海外渡航が決まった。賭郎関連であればそれなりに楽しみもあるというものだが、残念ながら本職の関係である。
日頃殆どの業務をリモートワークで凌いでいる身とはいえ、流石に現地の技術教育に携わってくれと言われれば現地に赴くより他なかった。私だってこう見えて一端の社会人だ。それなりに世話になっている表社会の先輩に「弥鱈しか居ないんだ! 頼む!」と頭を下げられて「え~嫌ですぅ」と言えるほど社会不適合者ではない。
ただ、人間相手の技術教育を指して「弥鱈以上の適任は居ない!」。これは嘘だろう。そんなわけはない。言いたかないが人にものを教えるという範囲に関して、私より適した人間など世界にはゴマンと居る。
「どれくらい長くなりそう? 一年とか、そんな話?」
「最長で三カ月です。早ければ一月足らずで帰れるそうですよ」
ジャケットを預かってくれた梶が「良かった短い」と安堵するように言う。皺が出来ないようにと早速ハンガーに服をかけた彼は、そのまま流れるように私の首元からネクタイを引き抜き、同じようにハンガーにかけた。
着替えくらい一人で出来ますよと何度言っても、彼は「良いじゃないですかせっかく二人居るんだから」と口を尖らせて私の気遣いを無下にする。元々尽くし癖のある梶は、とにかく内側に入れた人間の世話を焼きたがるタイプだった。今まではマルコやお屋形様の日常の世話をすることで欲求を満たしていたが、そんな日常を私が取り上げてしまったので、行き場のない奉仕欲が溜まってウズウズしているらしい。
世話好きの彼を家族から引き離し、私一人しか住んでいないマンションに「一緒の家に帰ってくれませんか」と招き入れたのは私自身である。ならば私利私欲のために梶を持ち出した人間として、彼の世話焼き欲求に付き合う義務が私には発生していた。
まぁ何だかんだと理由をつけたところで、単純に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる恋人など可愛くないはずがない。「奥さんみたいですね」と冗談を言う私に気まずそうな顔をした梶は、「奥さんってガラじゃないよ」と呟いたのち、はにかんだ顔で「でも奥さんって例えが出てくる悠助くんは可愛い」と私のこけた頬を撫でた。
「まぁ一カ月でも、私は全然嫌ですけどね」
「ご飯が合いそうじゃない?」
「食事なんてカロリーになるならそれでいいです。そうではなく、貴方が居ないので」
「悠助くんってそういうとこ結構素直だよね」
「正直者なので」
「あはは、意外。でもその正直さって凄く良いと思うな」
ネクタイから解放された首元に今度は梶の腕が回る。布よりも遥かに大きな質量が圧し掛かり、重いはずなのに、不思議と肩が軽くなる心地がした。
「貴方は寂しくないんですか?」
「寂しい。でも、立会人として行くわけじゃないからあんまり危険じゃないでしょ? だから、いつもよりは耐えれるかな」
「そうですか」
「でも寂しいよ?」
「はい」
自分よりも薄い体を抱き締め、彼のにおいで肺を満たす。優しく穏やかな声で「こんな風にされるともっと寂しくなっちゃう」と恨めしそうに言う彼が愛しかった。
「出発まで二週間ほどあります。何時もより念入りに補充をしておきましょう」
「補充?」
「隆臣の」
「僕の補充?」
「そう。渡航中枯渇しては大変なので」
「なんかラクダみたい。溜めとくんだ、僕のこと」
「燃費が悪い方なので、補充していったところで三日で使い果たすかもしれませんが」
「いっぱい補充してって良いよ」
「お言葉に甘えて」
「僕も同じだけ充電させてね」
「はい」
腰辺りに回っていた手を下に下ろしていく。小ぶりな尻を服の上から揉むと、梶がセクハラだぁ、とケラケラ笑い、仕返しだといって私のスラックスからベルトを引き抜いていった。
※※※
「悠助くん、ちょっと良い?」
そう夕食後梶に呼び止められたのは、海外渡航を三日後に控えた日のことだった。
妙に神妙な面持ちの彼は、話があるから来てほしいと私を寝室へと誘導する。連日長い時間を二人で過ごしている寝室は何となく常に空気が艶っぽく、今日も換気やシーツ交換を完了しているにも関わらず、部屋に入ると夜のにおいが漂っているように思えた。
「実は僕、一人でこっそり考えてたことがあって」
梶の手にはダンボールがあった。馴染み深い通販会社のロゴが印字されたダンボールは、先日私がネットショッピングをした際に出たものである。成人男性が両手で持たなくてはならない程度の大きさがある箱から、なにやら蛍光ピンクの物体が顔をのぞかせていた。
「それは?」
「う……ちょっとあの、人に見せるようなものじゃないんですけども……」
言いながら梶が気まずそうに段ボールを床に置く。中にわんさかと詰め込まれたアダルトグッズに、思わず私の口から「うわ」と声が漏れた。
ローションボトルやピンクローターといった日頃の愛用品に加え、ダンボールの中には大小さまざまなディルドが入っていた。人の指程度しかない細いものから血管が浮き出たリアルな造形のものまであり、色も生々しい肌色からエナメル素材の漆黒まで多種多様である。
「これは貴方が?」
「う、はい……僕が買いました……」
顔を赤くした梶が俯く。いずれも私の海外出張が決まってから買い込んだものだそうで、たった一,二週間で集めるにしては些か量があると思ったが、梶は取り繕うように「ぜ、全部使うわけじゃないんだよ!?」と言った。
「その、どれが丁度良いか分かんなかったから! とりあえず数買って試して、一番似てるやつを使おうと思って……」
「似てるやつ?」
「あ、ぅ……その……」
更に梶が顔を赤くする。いたたまれないといった様子で床のディルドから目を反らした梶は、辛うじて私に聞こえる声で続けた。「悠助くんの……ちんこに……」
なるほど、と合点がいく。どうやら梶は、私が出張中に自分の身体を慰める相棒を探してこれだけのディルドを買い込んだのだ。大きさや硬さなど、一言にディルドと言っても様々である。全ての商品に開封の後があるのは、実際に自分の身体で使用感を確認したからだろう。
「へ~ぇ? 毎晩あれだけ睦み合っていても、まだ一人遊びする余裕があったんですか」
「あそっ……そ、そこまではしてないから! ただ毎回、ちょっと入れて出し入れして感覚を確かめてるだけ!」
「ではディルドではまだ一度も達したことが無いと?」
「いや、まぁ……れ、連続して何個も試してるとちょっと気持ちが乗ってくることがあるから……その時は……」
「一人でオモチャ遊びしてたんですね?」
「も、もー! それは良いでしょ今は!」
梶がポコポコと私の肩を叩く。いやむしろそこしっかり言及したいし何だったら実際に見たいんですけど、というのが本音だったが、梶はともかく! と一方的に話題を切り上げると、アダルトグッズでいっぱいのダンボールを指差してやけくそに大声を出した。
