようだった。この世の成人全てに是非とも標準装備されていてほしい価値観であり、国家の中枢に根付いている南方の身分からしても歓迎すべき感性だ。ただ、とはいえ今の状況にだけは全くもって望ましくないのも事実である。梶が言うようにそういうのってイメプレ前に申請しておいた方が良かっただろうし、ノるだけノっておいて本番直前に中止宣言とはいくら倫理観が真っ当だといっても道理が通らない。
梶はむぅ、と唇を尖らせたまま南方の耳を手で弄ぶ。終始つけっぱなしのピアスはどうやら少し拡張も施してあるようで、南方の身体に一生ものの風穴を空けつつ、まるでそれが生まれつきであるかのように控えめな主張を続けていた。
自分は体に棒を貫通させておいて、梶には清廉潔白を求めるなんて虫が良すぎるのではないか。もう正直早く気持ち良いことがしたくて堪らない梶は、南方がピアスホールを利用していることさえ『なんだよ自分ばっかり穴使いやがって』と腹を立て始めていた。
「じゃぁなんですか。今から僕が懇切丁寧に、僕が成人してる証拠とえっちがしたくて堪らない性欲全開ムーブを披露すれば南方さんも納得してくれるんですか。保険証提示しながら後ろを自分で弄って酒イッキすれば満足なの? それ何のプレイですか?」
「言ってない言ってない。正直ちょっと見たい気もするが、ワシは梶に自分を大切にしてもらいたいんよ。そんな捨て身のプレイせんでほしい。あと腰をゆさゆさすな」
「あ゛ーもう! ならどうしろっていうんですか! 南方さんは僕が健気で可哀相な未成年に見えたら抱けないんでしょ!? そんな僕居ないのに! ちんこくらい押し付けなきゃやってらんないっスよ!」
「そうかもしれんけどぉ――――あ、そうだ」
「ん?」
「じゃぁ逆に、梶を正反対の生き物だと思えるようになったらどうじゃろ?」
「せいはんたい?」
「そうよ」
ぐわし、と梶の腰を両手で掴み、急に南方がそんな提案をする。梶を軽々と持ち上げた南方は、自分がソファに横たわるとその上に梶を降ろした。傍から見ると、まるで梶が寝ている南方に自ら跨ったかのようだ。まだ騎乗位が出来るほど回数をこなしていない梶は、慣れない視界に先程までとは打って変わってオロオロと視線を泳がせる。
「えっと、え……?」
「梶、設定変更しよ。ここからのワシはうだつの上がらん冴えない国家公務員じゃ。ひょんなころから国の重要人物の一人息子(※成人済みの大学四年生。大手企業に親のコネで内定済み)に気に入られたワシは、親の七光りでワガママ放題に生きてきた一人息子に父親の権力をカサに竿役になれと脅迫を―――」
「待って南方さん! どうしたらそんな設定がスッと出てくるんですか!?」
「言わんでくれ梶! ワシも所詮は有料サイトに会員登録しとる普通の男じゃから! キャリアってこういうもんやから! 聞き流してくれ!」
「キャリアってそういうもんなんだ!」
「聞き流して!」
「そっ……そっかぁ! キャリアってそっかぁ!」
そっかぁそっかぁ! と鳴き声のように繰り返す梶に「全然聞き流してくれん!」と南方が手で顔を覆う。そりゃぁ聞き逃すなんて土台無理な話だが、初めて聞く南方のちょっと人には言いずらい性癖は梶の擬態魂に火をつけた。
親の七光り……ワガママ放題……。ぶつぶつ呟く梶は、自身の下半身のぐずつきさえ置き去りにして真剣な顔でうーんと頭を捻らせる。そんな有難い立場になったことも、世の中を舐めてかかれるような環境でぬくぬく生きてきた経験も梶本人は無い。しかし世の中には確かにそんな人生を歩んでこれた人種が居て、そういった方々が無邪気に人の尊厳を潰していく光景には、悲しいかな、梶も何度か踏み潰される側として立ち会ったことがあった。
梶は今までの人生で見てきた数多の成金や温室育ちを思い出し、己より弱いものにだけ大きな態度をとる彼らの立ち振る舞いに咳ばらいを一つ、顔にどこかで見た嫌味ったらしい笑顔を張り付けると、自身の思う精一杯の『生意気なクソガキ』を南方に披露した。
「御託は良いからとっととチンポ勃てろよ底辺公務員。そんな遺伝子残されてもお国の恥なんだよざーこ。僕の上級国民アナルに無駄打ちして少子化加速させろ♡国家のお荷物な雑魚雑魚公務員はぁ、せめてちんぽで国民様にご奉仕してくださぁい♡」
「才能ありすぎんか?? ?」
才能ありすぎたらしい。
嬉しいと複雑が綯い交ぜになりつつ、梶は生意気な態度を崩さないままに「早くしろってパパに言うぞ」と言い放った。
なお。
このあとオンオフの切り替えが早いと評判の南方は早々に梶の擬態に我を忘れることとなり、年上への敬意の払い方も知らないクソガキに分からせ種付けプレスを施すことになるのだが。
そしてその無体を強いられて梶は、南方に好き勝手穿たれまくった結果白目をむいたままオホ声ダブルピースをかましことになるのだが。
それはまぁ、別の機会に披露することにしよう。