「色々試して、最終候補を二つにまで絞ったの! でも実際の悠助くんのと本当に近い感覚なのかって、ちょっと不安になってきて……」
「ははぁ、だから実際にセックスして確かめてみようと?」
「ディ、ディルドと本物の悠助くんを交互に入れたら、違いがはっきり分かると思って。だってどうせなら悠助くんとヤってるって思いながらヤりたいし……悠助くんの形じゃないちんこに気持ち良くされてるのって、なんか嫌って言うか……」
「はーすごい、貴方って本当にエロ漫画のヒロインみたいな夢の守り方してくれますよね」
「だ、ダメ? ディルドとか、悠助くんのじゃないチンコで気持ち良くなるのって嫌? これって浮気?」
「まぁそりゃ私よりオモチャのほうが良いと言われたらいい気はしませんが、今回は私側が負担を強いてしまっていることですし。むしろ私がいない時でも私に抱かれていたいと言うんだから、グッとくるのが男ってもんですよねぇ」
「じゃ、じゃぁ……!」
「不便な思いをさせてすいません。私で良ければご協力させていただきます」
よかったぁ! と梶が私にしがみ付いてくる。くたびれたスウェットに頬をすり寄せ、少し上目遣いになった彼はフニャンと笑うと「これ苦肉の策だからね? 当たり前だけど本物が一番だから」と念押しをするように言った。心臓がどくんと跳ね、思わず頭の中でキャリーケースの空き容量を計算する。どうにか鞄に詰めて持っていけないだろうかと思わずにはいられなかった。
そうと決まればと、早速梶が段ボールの中身を物色し始める。「僕的には結構いい線いってるチョイスだと思うんだよねぇ」と冷静な側からするとなかなか過激なことを呟いて、梶は段ボールから肌色のブツを取り出した。
生々しい色に表面を何本か血管が走っているディルドは、太さこそ特筆するようなものでは無かったが長さがあった。亀頭の部分は引っかかりやすいようにワザとカリ高に設計してあり、抜き差しすれば嫌が応にも存在感が増すように造られている。
「一つ目の候補がこれなんだけど」
梶が恭しい手つきでディルドを両手で持つ。梶の手と比較すると思ったよりもサイズ感があり、自分の性器はあんな大きさがあったのかと客観的な大きさを指摘され少々ギョッとした。
とはいえ私も男なので、暗に立派なブツだと示されればそれほど悪い気はしない。「こんなもの普段から受け入れてるんですね」と悪戯心から彼をなじると、梶はほんのり目を潤ませて「あぅ……」と視線を泳がせていた。
「僕の動かし方とかの問題もあるし、満足感とかそりゃ全然比べ物にならないんだけど、それでも奥の良いとこに当たる感じなんかは似てて……」
「はぁ」
梶の解説を聞きながら口元を覆う。どうにもニヤついてしまい、一生懸命に私とディルドの共通点を列挙する梶を無表情で見届けることは難しかった。
というか、私のブツは彼の良いところにそれほど丁度良く当たるのか。いざ本人の口から明言されると興奮する事案である。
「自分のものなんて客観視したことはありませんが、そうですか、貴方の身体が覚えてる私はこんな形をしているんですか。なんというか光栄ですねぇ」
「まぁ他よりちょっと似てるってだけで、悠助くんかっていわれると違うけど……あ、でねっ? もう一つがこれ!」
梶がもう一つの候補を段ボールから引っ張り出す。「これはねぇ、なんか入ってくる感じとか、奥に届く感じが似てんだよ」と興奮気味に説明する梶を余所に、私は取り出されたブツを見て一転、絶句した。
紫色の全身に、明らかに人体では表現しきれないうねりが竿全体に纏わりつく形で施されている。亀頭は極端に太くこぶ状になっており、その先端に取り付けられた鈴口は……これ本当に鈴口と表現して良いのか? どんな意図かは分からないが、先が二手に分かれていた。
「ちょ、えっ、えっ?」
「いやぁ僕もね、半信半疑で買ったんだよ。いくら悠助くんが強いからってちんこまでこんな強くはないだろって。フェラだって何回もしてきたけど、悠助くんのちんこってあくまで普通の形してるし。でもさ、なんか不思議なんだけど、これ動かしてるとたまにすっごい悠助くん! って感じる時があって! なんだろ、悠助くんの動き方を、この形が再現してくれてる的な? とにかく見た目はアレだけど、かなり良い線いってて!」
梶が力説する。ド紫で土台部分には謎の鱗がびっしり表現されているグロテスクな物体を、梶は先程と同じように恭しい手つきで持ち上げ、その無邪気な笑顔の横にピタリと沿わせて言った。
「そんな訳でもう一つの候補、ドラゴンペニスです!」
「ちょっと待ってくださいよ」
それ以上の言葉が出てこない。先程までの『俺の恋人ほんとにシコい』という呑気な喜びは一瞬のうちに霧散して、今私の心情に渦巻いているのは、ただ目の前の感受性大暴発モンスターに対する『コイツ自分の恋人をなんだと思ってるんだ?』であった。
「なに、なんて? え? ドラゴン、なに? は?」
「ドラゴンペニスだよ悠助くん」
丁寧に梶が説明してくれる。いや名前を覚えられなかったわけじゃないんですよ。聞き間違いだと思いたかったから聞き返したんですこちとら。
なんでこの人はさも自分は一般名詞を呟きましたが? みたいな顔で私を見つめることが出来るんだろう。梶は自身のスマホを取り出すと慣れた手つきで端末を操作し、「ほら、これだよ」と私に画面を差し出してきた。
ネオンカラーの光るサイバーチックなホームに、でかでかと炎を吐き出すドラゴンのイラストが掲載されている。鎧のような鱗に鋭いかぎ爪を持ったスタンダードなイメージのドラゴンだったが、私の視線はその下半身に固定されていた。
「正確にはFP社のドラゴンシリーズってラインの商品で……」
「FP社のドラゴンシリーズ」
「あ、ちなみにFPはファンタジーペニスの略ね」
「ファンタジーペニス」
怒涛のように知りたくない類の新情報が耳に注ぎ込まれていく。栄華を極めた人間の転落人生や弱者の愚かしい蛮行など耳を塞ぎたくなるような醜い話は賭郎に在籍する以上日常的に耳にしてきたが、ここまで耳から入ってくる情報全てが嘘であってほしいと願うのは今日が初めてだった。正気かその社名。絶対そんな登記謄本取り扱いたくない。
「他にもけっこうシリーズがあったんだよ。ゴブリンとか、オークとか。でもやっぱりさ、男ならドラゴンじゃん? だからドラゴンから試しに一つ選んで……そしたら大当たり!」
「ちょっと待てって」
梶はふんふんと鼻を鳴らしながら興奮気味に言う。うっすら感じていたことだが、どうも説明に対する熱の入れ具合をみるに、梶の本命ディルドは先程の人型のものではなくドラゴン型のほうらしかった。本心から言っているのだろうか。梶は何事も形から入るタイプの人間なので、ドラゴンというだけでテンションが上がっているのかもしれない。きっとそうだ。そうであってほしい。見た目と使い心地の両方を加味した上で総合的にドラゴンに軍配が上がったとあっては目も当てられない。
「すごいんだよコレ。商品ごとに色も形も全然違ってさ、それぞれちゃんと名前も付いてんの」
「この話まだ続くんですか」
「これは何だっけ、煉獄王だったかな」
「煉獄王」
仮にも人体に入れる目的で作ったブツに地獄の名前を付けるな。
「これさ……あの、最初に使った時すっごい声が出ちゃって。悠助くんが家に居た時だったから、バレるんじゃないかってひやひやしてたんだよね。ゲーム中だったみたいで、まぁ大丈夫だったんだけど……」
「……」
気恥ずかしそうに自身の痴態を告白する梶は相変わらずこちらのツボを的確についてくる。一人遊びがバレないようひやひやしながら自慰をする梶。良い。とても良い絵面だ。突っ込んでいるのが普通のディルドだったら垂涎ものだっただろう。残念ながら実際に梶が突っ込んでいたのは鱗が着いた紫のディルドだが。
関係を持ってまだ間もなかった頃のように、枕に顔を埋めて漏れる声を隠そうとしたり、偶然当たったイイトコロを探して、夢中で腰を揺らしたりしたのだろうか。気持ちが良くなりすぎると勝手に涙が出てきてしまう彼なので、真っ赤な顔をして、途中からは半分ベソをかいていたのかもしれない。
ぐすぐす言っている時の梶は精神が揺らぎやすいようで、普段の行為中も、可愛いな、などと思って傍観していると早く抱き締めろとばかりに手を伸ばしてくる。近くに私の気配があったのに、その時は一人で泣いていたのだろうか。快楽に身を震わせ、習慣で伸ばした先に私の姿が無かった時、梶はどうしたのだろう。
想像するだけでたまらない気持ちになる。軽い気持ちで挿入した玩具に予想をはるかに超える快楽を与えられ、別室に居る私に気付かれないよう、必死に声を殺しながらもディルドを動かす手は止まらない隆───あ、ダメだ。やっぱり妄想の邪魔だ紫色のドラゴンが。
「形を見るに、どうにも私はソレが自分の性器に似ているとは思えません。試す必要ないと思うんですが……」
「偏見は良くないよ悠助くん。実際に僕が使って似てるって思ったんだから、見た目はともかくドラゴンペニスには悠助くん要素あるよ」
あってたまるか。
「ともかくあの、これを貴方が使うのは嫌というか……一時的な性欲処理に使うだけなんですから、さっきの肌色のディルドがあれば良いじゃないですか。隆臣が好きなところとかちゃんと教えるんで」
「なんか悠助くん、このディルドに対して当たり強くない? どうして?」
「いやどうしてって……」
「ドラゴンがそんな刺さんなかった?」
「刺さる刺さらないの話ではなく……」
「まぁ悠助くん自体はどっちかっていうとエルフとかそっち系だよね。森の賢者、みたいな。でもそれはそれとして、ドラゴンって格好良くない?」
「違うんですよ隆臣。ドラゴンだとかエルフだとか、種族の話をしてるんじゃないんです。世界線の問題で……」
「はっ……もしかして悠助くんロボ派!?」
「違う世界線ってそういう意味じゃない!」
すっとぼけにすっとぼけを重ねる梶に、私の声のボリュームも段々と馬鹿になっていく。逆に聞くが私がロボ派だったら何だというのか。トランスフォーマーとのコラボディルドでも買ってくる気か。買ってきそうだ。梶隆臣とはそういう人間である。
無論だがいま私は自分の趣味嗜好に反するからドラゴン型のディルドを拒絶しているわけではないし、私の心躍る対象が幻獣か人工生命体かなど、ディルドを前にすればどうでも良い情報に違いない。
問題なのはこの人体から明らかにかけ離れたデザインをしているディルドが、私が自身の中に入っている時の感覚に似通っていると梶が判断した一点のみだ。十中八九彼の勘違いだとは思うものの、こんな凶悪な形をしたものと私とのセックスに共通点があるというなら、それはそれで梶が私との行為に過剰な負担がかかっている可能性だってある。この数週間いつも以上に彼を求めてきた自覚もあるため、肉体的な疲労が溜まり正常な判断が取れなくなっていてもおかしくはなかった。いや読者諸君の言いたいことは分かる。どう考えたっておかしくないことは無いというか全体的に全てがおかしい。ただそんな違和感をいちいち上げ連ねていては梶隆臣との交際などカロリー消費がとんでもないことになってしまうので、私はドラゴンに至った梶の心理的経緯は「あーう
ん隆臣ですね」と一旦流すことで困惑を断絶した。
人間どれだけ深く相手を懸想したとしても完全なる相互理解など所詮机上の空論である。私に出来るのはせいぜい恋人の奇天烈発想を疲労による一時的な錯乱と仮定することくらいであり、あとは彼に強いてしまった数週間の無体を詫び、彼の手からドラゴン型のディルドを奪い取るのみだ。
「あのですねぇ隆臣」
努めて冷静を保ち彼に語りかける。梶は「ん?」と首を傾げ、スマホを持っていない手で「なぁに悠助くん?」と私の手を握った。可愛い。愛しさ満点のムーブだ。どうしてこの可愛さがただ可愛いまま持続してくれないのだろうかとネオンが光るスマホ画面を尻目に思う。
「いやあのですね、そりゃぁね、ドラゴンは格好良いです。男のロマンで年齢を重ねても永遠の憧れだと思います。ただ、だからといって私はドラゴンの下半身に特別な感情があるわけではないですし、まして下半身のごく一部をドラゴンに例えられたって何を思うわけでも無いんですよ」
ここまでは分かりますか? と確認を取る。梶は瞼の薄い一重をよりくりくりとさせ、「うーん?」と困ったように私に笑いかけた。
嘘だろもう分かってもらえないのか。こんなに遠いことあるかよ俺たちの相互理解。
「えーと、じゃぁ順番にいきましょう。ドラゴンの上半身と下半身だったら隆臣はどちらを魅力的に感じますか?」
「ドラゴンの下半身って蛇とゴジラの中間みたいで格好良いよね」
「凄いなもうお手上げだ」
初手から前提が崩れ落ちる。そうか世の中にはドラゴンの下半身に焦点を当てて憧れる人間も居るのか。ドラゴンといえば凡夫な私は鋭い牙や大きな翼に憧れが集中するものを思い込んでいたが、想定の範囲外だった。ドラゴンは下半身も魅力的らしい。カルチャーショックだ。世界は広く、梶隆臣は私の常識を軽々と飛び越えていく。なんで俺はコイツに惚れてしまったんだろう。
「いやっ……あぁもう、じゃぁ私の主観と主張を聞いてくださいっ。私はドラゴンのことはそう嫌いでなくとも、自分をドラゴンに例えられたら困ります」
「えっなんで!?」
梶が目を見開く。そんな素で驚かないでほしい。そんな調子で返されたらこちらも『えっ本当に好意で例えてたのか!?』と素で驚いてしまう。
「反応に困るんですよそんなこと言われても!」
「でもドラゴンだよ!? ドラゴンに例えられるとか嬉しくない!?」
「場合によるし、今回に関しては全く嬉しくないです!」
「なんで!? ドラゴンなのに!?」
「部分的に似てるってむしろ嫌ですよ! だったらまだ似てない方が良い!」
「でもっ───でも、ドラゴンだよ!?」
「でもちんこだろうが!!!」
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゛ア゛ア。
ついに言ってしまった。ちんことか絶対言いたくなったから懸命に回避してきたのに。これでも良い家の出身で通っているのに。言ってしまった。ちんことか。あぁくそ最悪だ。けどもう吹っ切れたから開き直ることにしよう。何なんだよドラゴンペニスって。
「とにかく! 私はこんな異物を体内に挿入するなんて反対です。ていうか、貴方なんてもの買ってるんですか! 馬鹿でしょこの形は!」
「ばっ……! だ、だって色々試してみなきゃ分かんないじゃん! 僕悠助くんのちんこ以外知らないんだし!」
「分かるでしょ大体形見れば! 私だって意地悪で言ってるわけじゃないんです。貴方の身体が心配だから言ってるんです。もっと自分の身体を大切にしてください、こんなもの使って腹の中がおかしくなったらどうするんですか!」
「いっつも僕の中に同じようなもの挿れてる人が何言ってんの!」
「挿れてないんだよ同じようなものは!」
何をトチ狂ったことを言われているのか分からないが、私が梶に日々挿入しているのは私に自生する人間の男性器である。少々右曲がりだが一本軸で血色も良く、サイズ感も平均より長めとはいえおおよそ常識の範囲内だ。断じてドラゴンペニスではない。私は大真面目に何を言っているのだろう。
「百歩譲って! 私のブツと同じものというならコレでしょ!」
そう叫んで私は先程梶が提示したディルドを指差す。人間の性器を模した肌色のソレは、今に限っては聖遺物のように神々しく私たちを導く存在のように思えた。何が悲しくてディルドを自分のブツに例えなくてはならないんだとゲンナリするが、こうでもしなければ私のブツはドラゴンペニスにされてしまう。ことは一刻を争い、私はなりふりなど構っていられなかった。
ヒューマンペニス(なんだこの表現は)に視線を向けた梶は、しかし不満げに唇を尖らせると「だってさぁ」と何やら管を巻き始める。
「それもけっこう悠助くんっぽいし、実際使ってみたら大分気持ち良かったんだけど……そいつはなんか、逆に使ってると虚しくなってくるんだよね。見た目も人間っぽいから、悠助くんが居ないって妙に実感するっていうか」
「そっ……」
「僕は悠助くんとヤれないのが寂しいから代用品を探してるわけじゃん。なのにもっと寂しくなったり、悠助くんに会いたくなったら意味ないでしょ」
「何でこの場に及んでそんな可愛いこと言うんですかうっかりドラゴンの肩持っちゃうじゃないですか」
あざといが人の皮を被って話しているかのような発言である。成人した男がそんな可愛いこと言うなよと一瞬梶に呆れかけるも、この場で一番話にならない存在は成人した男に可愛いを連呼する己であると気付き、私は急にしょっぱい気持ちになって言葉を飲み込んだ。
いつから自分はこんな性分になったのだろう。かつては好意と嫌悪の境界線さえ曖昧な面倒臭い人間だったはずだが、こと梶隆臣と関わり始めてからの私といえば、彼に対して「わー可愛い好きー」と幼稚園児もかくありきな態度を取り続けている。かつての自己評価など見る影もないし、立会人としての地位が揺らがなかったことだけは評価できるものの、そこに神経を使いすぎてネット仲間たちには【ダミアン氏って恋愛するとⅠQ一二〇くらい下がるよね。今のダミアン氏ほぼサボテン】と酷評を受ける始末だった。
【いやでも一二〇下がってもまだIQが残ってるって凄いことだよ】【そうそう。世界一幸せなサボテンだよダミアン氏は】とネット仲間はサボテンと化した私にも温かい目を向けてくれていたが、その優しさに胡坐をかいた結果が本日のドラゴンペニスだ。どこから後悔したら良いのか分からないが、多分梶隆臣に弥鱈悠助という人格が惚れた段階から歯車は狂っていたのだろう。最初からか。最初からだ。つまり後悔しても全ては無駄ということである。最愛なのは認めるからドラゴンペニスを持ってそんなキラキラした顔をしないでほしい。
「……確認なんですけど、そのドラゴンはまだ確定ではないんですよね?」
「うん。悠助くんのと比較して、本当にそっくりだったら始めて本採用」
「本当に、私のブツと感覚が違ったら手放してくれるんですね? 思ったより具合が良かったからって内緒で愛用とかはしませんよね?」
「しないって。だから言ってんじゃん、これ悠助くんの代理なの。スペアだよ。スペア悠助」
「はぁ。分かりましたよもう……」
ぐったりと項垂れ、私はついに白旗を上げる。
梶は「いえーい」と歓声を上げ、手にあったドラゴンペニスを胴上げしていた。空に舞い上がるドラゴンペニス。我が家の白い壁紙に紫色が異様に映え、私はこの光景をきっと異国の地で悪夢として繰り返し見るのだろうと思った。
「やっぱり無理にでも詰め込んでいこうかな……」
私は既にパッキングが完了したキャリーケースを思い、中の空洞をどこまで増やせるか計算する。もっと大型のケースを急いで手配すれば、細身の梶くらいならどうにか入るのではないか。ほぼサボテンと化している私の頭はそんな意味のない試算を繰り返し、その間にも梶は、「じゃぁ準備してくるね」とにこやかに微笑んで浴室へと消えていくのだった。
※※※
ベッドにはTシャツを一枚羽織っただけの梶が居て、丸出しの下半身をローションまみれにしてにわかに呼気を荒げている。私のブツと淫具の両方を試すことになっていたが、挿入の順番はオモチャが先だといって梶は譲らなかった。いわく、私との行為を済ませた身体は、過敏になりすぎて何を突っ込まれてもどうせ感じてしまうからだそうだ。
日頃は二人で行う慣らし作業も、梶は今回一人でおこなっている。「悠助くんが居ない時にすることなんだから悠助くんが手伝ったら意味ないでしょ」ということで、確かにその通りなのだが、目の前で繰り広げられる恋人の痴態というのは中々に目の毒だった。
「触りたいんですけど」
「ダメ」
「では頑張っているので、頭を撫でるだけ」
「ダメだって。そんなん、ちょっとでも触られたらダメだよ。ちゅーしたくなる」
「すれば良いじゃないですか」
「置いてく自覚持ってよ。もう」
梶は顔をムッとさせ、最初に肌色をした人型ディルドにローションを垂らす。過剰なほど人工物を濡らした梶は、深呼吸を一つ、ゆっくりと自身の穴に先端を埋め込んでいった。
「んぅ……あっ……うぅ……」
眉間に皺を寄せ、ゆっくりとディルドを飲み込んでいく。はっはと呼吸を荒げ、随分苦しそうに挿入を進める姿は少し可哀相だとさえ思った。
「それ本当にサイズ合ってます? ちょっと大きすぎるんじゃないですか」
「んぐっ……あ、ってると……思う……圧迫感同じ感じだし」
「でも普段の貴方、ここまで苦しそうじゃないですよ」
「そりゃっ……違うよそんなの。同じ大きさでも」
「そうですか」
「違うよ」
「……抱きしめたいんですけど、一度私を挟みません?」
「だめっ……あ、あ、……だめ……お願い、悠助くん、喋んないで。声あるとダメ。頭でろってなっちゃう」
目を固く瞑り、私の存在を外に追いやろうと梶が躍起になっている。私の見ていないところで試した時はもっと苦しかったのだそうだ。セックスというのは、なにも身体の感覚だけが全てと言うものではないらしい。私の声や体温が彼の快楽にブーストをかけていた事実が、改めてほのめかされるとたまらなかった。
ろくすっぽマトモな恋愛経験もなく成人してしまったからか、今になって我々は学生のように浮ついた恋に身を投じている。周りが「意外」と口を揃えるくらいマメに逢瀬を重ね、一緒に住めば少しは落ち着くかと思われた好意も、なんだか「いってらっしゃい」「おかえり」を言われるたびに新しい薪をストーブにくべられているようだった。
いつもは挿入時に笑顔を作る余裕まである梶が、体感は同じサイズだという作り物にこうも四苦八苦していると、ガラでもないが私の頭には『セックスって心でするもんなんだなぁ』などという気色の悪い感想がつい浮かんでしまう。心で抱きあう、とでも表現しようか。なんというか、今日び少女漫画でもお目にかからない語彙群である。それを我が身で実感しているかと思えばゾッとするし、しかし同年代の梶がそのような状況に陥っているのは間違いなく可愛らしい。
惚れた弱みか、可愛いは正義か。どちらだろう。どちらであっても私の過去の感覚からは逸脱していた。
「喋るのダメって……無理です、そんなの」
「っ……! ぁ、あぅっ、ぁっ……!」
「普段と体の使い方が違うから苦しいんです。ゆっくり息をして。力を抜いて。もう少し、腰も持ち上げましょう。楽に入るから」
「あっ、あっ……! これ、っ、あ、……ゆうすけくん……!」
「上手です。先程よりも楽そうだ。良かった。貴方が苦しいのは嫌です」
「ゆうすけくんっ……やぅ、う、ぅあっ……!」
梶の身体が弓なりにしなり、ディルドが根元まで彼の中に入りきる。とろんとした彼の目から苦悶が消えていたので、まずは安心した。
「やみくもに挿れたらいくら解していても痛いですよ。一人遊びをするなら今の感覚を覚えておいてください。多少は負担が減ります」
「悠助くん……僕より僕のケツに詳しい……」
「まぁ素体は貴方ですけど、アレンジしたのは私なんで」
「下ネタだ」
「この状況でネタに上も下もありません」
なんといってもアナルにディルドが突き刺さっているのである。比喩など使わずとも、状況だけで全ては問答無用に下世話な話題であった。
一仕事終えた梶はシーツにゴロンと横になり、尻に深々と異物が刺さったまま呼吸を整えている。みちみちに拡げられた穴は淵が赤く充血しており、筋肉の薄い腹は、僅かばかり表面が異物の形に盛り上がっていた。
「動かすんですか、これを」
「え? そりゃ動かすよ。挿れただけじゃイけないし」
「腹が破れそう」
「変なの。昨日だって自分が僕にしたことなのに」
くつくつと梶が笑う。そうすると中の存在感が増すのだろう、梶は一瞬息を詰め、眉間を寄せて異物をやり過ごしていた。
「……隆臣は、」
「うん?」
「その、普段の、私との行為は苦痛ではないですか」
ズルい聞き方である。分かってはいたが、今の私にはこんな聞き方しか出来なかった。
私のものに近いという形を飲み込んで、梶の腹はいびつに歪み、呼吸の妨げにさえなっている様子である。先程冗談のつもりで書いた『日々の行為が彼の負担になっていたのかもしれない』という一節は、案外的を得ていたのかもしれなかった。
おそらく元来ハの字をしている私の眉は一層情けない形になって、梶は勝手に一人で思い悩み始めた私を見て『しょうがない人だなぁ』とでも思ったことだろう。触らないで、と再三私に伝えてきた梶が身体を起こし、私の唇に軽く触れた。ちゅっと小さなリップ音が立ち、私がもう一度唇に触れようと彼を追ったところで、梶の手が私と彼の間に壁を作る。
「だめ」
「どうして」
「悠助くんとヤるのが好きだから」
「苦痛ではない?」
「うーん。なんていうかさ、『苦しい』とか『痛い』と『嫌い』は違くない? どうでも良いって感じかも。ちょっと苦しいとか、痛いって思うことがあるって。悠助くんとヤれるんなら」
「そうですか」
「あ、ていうか話の流れではそういったけど、別に最近は痛いとかは無いよ? 最初ね、最初。一番最初の何回かだけ。今は気持ち良いだけ。全部僕の好きなことばっかり」
「はぁ」
「ほんとに全部気持ち良いよ。大好き。これからも沢山しようね」
「はぁ……あの、分かりました、分かりましたんで。それ以上は止めてください。今すぐ抱きたくなる」
「ダメだよ何言ってんの。今からはディルドのターンだよ」
「そういう所は本当に頑なだな貴方は」
今の流れは何につけてもとりあえず私と睦合う展開ではなかったのか。すっかり出来上がっている私の下半身に視線をやった梶は、「まだだよ」と出番を待つ私の愚息に声をかけて自身に埋まった人工物に手を伸ばした。後ろ手にディルドをがしりと掴んだ梶は、私に目を流し、『そこで見ていろ』とばかりに濡れた瞳を細める。
ず、と音を立ててディルドが梶から引き抜かれていく。梶の喉が仰け反り、口からは嬌声と悲鳴の中間のような声が漏れた。
「は、はっ、ぅ、……ぁっ……」
硬く目を瞑り、半分ほど引き抜いたところでまた中に埋め込む。自身の感じる所を探るように角度を少しずつ変え、梶の手が一定の速度で律動をはじめた。
「っ、……っく、ぅ……、ん、……ん……」
「………」
こんなに梶の喘ぎ声は慎ましやかだっただろうか。確かに快感は滲んでいるものの、吐息に色がついた程度の声量は普段と比較すれば半分ほどのボリュームしかない。まだ体が昂りきっていないだけか、それとも自慰行為を見せつけることに多少なり抵抗があるのか。多めに仕込んだローションが無駄に立派な水音を立て、寝室にはぶちゅぶちゅと下品な音だけが響いている。このディルドのセールスポイントは確か『奥に当たると良い感じ』だったと思うが、梶は最初以降ディルドを三分の一ほどしか中に入れず、浅いところを控えめな動きで穿つだけに留まっていた。
「奥を突くと気持ちが良いって言っていませんでしたか?」
「ふ、ぅ………んっ……」
「貴方、私が浅いところばかり責めていると怒るじゃないですか。もう少し押し込んでみては?」
「っ、や、っ……おく、は、はず……かし……」
「えぇ今更……恥ずかしいとか今更ありますぅ? もう十分痴態は晒してますよ」
「っ、ん、ぅ……」
「見せて。ほら、さっさと奥突いてくださいよ」
尻を突き出す格好でいる梶の腰に手を乗せ、猫を愛でる時の要領で尾てい骨の上をトントンとタップする。これくらいの接触はノーカンだろうとタカをくくる私に反して、梶は本物の猫のように尻を震わせ、ガクガクと笑っている足で更に腰を持ち上げた。
「ふぁ、ぁ! ゆ、すけくん……!」
眼前に一人遊び中の尻が迫る。快楽で淵が伸縮を繰り返しており、ディルドは肉の蠢きに連動して勝手に上下運動していた。さぞや中は居心地が良いことだろう。無感覚の身で梶の肉を甘受しているディルドに腹が立ち、私は無機質に対して『お前は良いよな、中に入れて』などと馬鹿げた嫉妬を向けた。
梶の手がディルドを掴み、言われたように徐々に奥へとディルドを押し込んでいく。太い杭が進むたびに梶からは声が漏れ、大人しかった声量も次第に大きくなっていった。
「やっ、やぁ! あっ、んぅ! ぁ、んきゅ、きゅ、ぅ……!」
「きゅぅ。きゅうだって。ははっ。可愛い」
小動物の鳴き声みたいだ。グロテスクな淫具を腹いっぱいに詰め込んで、梶は真っ赤な顔ではふはふと荒い息をしている。奥の好きな場所に先端が当たっているのか、梶はディルドを前後ではなく上下に小刻みに揺らしていた。梶の身体に私がよくやっている動作だ。彼が動きを覚えていたことも、その動作を自ら己の身体に施していることもグッときた。
「はっ、はぁ、んっ。んっ、んっ、っあ、あぅ、あっ」
「どうですか? 私と似てます?」
「っ! ゃ、あ! アんっ! ひぅっ、そこ、ダメっ……!」梶の足がピンと伸びる。快楽が増した合図だ。
「そこって? ダメって、私は今何もしてませんよ。貴方が自分で動かしているんです」
「やああ! だめだめっ……! 奥ぐりぐりっ、きもちっ、アッ、あん! あぁンッ!」
顔をシーツに埋め、梶は頭を振り乱してディルドを動かしていた。ダメ、激しい、と泣き言をいう彼は、既に頭の中で私の相手をしているのかもしれない。脳内にいる私に責め立てられているつもりで、自分でおもちゃに手を伸ばし、嫌だやめてと口にしながら手は容赦なく自身の中を掻きまわしている。
官能などという文学的な表現よりは、シンプルに『エロい』と言った方がしっくりくる痴態だった。下品で必死で、信じられないくらい可愛くて興奮する。
「隆臣、まだ?」
「ひゃ、ァあ! あんっ、おくっ、ゆうすけくんもっと! もっとえぐっ……っ、あ、あ、ア! ダメっ、ダメ……!」
「隆臣。俺、やってない。触ってない。まだですか? 貴方に触りたい」
「ぅう! っひゃ、あぅっ!」
「触りたい」
口の中に唾液が溜まり、下半身は確認するまでもなく大惨事になっていた。いい歳した男が酷いザマだ。情けない気持ちを抱えてまだ? と彼の名前を呼ぶ。私が声をかけるたびにビクンっと梶の身体は跳ね、大袈裟に内腿が震えた。
ディルドの動きが前後運動に変わる。絶頂が近いらしい。片手で体を支えていた梶が、その手をシーツから引き抜き、自身の性器へと伸ばした。自重を肩で支える形になり、梶の顔がマットに深く沈み込む。くぐもった声を発し、梶がひときわ大きく仰け反った。
「ぁ、うぅっ、っうン───!」
釣り上げられた魚のように梶の身体が二,三連続して跳ねる。イったらしい。ぜぇぜぇと荒い呼吸をして、梶の体勢が崩れゴロンとシーツに仰向けになった。梶の性器は未だに勃起しており、下腹部には射精の痕がない。先程性器に伸ばされた手は射精を促すためではなく阻害するために伸ばされたものだったらしく、梶の手が、性器の根本を強く握り込んでいた。
「え、出さずにイッたんです?」
「ぁ、……だっ、て……出しちゃうと満足しちゃうから……」
ずるずると自身の体内からディルドを引き抜き言う。どうやら賢者タイムに入ってしまうと再検証までの時間がかかるため、ドライで時間短縮を図ったようだ。荒業すぎる。そりゃやってることはオナニーなので興奮が冷めてしまうことは避けたいだろうが、だからといって寸止めプレイを自らに課すとは。
「で、ここで私が? 貴方に? 入って良いんですっけ?」
「うん。形覚えてる内に……あ、でもイかせないでね。今は三回くらい動かしたら出てって」
「え」
「後ろ順番待ちしてるんで」
「え」
順番待ちってまさかドラゴンのことか? 私はあの紫二股ファンタジー性器の為にせっかく挿入した自身を三回擦ったら退出させなくてはならないのか? 我が愚息ときたら既に我慢汁でだらっだらなのに? どういう仕打ち?
軽い絶望を覚えながら部屋着に手をかける。表面は黒いスウェットだったため分かりにくかったが、ズボンを一枚脱いでみると、下から出てきたのはフロント全体に巨大な染みを作ったボクサーパンツだった。さすがに同じ黒でも、布地が薄いので濡れた部分が一目で分かってしまう。いたたまれない。釘付けになっている梶の視線を肌で感じつつ、私は気付かないフリをして下着をおろした。愚息が勢いよく飛び出し、反動で上下にバウンドする。やっぱりいたたまれない。梶が「わぁっ」と歓声を上げた。
「うわ、わ。やっば。てっかてかじゃん」
「はぁ。誰かさんが目の前でエンターテインメントかましてくれたんで」
開き直ってブツを梶の顔に寄せる。彼の目がとろんとした。
「わ、わぁ……でろでろ……においも………ちょっと舐めて良い?」
「あーもーぜひぜひ」
軸に梶の舌が滑る。陰茎にまとわりついていた体液を丁寧に舐めとり、梶がかぷ、と先端を銜えこんだ。口の中は唾液が多く、ぬるま湯に浸かっている気分になる。舌が亀頭を舐める。新たに汁が滲みだすと、梶は待っていられないとばかりにぢぅ、と鈴口を吸いついていた。
「んんっ、しょっぱ……」
喉が動き、梶が一言感想を添える。でしょうね、としか思わなかったが、梶はハッとした顔で「や、でも味わい深い塩味でした」と付け加えた。別に我慢汁の味が不味いからといって私の自尊心が傷付けられることはないのだが、変な気遣いが面白く、私は含み笑いで彼をシーツに倒す。
十分に解れた穴が私を待ち構えている。一応コンドームをつけて先端を押し当てると、梶がぶるりと身震いをした。
「ぅ、あつ、い……」
「まぁ私恒温動物なので。ディルドと違って体温はありますね」
「あっ、あつ……やば………はぁ、ぅ……」
「埒が明かないので勝手に挿れますよ~」
「っ! うゃ、ん! んー!」
くぷん、と先端が入り、そこからはするすると茎が中に入っていく。同じような太さのもので十分に拡げられた胎内は、腹立たしいことに、熱い肉がねっとりとまとわりついて最初からひどく私好みだった。
「あっつ……よく私のこと熱いなんて言えましたねぇ? 貴方の中の方が、よほど温度が高いじゃないですか」
「んんっ……は、ぅ……! んっ、ぅ……!」
全て埋め込み、彼の身体を抱き締めて反応を見る。梶は中の感覚に集中しているのか、私の言葉には返答せず、代わりに足を私の身体に絡みつけてきた。手も私の背中に回る。密着した部分が心地よく、このまま二人の体温が混ざり合って、境界線など無くなってしまえと思う。
「───あっダメだこれ。無理。三回耐えらんない。イっちゃう。もう出てって」
「俺そろそろ平手くらいは出しても良くないか?」
そう思っていたのは私だけらしい。なんなんだ。お前は本当に一体なんなんだよ梶隆臣。
今まで感じ入った顔で私を堪能していたはずの梶が、急にギャンブル中のように凛々しい顔になって私に退出命令を下してくる。多分彼が言うように本当に彼の身体は限界で、このままではたった三回の律動にも耐えきれず達してしまうのだろう。真面目かつ地味に融通が利かない男なので、目的を果たすために快楽堕ち寸前の身体に鞭を打って私を拒んでいるのだった。いやもう堕ちてくれよここは快楽に。なんでそこまで一度決めた流れを守ろうとするんだよ。何がお前をそこまで狩り立たせるんだ。目的を果たすったってこの後に待ってるのはドラゴンペニスじゃねぇか。
あーもうやだ暴力に訴えたーいと文句を垂れる私に、梶はフフッと笑って「出来ないくせに」と片方の眉を上げてくる。たかだか一般人相手に喧嘩で勝てる程度の人間が、倶楽部賭郎立会人の私に対して、だ。まったくこの男をここまで甘やかした野郎は一体どこのどいつだ。私か。
「えーもう良くないですかドラゴン。さっきのディルドと今入ってる私、そこまで大差はないんでしょう?」
「いやぁ案外違うかも……悠助くんとさっきのじゃ肌馴染みが段違いっていうか」
「人工物と天然の違いでしょそんなの」
「いや分かんない。まだ」
「人型のちんこでも肌馴染みしないくせに人外のちんこが肌馴染みするわけ無くないですか?」
「でも悠助くんのちんこって働きっぷりを考えるとけっこう人外寄りじゃない?」
「………よいしょっ」
「っうぐ、ん! ちょ、あ、ちょっと! ぁ、あ! 待って! ほんと動かないで!」
ぐり、と奥を抉ってやれば不意打ちの刺激に梶が喉を仰け反らせた。咄嗟に自身を握って射精自体は阻止できたようだが、梶はじわりと快楽の涙が滲んだ目で私を睨みつける。
「抜いて!」
「はいはい。ア゛ーもう。これが再録からって取れ高気にしすぎだろ」
「おいやめろそういうメタ発言!」
精液の代わりに裏事情が少々飛び出してしまったが、まぁそんなことを言っていても仕方がないし、なんなら今の時点で予定していた文字数上限は大幅に超過している。皆々様もそろそろスクロールがかったるくなってきている頃だろうしサクサク行こう。
梶の腰を掴み、私は後ろ髪を引かれる思いで自身を彼から引き抜いていく。全てが相手の言う儘というのも癪だったので、抜く時は彼が感じる所を意識的に擦りながら一気に腰を引いてやった。梶から嬌声が漏れ、足の先がピンと突っ張る。それでもギリギリ達することは阻めたらしく、息を荒げた彼は「どうせそうやってすると思った。意地悪!」と私をなじった。
「そんな意地悪な人間のちんぽが好きなのはどこの童貞ですかぁ~?」
「僕が好きなのはちんこじゃなくて本体ですぅ~。あと童貞って言うなよ。そっちだって処女のくせに」
私の処女は事実だがそれは対等に戦える反論なのだろうか。
不思議に思いながら、私は彼よりも先にシーツに転がった異物に手を伸ばした。元々『不思議な生き物だなコイツ』という認識でいた梶隆臣を、本日『いよいよ本当に訳分からないなコイツ』にまで昇格させたブツ、ドラゴンペニスが私の手の中に収ま─────りきらずに、グロテスクな見た目を眼前に堂々と披露していた。
改めて全体を観察すると顔が引き攣りそうになる。なんだコレ。頼むなよこんなもの。全体が紫色してるんだぞ。いやまぁ、色はこの際どうでも良い。細事だ。しかしその他の要素はどうしても看過できない。
まずなんだ、この鱗は。この挿入において全く関係無さそうな鱗はどういう意図で張り付けられているんだ。リアリティを出すための職人の手間か。ドラゴンの性器に対してリアリティってなんだ。
次にこの竿のうねり。周囲についているこぶのような突起も気になるが、とくにこのスパイラルな形状が気になる。決して人体では再現できない形をしているが、自分がドラゴンに侵されているというシチュエーションに酔いたい人間には、この非日常的な形状こそ好ましく思うのだろうか。異形に興奮する人間がこの世の中に居る分には問題ないが、私の性器の代わりに選出されたディルドがうねっているのは大問題である。確かに私は己の性格が歪んでいると自覚しているが、性器は少々右曲がりなくらいで基本は真っ直ぐ一本軸だ。断じてうねってはいない。
そして最後に、先端の二股。
これに関してはもう、なんだ。なんといえば良いんだ私は。誉と思えば良いのか。侮辱だと受け取るべきなのか。私としては侮辱だと受け取っているが、梶の性格を鑑みるに彼は純粋に私の性戯への称賛としてこの亀頭を選択しているに違いない。「先っぽが分かれてるのかってくらい色んな所たくさん気持ち良くしてくれるから嬉しい」くらいのポジティブな気持ちが込められているはずだ。だとしたら私がすべき返答は多分「ありがとうございます」か「光栄ですね」である。光栄ですね。自分の亀頭が二手に分かれていると言われて「光栄ですね」。申し訳ないが私は私の気持ちに嘘はつけない。そんなことはおべっかでも言えない。何故なら微塵も光栄に思えないからだ。裂けてねぇんだよ俺のちんこは。
「ゆうすけくん……」
梶から恨めし気な声が上がる。熱っぽい視線を私に注ぎ、ディルドを手にしたまま動かない私を、梶は焦れた様子で見つめていた。
「はやく、貸して。後ろ切ない……」
「あぁはい、すいません……最後にもう一度聞きますけど、本当にこちらも試すんですか?」
「……悠助くんがさ。長期出張しないなら、僕だってそんなのすぐ捨てたって良いんだよ」
うぐ、と言葉に詰まる。
「や、その……」
そうなのだ。梶の行動が斜め上すぎて色んな前提を忘れてしまっていたが、思えばこれらのディルドの事の発端は、私の表の仕事に由来する長期出張である。元々恋人に無理を強いてしまったのは私の方で、梶は私の仕事の邪魔をしないようにと健気に試行錯誤した結果、創意工夫のタガが外れてドラゴンペニスを手にしてしまったのだ。
「馬鹿な事やってるなぁって思われてるのかもしれないけど、僕だって必死なんだよ。分かる?」
「えぇっと……」
そう真摯な表情で訴えられても、だからといってドラゴンに辿り着いた心境はやっぱりちっとも私には分からない。ただこの空気で「分からない」を言ったら終わりということは分かる。私は隆臣との諸々を終えたくはない。
「あの……その、先程から心無い発言を続けてすいませんでした。どうぞ」
「ん」
分かればよろしい、といった顔で梶が紫色のディルドを受け取る。黙っていればそれなりに凛々しく整った顔立ちの彼は、重々しい表情でディルドにローションをまぶし、念入りにディルドへと刷り込んだ。ローションにまみれたドラゴンペニスは鱗の一枚に至るまで神々しく光り輝いている。こんなに下劣下品な輝きがこの世に他にあるだろうか。
「んっ………」
いよいよ梶の穴に二股に分かれた先端が宛てがわれる。変な風に引っかかって梶の穴が真っ二つに裂けたらどうしようとハラハラしながら見る私の目の前で、梶はぐっと息を飲むと、勢いをつけて両端の亀頭を挿入した。
「ふぁああああああ♡♡♡」
おいちょっと待て。
「え、ちょ、隆臣?」
「あんっ♡ あぅっ! うぁ、んっ♡あっ! あっああっ♡♡ はぁうっ、ん♡♡♡♡」
「あれ、なんかさっきと反応違いすぎません?」
さきほどのディルドに手間取っていた彼は幻だったのだろうか。十分に後ろが解れていることやドライオーガズムによって体が敏感になっていたなど理由はいくつかあるだろうが、それにしたってドラゴンペニスを挿入した途端、梶は甘ったるい声を垂れ流し、ディルドを掴んだ手をでたらめに動かし始めた。語尾にはハートマークが飛び散り、顔は既に快楽で蕩けている。だらりと口の外に放り出された舌の先からは、飲み切れなかった唾液が伝ってシーツに落ちていた。
「あっぁ、アッ! ……ッ、♡♡あぁッ♡♡ふ♡♡ぁア、あんッ♡ンん、ふぅっ♡♡……」
「待って待って待って。え、ちょ、そんなに? そんなに乱れる? ドラゴンで?」
「だっだってぇ♡♡ これ……♡ あ、ん!♡ ッ、これっ……! やば、やっぱ、ゆうすけくんだっ♡♡これ♡♡ゆうすけくんだよっ♡♡♡」
「違いますって」
「そうだもんっ♡ん、ぁ、あ、あッ!♡ なかっ、きゅんきゅんするっ♡きもちっ♡♡んァ、ア!♡♡ ゆうすけくん♡♡ゆうすけくん♡♡」
「だからぁ!」
気付けば声を荒げ、梶の手からディルドをふんだくっていた。ぬらぬらと光るそれを今後の掃除など一切配慮せずに怒りのまま壁に叩きつけ、相変わらずドギツイ紫が壁の白に映える一部始終を確認したのちに梶の腰を引っ掴む。そのまま放置をくらいにくらいまくっていた自身の性器を、私は彼の中にえいやと埋め込んだ。
「んあああああ!!♡♡」
梶が背中を反らせ、不意打ちの刺激に勢いよく射精する。寸止め続きだった身体にいきなりの挿入は刺激が強すぎたらしい。ガクガクと身体を揺らす梶を支えながら、正直ドラゴンより己の挿入のほうが反応が良かったことに安堵した。
「な、なんでいきなり挿れ……っ! あんァやあぁッ♡♡♡アんぁあんんッ……!? ッ!♡ あ、あんっ! んっ! やぁっ♡待っ、て! そこダメッ♡♡」
達したばかりの身体に間髪入れずにピストンをかける。悲鳴じみた嬌声を上げて梶はシーツに沈み、私に捕まれた腰だけが高々と浮いている状態だった。中の肉がずっと痙攣している。出したばかりの梶の性器は再び硬度を取り戻し、律動に合わせて揺れていた。きっとすぐにまた射精するだろう。存分に私のもので善がり狂っていただきたいものである。ドラゴンなどではなく私の身体で。いやあの本当に、色んな意味で私の為に。
「ねぇどうですか!? 違うでしょ!? 全然違うでしょ!? ねぇ!」
「やだやだっ♡♡はげしっ……! あ、あ、っ! 待っ……! ヒ、ぁ゛ッ!♡♡ やら゛ぁアッ♡♡♡ ン!♡ そこされるとイっちゃう!♡」
「違うって言ってくださいよ頼むから! いや本当に! 切実に!」
「違いましゅ♡♡ゆうすけくんのちんぽが一番♡ぜんぶ負けちゃう♡どらごんなんかどうでも良いです♡」
「……そういう意味で言ったんじゃないけどまぁもうそれで良いです!」
「いやっ、やあああ゛あ゛!♡♡♡ イ、って……! イってりゅ♡♡許して♡ずっと悠助くんのでイってるから゛ァっ!!♡♡♡」
頭を振り乱して梶が叫ぶ。あくまで私は幹がうねり先端が二股に分かれたドラゴンディルドが己と異なった形であることを示したかっただけだが、なぜだか途中から梶は「ドラゴンより凄い」とうわ言のように繰り返していた。なぜか異形ちんこに勝ってしまった。それはそれで名誉なんだろうか。分からない。下半身に血が集まりすぎて思考に回せるだけの血流が確保できない。とりあえず涎と涙でぐちゃぐちゃの梶に興奮したので、私は彼の口にかぶりつき、熱で溶けそうになっているお互いの舌を絡ませた。
「んむ♡♡んぅうう♡♡ぷぁっ♡あっ♡つばおいしっ♡もっと飲まして♡」
梶が舌を突き出して私を誘う。茹だった彼の頭からは完全にディルドを探し求めていた経緯は消し飛び、今は私とのセックスで脳内がいっぱいになっているようだった。キスも唾液の交換も勿論ディルド相手では出来ない。声を掛けるたびに舌を吸ってやるたびに、中を締め付けてくる梶に、はたして本当にディルドだけで満足できる夜なんてあるのか。
「ふぅっ♡♡あっあァ♡♡あ゛ッ、ッふアッや゛ッ……♡♡♡♡あー! イく! またイく! ゆうすけくんっ♡♡♡」
「っ、やっぱり……! こんな人置いてくの無理じゃないか……!?」
「やだやだおいてかないでっ♡イってるの♡きもちくておかしくなっちゃう♡一人にしないでゆうすけくん♡怖いよ♡」
「そうですよねぇ! おいてくなんてダメですよねぇ!」
何から何まで食い違っている会話が馬鹿になった二人の間で交わされる。私が言いたいのはそういうことではないし、梶が言っていることもそういうことではない。しかし肉の欲にどっぷりと浸かった我々はもはや言語コミュニケーションなど図れるわけもなく、口付けを交わし、律動を続け、肉体コミュニケーションに没頭するのみだった。
「っア……! たかおみっ、俺も、もうっ……!」
「んあっアアア! ん! イって! ゆうすけくんも、僕でイって♡」
「っ───!」
「ふああああああああ♡♡」
二人の身体が同時に脈打った。私はコンドーム越しに梶の中に射精し、梶は今度こそ触れてもいないのにドライオーガズムに至る。荒い息を吐き、少しずつ私の脳に思考力が戻ってくる。
くったりとする梶を見下ろしながら、私は頭の中で職場の先輩に送るメールの内容を考えていた。
近々の申し出となりご迷惑をおかけするだろうと想像に難くありませんが、
このたび一身上の都合により出張を辞退させていただきたく存じます。
非常識は重々承知しております。
ですが私より教育係に適した人間は世にごまんと居ても、
とある一場面において私の他に私を務める存在など居ないのです。
詮索はご容赦くださいませ。
ご理解いただきますよう、何卒よろしくお願い致します。